電子政府のニーズは、民間サービスを見ればわかる

野口悠紀雄氏が提唱する「ローテク電子政府」に賛同する:ITpro 』というコラム記事を読みました。野口氏の指摘は、利用者視点による素直な感想であり、それゆえに本質を突いていると言えましょう。

電子政府を語るのに、専門的な知識は必要ありません。むしろ、知識があるばかりに本質を見落としてしまうことが多いのです。

●国民が求めているのは、「電子政府」ではなく「良質なサービス」

国民が求めているのは、「電子政府」や「オンライン手続」ではありません。「良質なサービス」なのです。

現在の行政サービスの多くは「良質なサービス」とは言えず、改善の余地が大きいことは、誰もが賛同してくれるでしょう。

「良質なサービス」に必要なのは、最新の技術ではなく、「行政側の意識改革」であり、「日々の創意工夫」です。

ですから、「ローテク電子政府」や「枯れた技術」であっても、サービスを改善することは十分に可能であり、「お金をかけなくてもできること」はたくさんあるわけです。

●国民のニーズ=面倒

サービスを改善するためには、国民のニーズを知ることが必要です。

多くの国民が「役所の手続は面倒」と考えているのであれば、「面倒=ニーズ」と考えて良いでしょう。

役所手続の面倒には、次のようなものがあります。

1 必要な手続を探すのが面倒

行政ホームページの充実で以前に比べると良くなりましたが、改善の余地が大きい。

検索機能の強化、コールセンターと連動したQ&Aコーナー、利用者・目的別の分類、オンライン相談、ナビゲーション機能による案内などが有効。

2 手続の内容を理解するのが面倒

何が必要で、自分に申請する資格があるのかといった条件がわかりにくい。

わかりやすい言葉の使用、利用者の思考や行動に沿った説明などが有効。

3 役所に行く(しかも待つ)のが面倒

オンライン行政サービスによって解決されたと思われていますが、実はそうでもありません。

オンラインで全て完結するサービスの提供、役所以外の窓口(駅、デパート、コンビニ、病院、郵便局など)の設置、オンライン予約(待ち時間の長い手続)、宅配・郵送サービスの活用などが有効。

4 申請書を書くのが面倒

手続によって差が大きいのが特徴。

申請用紙の見直し(大きくて読みやすい文字、わかりやすい言葉、選択項目を増やし記入の手間を減らす、同じことを何度も書かせない)、窓口職員や相談員による代行記入(入力)、自動交付機などの設置、インターネットで申請書作成サービスの提供などが有効。

5 申請書類を集めるのが面倒

士業が必要とされる理由の一つ。「申請書類の電子化」は面倒を増やすことになるので要注意。申請書ダウンロードや添付書類作成サービスの提供、添付書類の省略・削減、行政間のオンライン照会などが有効。

現在の「オンライン手続」が利用されないのは、
・上記のような「役所手続の面倒」が「オンライン手続」によって解消されていない
・「役所手続の面倒」より「オンライン手続の面倒」の方が大きい
からで、それが国民の判断(極めて懸命な)というわけです。

●国民のニーズあるところに、民間サービスあり

それでは、どのような手続の面倒(=ニーズ)が大きいのでしょうか。

一番簡単な見極め方は、民間サービスを見ることです。

なぜなら、国民のニーズがあるところには、ビジネスチャンスと市場があるので、民間サービスが育っているはずだからです。

具体的には、個人や企業向けに提供されている行政手続関連のソフトウェアやサービスについて
・何を:手続や分野、機能やサービスの内容
・誰に:企業、市民、個人事業主、士業など
・どのように:無料か有料か、オフラインかオンラインか
・どれぐらい:販売件数、利用者数、市場規模など

を見ていきます。

例えば、「確定申告」という分野。多くの有料ソフトウェアが販売されており、オンライン(電子申告)対応でなくても売れています。

こうした分野であれば、「役所に行くのが面倒」を解決できなくても、「申請書を書くのが面倒」や「申請書類を集めるのが面倒」を解消してくれる電子政府サービスであれば、利用してもらえる可能性は高いでしょう。

