デジタル庁のFinOpsガイドに見る政策全体の構造的ミスマッチと再設計の方向性
デジタル庁のGCASガイドは、かなり野心的で挑戦的な内容と感じました。一方で、継続的運用経費削減(FinOps)ガイドには、「本来ガバメントクラウドによって解消されるはずだった課題」を、再び自治体側の努力として求めている側面が見られます。
これは単なる運用上の問題ではなく、政策全体の構造的ミスマッチと捉えるべきでしょう。FinOpsガイドはデジタル庁の失敗の「転嫁」というより、中央集権的な設計思想と自治体分権制度の不整合を露呈させた結果と考えられます。
技術的側面
ガバメントクラウドは統一基盤として合理的な構想ですが、その実装上の分散が自治体など組織単位で行われていることが問題です。形式的には「実装上の分散を保ちながら、制度設計上の集中管理に近い効果」を狙っていますが、現実には制度的集中の不在と組織的分散の併存という逆説的構造が生じています。国の統一ポリシーのもとで、運用責任だけが地方に押し付けられているのです。
組織的側面
自治体には自律的な最適化(FinOps)を求めながら、実際には裁量の余地が限定されています。「分権的な自律運用」を期待する制度設計にもかかわらず、標準仕様やクラウド構成の自由度が低く、分散の責任だけが自治体に残る状態です。そのため、FinOpsは分権の象徴ではなく、制度的制約の中での「形骸化した自律性」となっています。
政策的側面
「標準化=効率化」と「自律的改善=最適化」を両立させる設計が欠落しており、「標準化=集中管理」と「最適化=分散自律」という二つの政策目標のあいだに制度設計上のミスマッチが存在しています。これはガバメントクラウド政策全体の再設計を迫る構造的課題を示しており、FinOpsはその結果としての“後処理的対応”と位置づけるのが妥当です。
再設計の方向性
このミスマッチを解消するためには、「組織単位の分散」ではなく「機能単位の分散」を前提とした国家的データガバナンスを確立することが必要です。すなわち、組織ごとではなく分野や用途ごとにデータベースを構築し、国がその管理主体となる一方、自治体は利用主体としてアクセス・運用する仕組みです。
日本とエストニアを比較すると、日本は「標準化」の名の下で自治体単位の分散的集中構造を進めているのに対し、エストニアは「国家のデータ主権と地方の自律性を両立」させています。
エストニアや北欧のように、人口登録簿により基礎データを国が集中管理し、分野別データはXロード等のリアルタイムデータ交換で分散的に連携するモデルが有効です。これにより、自治体側の負担を最小化しつつ、地方自治に必要な裁量権の行使を保証することができます。