検討課題から考える「電子私書箱」のあり方(3):既存のオンラインサービスとの融合が必要

検討課題から考える「電子私書箱」のあり方(2):公的個人認証サービスの安易な採用は避けるべきの続きです。

3.情報の自由な活用

個人が入手した情報を効率的に閲覧できるとともに、本人の意思で自らの情報を自由に活用できる、国民に便利なサービスの仕組みを如何に構築するか。

○電子私書箱を使って、どのようなサービスを行うか。そのためには入手した情報をどのように活用することが必要となるか。
・ 情報の可用性を高め、必要な時に必要な情報を入手し、活用できるような仕組みをどのように構築するか。

★作者コメント:
サービスについては、オンラインによる電子交付など、まずは簡単で使いやすいサービスから始めるのが良いでしょう。こうしたサービスは、現在稼動しているオンライン申請サービスを利用すれば、新たなシステム構築を必要としません。

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情報の活用については、健康管理、医療費管理(税控除申告を含む)、行政参加管理(市民活動やボランティア参加など)、資産運用管理など、本人が様々な分析に使えるようにすると良いでしょう。

○ 個人情報の適切な保護を図る観点からは、どのような点に留意する必要があるか。
・ 情報の活用(流通)時、セキュリティをどのように担保するか。
・ 情報の融通可能性をどのようにして高めるか。その際、情報の加工、編集をどの範囲まで認めるべきか。

★作者コメント:
セキュリティについては、セキュアな通信(SSL、VPNなど)だけでなく、データ自体を暗号化することが考えられます。

しかしながら、本当にセキュリティ効果を高めたいのであれば、個々のデータを暗号化するよりも、人的な障害や事故に対応するべく、データの保存管理やバックアップ体制を強化することが必要でしょう。

情報の融通可能性については、本人の承諾を得た上で、範囲等を決めれば良いでしょう。大切なのは、利用者が現在の状況を簡単に確認でき、設定変更等も容易にできるようにしておくことです。

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4.その他の論点

○民間サービスとして成立するためには、どのような条件が必要となるか。サービスの立ち上げを促すために公的セクター等には、どのような取り組みが期待されるか。

★作者コメント:
電子私書箱サービスが単体で存続するのは難しいので、既存のサービスに追加機能として取り込むのが良いでしょう。

公的セクターにおいては、
・既存の電子政府サービス(電子申請、電子申告など)を活用すること
・少なくとも関連する分野については、縦割りをなくし、情報の連携を実現すること
が必要です。

・ 電子私書箱のサービス開始から拡充に向けて、全体をどのように進めていくか。スタートアップの形態としてどのようなものが考えられるか。
・ 情報保有機関、電子私書箱、利用者の関係をどのように整理するか(当事者間約款の必要性等)。
・ 電子私書箱のサービス提供範囲をどのように考えるか。(ユニバーサルサービスにするか)
・ 事業者間の競争を含めどのようなビジネスモデル、費用負担が考えられるか。

★作者コメント:
電子私書箱のサービス展開については、そのリスクから考えてみるのが良いでしょう。すなわち、
・敷居が高すぎて、民間企業が事業に参入にしない
・参入しても、収益を挙げられず、事業を維持できない
・国民に利用してもらえない

といったリスクです。

とりわけ「国民に利用してもらえない」というリスクは深刻です。

実際、電子私書箱が提供すると言われるサービス(現在でも可能なオンラインで年金記録が確認できる、医療関連の履歴を確認できる等)を、作者自身は魅力に感じません。

また、役所から送付される通知等については、「相変わらず無駄なことをしているなあ」と思いつつも、紙で送られる現状で不便に感じることは無く、面倒な手続をしてまでオンライン交付(通知)にしようとは思いません。

その一方で、固定・携帯電話の料金明細等はオンライン交付を利用していますし、オンラインバンキングやオンライントレードでは、オンライン交付が当たり前となっています。

つまり、オンライン交付を利用する理由(動機付け)として、

・オンラインの方がお得(紙の方が割高)
・日常的に利用するオンラインサービス(主)があり、そこに電子交付(従)が付加されている。

など必要であり、もし利用する理由が無ければ、当然ながら「利用されない」となります。

そして、現時点で政府が提案している電子私書箱サービスには、上記のような「利用する理由」が見当たらないと思うのです。

○ 電子行政サービス、社会保障カード(仮称)等と如何に連携すべきか。
・ 電子行政サービス(ワンストップ申請等)とどのように連携していくか。
・ 電子私書箱へのアクセスキーとして社会保障カード(仮称)にどのような機能が必要となるか。

★作者コメント:
電子行政サービス(ワンストップ申請等)との連携については、既に述べてきたように、オンライン交付等に活用するのが良いでしょう。

「オンライン交付にすれば、金銭的なインセンティブが得られる」とすれば、利用してくれる可能性は高くなります。

活用するのは、e-Gov電子申請システムやエルタックスなど、府省や自治体で共通利用できるものが良いでしょう。もちろん、事前準備の簡素化や使い勝手の改善も必要です。

社会保障カードとの連携については、そもそも「社会保障カードの利用先」として電子私書箱を考えたのでしょうから、政府としては実現したいところでしょう。

しかしながら、「社会保障カード」の利用を前提とすると、「電子私書箱が利用されないリスク」も高くなります。

・ICカード型の社会保障カードに
・「電子署名」用と「認証」用の二つの電子証明書(公的個人認証サービス)を格納し
・この社会保障カードを使って(アクセスキーとして)
・国民が自宅のパソコン等から電子私書箱を利用する

といったサービスモデルは通用しないからです。

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「社会保障カードの利用先」として考えられた電子私書箱サービスが、「社会保障カード」の利用を前提とすると、利用されなくなる。

この現実を認識した上で、利用者の視点で「電子私書箱を利用する理由(動機付け)」を考えない限り、「電子私書箱」の成功は難しいでしょう。