確定申告書等作成コーナー」が利用されるのは、それ相当のニーズと理由があるのですね。

・今までは手書きだった人
・税務署へ行って書いてもらっていた人
・有料ソフトウェアを使って作成していた人
・インターネットを良く利用する人で最近になって確定申告が必要になった人
などが、「確定申告書等作成コーナー」に流れていると考えられます。その一方で、「税理士にお願いしていた人」は、あまり利用していないかと。

「確定申告」の他にも、「会社設立」や「社会・労働保険」といった分野で、「今すぐ簡単に使える申請書作成サービス」をインターネット上で提供すれば、利用してもらえる可能性が高いでしょう。個人向けでは、「パスポート申請書作成サービス」も良いですね。

こうした電子政府サービスが出てくると、民間サービスもうかうかしていられません。お互いに切磋琢磨して、「良質なサービス」を提供できるように頑張りましょう

関連ブログ>>電子申請の仲介サービス、ビジネスとしての可能性は?

“電子政府のニーズは、民間サービスを見ればわかる” に4件のコメントがあります

  1. 卵か鶏かの議論になりそう(笑)
    朝日新聞から、
    http://www.asahi.com/politics/update/0215/TKY200802150138.html
    進まぬ電子決裁、監査でダメ出し 岩手県、14億円投資

    ところで、野口教授の言うところの公的個人認証サービスでのポータルサイトですが。。。

    http://www.jpki.go.jp/
    相変わらず、文字が小さい。
    また、いっぱい詰まっての文字列だから、
    ま、ほとんど利用者は読まないだろうな。

    文字を「大」にしてまで読まなければならない積極的な意思も生まれてこないだろうし。

    もう、大変なことになってますね。

  2. 電子化は少しずつ
    イエモリさん、こんばんは。
    コメントありがとうございます。

    岩手県のケースは、他の自治体も他人事ではないですね。

    問題点はいくつもあると思いますが、まず「システムの維持管理費に毎年約7000万円」は高いですね。これは、最適化や契約等の見直しで半分以下にできるはずです。

    いわゆる電子化を進める場合、

    1 強制的に利用させる(原則、電子しか認めない)
    2 利用される電子化(小さな成功事例)を育てることから始める(=最初から過度な投資をしない)

    の2種類があります。「北風と太陽」のようなものですが、実際には状況に応じて両者を使い分けるのが有効です。

    トップが現場を巻き込んで強力に「電子県庁」を進め、それを5年間ぐらい継続できるのであれば、全職員レベルで「強制的に利用させる」方式も有効ですが、長くは続かないでしょう。

    「旅費の申請といった庶務」など「利用される電子化」はあるようなので、そういう成功事例を少しずつ増やしていくのが懸命かと。

    「強制的に利用させる」方式を採用する場合も、特定の分野に絞って小さく始めれば、反発等の影響や失敗時の損害も最小限で済みます。

    今後は「撤退の条件」を決めておく必要も出てくるでしょう。電子申請でも電子決済でも、「●年以内に一定の利用率に達成しない場合は廃止する」とするのです。

    いずれにせよ、「電子化」を目的とした電子県庁や電子自治体では成功は難しい。やはり、行政職員や組織のニーズを見極めることが大切です。

  3. 使ってもらうための計画が無い
    政府の業務・システムの最適化計画などを見てもわかりますが、「コンピュータ」の話ばかりで、肝心の「人」をどうするのかが書かれていません。

    業務フローやシステムを変更した後に、それに携わる「人」について、
    ・どのように理解してもらい
    ・どのように使ってもらい
    ・どのように仕事のパフォーマンスを向上していくか
    は、とても大切なことです。

    これからの電子政府ベンダーは、ますます「具体的な成果」が求められることになるでしょう。

  4. 頑張ったからご褒美で
    国交省が公開しました。感謝状贈呈者を。

    http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha08/09/090218_2/01.pdf
    自動車保有関係手続のワンストップサービスの
     利用促進に関する感謝状の授与について

    で、平成19年7月から12月の六ヶ月間で件数の多い販売店に感謝状です。

    行政が、その手続の利用が多い者に「感謝」するというのもおかしな政策ではありますが。。。。
    半年間で700件程度の利用販売店を感謝するといのですから、、、。

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