コロンビア特別区の犯罪実態の恐ろしさ、検挙率の低下と統計に反映されない犯罪の増加
リベラルの総本山とも言えるコロンビア特別区(ワシントン D.C. )に対して、トランプ大統領が犯罪緊急事態宣言の大統領令を発布して、国防長官宛ての覚書で「長官が判断する人数のコロンビア特別区国家警備隊を動員し、隊員を実戦配備する」よう命じることを指示しています。
コロンビア特別区における犯罪緊急事態の宣言
https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/08/declaring-a-crime-emergency-in-the-district-of-columbia/
暴力犯罪危機の深刻さから、コロンビア特別区は米国で最も暴力的な管轄区域の一つとなっています。2024年、コロンビア特別区は全米の大都市の中で強盗と殺人の発生率が平均して最も高い水準に達しました。実際、コロンビア特別区は現在、全米50州よりも暴力犯罪、殺人、強盗の発生率が高く、2024年の殺人率は住民10万人あたり27.54件となっています。また、車両盗難率は全米で最も高く、住民10万人あたり842.4件に達しました。これは、全米平均である住民10万人あたり250.2件の3倍以上です。コロンビア特別区は、いくつかの指標によれば、世界で最も危険な都市の上位20%に含まれています。
コロンビア特別区の法と秩序の回復
https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/08/restoring-law-and-order-in-the-district-of-columbia/
合衆国憲法及びコロンビア特別区の法律に基づく私の権限に従い、 私は国防長官に対し、我が国の首都における犯罪の蔓延に対処するため、必要であると長官が判断する人数のコロンビア特別区国家警備隊を動員し、隊員を実戦配備するよう命じることを指示する。この動員及び任務期間は、コロンビア特別区において法と秩序の状態が回復したと私が判断するまで有効とする。さらに私は国防長官に対し、州知事と調整し、長官がこの任務を補強するために必要かつ適切と判断する限り、追加の州警備隊隊員の実戦配備を命じることを承認するよう指示する。
コロンビア特別区の犯罪実態の恐ろしいところは、D.C.メトロポリタン警察の統計が「犯罪件数の低下」を示していることです。
しかし、犯罪の「検挙率」は低下しており、2010年代後半の検挙率約30-40%から、2024年の検挙率が約20-25%程度となっています。日本の刑法犯の検挙率が約40%前後で推移していることを考えると、現在のコロンビア特別区の状況がかなり深刻なことがわかります。検挙率が低下すれば、それに従って統計上の犯罪件数(認知件数)も減少します。以下で、その理由を整理します。
コロンビア特別区の検挙率の推移(2015-2024:生成AIにより作成)
以下は、MPDの公開データや関連情報から推定した検挙率の推移です。特に殺人(Homicide)の検挙率は詳細に記録されており、参考として他の犯罪カテゴリ(強盗、窃盗)の概算も含めます。ちなみに、日本の検挙率(令和5年)は殺人が95.6%、強盗90.5%、窃盗32.5%、全体で38.3%となっています。
注:
殺人検挙率:MPDの年次報告書に基づき、2015~2019年は比較的高く(68~75%)、2020~2023年に低下(55~60%)、2024年でやや回復(約60%)
強盗検挙率:強盗(Robbery)の検挙率は、2015~2019年で約24~30%、2020年以降は低下し、2023~2024年で約15%
窃盗検挙率:窃盗(Theft/Other)や自動車盗難は検挙率が一貫して低く、2024年で6~10%(過去のデータは推定値)
全体検挙率:全犯罪の検挙率は、MPDや司法省のデータに基づく推定値。2015~2019年で約27~35%、2020年以降は低下し、2024年で約20~22%
データ出典の補足:
2024年の全体検挙率低下は、米国司法省の報告で、即日起訴率(Day-of-Arrest Charging Rate)が57%(2019年の54%とほぼ同等)とあるが、軽犯罪(窃盗など)の不起訴や未報告による暗数が影響
2023年の犯罪急増(自動車盗難+25%、強盗+39%)と警察リソース不足(人員3,400人→3,200人)が検挙率低下の要因
さらに、検挙率が低下した要因を考えると、事態の深刻さが浮き彫りになります。
一つ目は、警察の予算・人員不足による犯罪捜査やパトロール能力の低下です。リベラル派の首長は警察の予算や人員を減らす傾向がありますが、D.C.メトロポリタン警察でも人員不足や予算制約が深刻で、予算や人員の削減が止まりません。人員が不足すると、警察は緊急通報への対応といった受動的な業務に追われ、自ら街をパトロールして犯罪の芽を発見・防止する能動的な活動を行う余裕がなくなります。警察官が街頭にいなければ、彼らが発見するはずだった薬物犯罪、軽微な違反、不審行動などは認知されません。認知されなければ、当然、犯罪として統計に計上されることもありません。
二つ目は、検察による起訴の抑制です。D.C.の連邦検事局や地方検察は、軽微な犯罪(例:窃盗や軽度の暴行)の起訴を控える傾向が強まっているため、検挙後の起訴率が低下して、警察側も検挙しないことが増えています。検挙されても起訴に至らない場合、犯罪統計で「解決済み」とされて犯罪件数に反映されません。これも、リベラル派の政策によるものです。
なお、コロンビア特別区では、2017年のD.C.保釈改革法により、軽犯罪での現金保釈がほぼ廃止され、逮捕者の多くが即時釈放されます。これにより、警察が軽微な犯罪の逮捕に消極的になる傾向が報告されています。警察官が「注意するだけ」「見て見ぬふりをする」という対応で済ませれば、その事案は公式な犯罪統計には一切記録されません。
三つ目は、犯罪の急増です。警察の予算・人員不足や検察による起訴の抑制により、自動車盗難や強盗などの財産犯罪が急増し、警察の対応が追いつかないのです。2024年のD.C.警察統計では、自動車盗難の検挙率は10%未満と非常に低くなっており、リベラル派の政策が負の連鎖を起こしていることがわかります。
最後のとどめが、住民の警察への信頼低下です。上記3つの状況下で、犯罪の被害届が出されにくいケースが増加しています。特に軽微な窃盗や破壊行為では、被害者が「どうせ解決されない」と報告を控える傾向があり、これが暗数(統計に反映されない犯罪)増加の一因となっています。
今後の日本の警察行政のあり方を考える際に、米国のコロンビア特別区から学べることは多いでしょう。