米国GSAのレポートに学ぶ、電子政府における市民参加の可能性

How E-Government is Changing Society and Strengthening Democracy(PDF)

米国の政府機関であるGSA(General Services Administration)による、電子政府が社会や民主主義に及ぼす影響に関するレポート(ニュースレター)です。特に「e-participation:電子的な市民参加」と言われるものを中心として、国内外の事例を数多く集めており、電子政府の新たな可能性を示唆する内容となっています。

米国は、先ごろ公表された国連の電子政府調査レポート(前回の2005年から3年ぶりとなる)「UN E-Government Survey 2008(PDF)」でも、「e-participation:電子的な市民参加」部門で1位となっている先進国です。

レポートの内容は、次のようなものです。

・政府に対する信頼の構築(市民との信頼関係)
・市民による参加・参画(政策等への反映)
・パブリックコメント(市民からの意見募集と活用)
・ソーシャルメディアの活用(ブログ、SNA、セカンドライフ、YouTubeなど)
・「e-democracy:電子的な民主主義」の成熟に向けて

米国以外の海外事例には、
・ブラジルの電子投票
・韓国のオンライン市民参加
・オーストラリアのICTを活用した市民参加のルール作り
・英国の電子請願(市民から議会・議員への提案)

などがあります。どれも有名なもので、特に真新しさはありませんが、取組み方や姿勢には多くの学ぶべきことがあります。

●電子政府が本領を発揮するのは、これから

電子政府を通じて、市民が政府(行政だけでなく議会も含む)に対して
・より多くの関心を持つようになり
・より多くの接触する機会を持つようになり
・より多くの意見を述べるようになり
・より多くの行動を取るようになる

といったことが、かなり以前から期待されてきました。

現在、低価格なブロードバンドの普及が進み、技術やサービスが成熟してきたこともあり、「電子的な市民参加」や「e-democracy:電子的な民主主義」が、より現実的で身近なものになってきています。

電子政府というと、オンライン行政サービスばかりが注目されますが、実はそうでもないのです。

「オンライン行政サービス」は、電子政府の目的と言うよりは、途中の通過ポイントであり、実は「手段・ツール」という側面が強いのです。

かなり昔ですが、日経BPの連載記事で「電子申請、5つのゴール」として、次のように解説しました。

1.行政サービスの向上
2.行政事務の効率化
3.民主主義の促進
4.新しい文化の構築
5.住民と行政の新たな関係の実現

現在の電子政府は、「行政サービスの向上」や「行政事務の効率化」で悪戦苦闘しており、ようやく「民主主義の促進」が見えてきたという段階です。

今後は、「新しい文化の構築」や「住民と行政の新たな関係の実現」を目指すための具体的な作業が必要となってくるでしょう。

●「オンライン行政サービス」が害となることも

「オンライン行政サービス」を追求し過ぎると、

・採算を度外視した持続可能性の低いサービスが乱立し、政府が疲弊する
・政府が国民の顔色を伺うばかりとなり、中長期的な視点が欠けてくる

といった弊害が生まれます。現在の、「とにかく利用率を50%に」といった傾向も、あまり良いものではありません。

これでは、今後の段階となる「新しい文化の構築」や「住民と行政の新たな関係の実現」からは離れていってしまいます。

ですから、「オンライン行政サービス」については、その内容だけでなく
・サービスを作り上げる過程
・サービスを良くしていく仕組み
・サービスによる効果の検証(経済効果だけでなく、市民との関係がどう変化・改善したか)

などが大切になります。

●オンライン行政サービスの品質を向上させる方法

一つの例として、「市民参加によるオンライン行政サービスの品質向上」を挙げておきましょう。

現在のオンライン行政サービスには、品質計画や品質管理といったものが存在しません。

こんなことを言うと、行政やベンダーさんから怒られそうですが、もし品質計画や品質管理があるとしても、それは行政向けのものであり、国民や市民に向けられたものではないのです。

品質計画のフローを、

市場調査>企画>設計>設計審査>開発

と考え、このフローに従って見ていきましょう。

1 市場調査

 市場調査が不十分または皆無であり、「国民はどのようなサービスを望んでいるか?」を把握していない。

2 企画

 「国民はどのようなサービスを望んでいるか?」が不明なので、サービスのコンセプトや利用者がはっきりしない。

3 設計

 サービスのコンセプトが曖昧なので、設計図や仕様書からは、具体的なサービスをイメージしにくい。目標とする品質(設計品質)が、利用者の期待やニーズと一致しない。

4 設計審査(デザインレビュー)

 目指すべき品質の基準が不明確なので、適切な審査ができず、コストの妥当性も判断できない。

5 開発

 利用者の期待やニーズと一致しない品質のサービスが作られていく。

これでは、利用率が低いのも当然ですね。優れた品質のオンライン行政サービスができる可能性は、宝くじより低いかも。。

もし、「市場調査」や「企画」、さらに「設計審査」において、形だけではない「市民参加」があれば、「オンライン行政サービス」の品質は、今よりはかなり良くなるでしょう。

「オンライン行政サービス」が使われるかどうかは、設計や仕様書の段階で、ほぼ決まってしまいます。開発に入ってしまったら、もう手遅れで、ほとんど修復不可能(SaaS型のサービスは別として)と考えましょう。

●今後のテーマは、「国民による政府の監視」と「選挙投票率の向上」

最後に、今後のテーマとして二つを挙げておきましょう。

まずは、「国民による政府の監視」です。

いくら日本人がお人よしと言っても、さすがに「何でも政府にお任せ」では危ないということに気が付いてきました。

「国民による政府の監視」は、「適度な緊張感の下でバランスを保つ」ということです。ですから、ここで言う「監視」は決して敵対的なものではなく、「協力・連携としての監視」になります。

三権分立で、国会、行政、司法がお互いに監視または連携しながらバランスを取るようなものです。

電子政府を上手に活用すれば、「国民による政府の監視」を強化し、その効果を高めてくれることでしょう。

もう一つは、「選挙投票率の向上」です。

現在の選挙では、投票に参加しない人が多いわけですが、もしこの人たちが選挙に参加するようなれば、政府や社会を動かすことができるとも言えます。

電子政府を通じて、政府に対してオンラインで様々な意見や提案を述べることができ、政策に反映することができるようになれば、自ずと選挙への関心も高まってくるでしょう。もちろん、オンライン投票も将来的にはあり得ます。

「現在の日本が抱える問題」について、どの政党が、どの議員が、どのような意思を表明し、どのような施策を実行したのかが、インターネット上でわかりやすく提示され比較できれば、選挙で投票する際には、大いに参考となるでしょう。

というわけで、電子政府が、その本領を発揮するのは、まだまだこれからでございます

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