アクセンチュアの電子政府ランキング:政府の顧客サービス成熟度調査2008

Leadership in Customer Service: Creating Shared Responsibility for Better
Outcomes

アクセンチュアによる電子政府ランキングの2008年版、「政府の顧客サービス成熟度調査2008」です。

関連>>Accenture Newsroom: Governments Must Improve Engagement with Citizens and
Collaborate With Other Providers to Improve Service Delivery and Outcomes,
New Accenture Report Finds

電子政府ランキングの比較で紹介している通り、有名な電子政府ランキングは4つあります。

1 政府顧客サービス成熟度ランキング(アクセンチュア)
2 電子政府調査(国連)
3 世界の電子政府(ブラウン大学)
4 電子政府世界ランキング(早稲田大学電子政府・自治体研究所)

それぞれに特徴がありますが、毎年真面目に「電子政府のランキング」を続けているのは、後発組みである早稲田大学の「電子政府世界ランキング」でしょうか。

関連>>電子政府世界ランキング2009(早稲田大学電子政府・自治体研究所)

アクセンチュアのレポートは、コンサルティング企業らしく、「ここを押さえろ」といったキモを明快に指摘してくれます。

前半では、「国民の行政サービスに対する評価」をランキング形式でまとめ、後半では「各国の現状、事例、今後の課題」を紹介(各国2ページずつ)しています。

前半部分については、日本の行政サービス満足度は世界最低レベル—調査結果を読み解く:ITproを読むと良いでしょう。

名前の通り「電子政府」に限らず、「政府によるサービス」をテーマにしていますが、その中身は電子政府に関係が深いものが多いです。

もともと、電子政府は「マルチチャネルにおける一つの手段」なので、政府サービス全体を捉えるアプローチは、電子政府を考える上で欠かせないことです。

これまでの日本は、電子政府やオンライン申請を単体として捉える傾向があり、「木を見て森を見ず」となっていました。

その一方で、「ワンストップサービス」などオンライン申請を繋げることには熱心で、それがより高度で便利だと、行政が(提供者理論で)勝手に思いこんでいるのは、本当に困ったことです

●国民の評価で見えること

今回の調査の特徴は、行政の取り組みやサービスの現状に対する「国民の評価(満足度など)」を軸としたことでしょう。

「国民の評価」から見えてくるのは、「国民と政府の関係」ですが、「国民のレベル」もわかります。

「国民と政府の関係が良好である」ことは、「政府のガバナンスが機能している」ことを意味しますが、必ずしも「国民が政府を信頼している」ことを意味しません。

「国民と政府の関係が良好である」ためには、国民が政治や行政に関心を持ち、自ら積極的に参加し、政治や行政を監視し抑制することで、国民としての役割や責任を担う必要があります。

「条件付きの信頼関係」というか、「契約」に近いかもしれません。

●日本の行政サービスの質は低いのか?

今回の調査で日本の評価が低かったのは、「日本の行政サービスの質が低い」からとは思いません。

実際、日本の行政サービスの質は、国際的に見てもかなり高い水準にあります。特に市町村などの自治体は、住民との距離も近いため、きめ細かいサービスが提供されています。海外の行政サービスを経験すれば、よくわかることです。

日本の評価が低いのは、国民・政治・行政の三者が、自分たちの役割や位置付けを理解できていないことの表れだと思います。

相手のことだけでなく、自身の役割や位置付けがわからない状況では、「国民と政府の関係」が良くなるはずもないでしょう。

現在の政治や行政が、自らの行いのために、国民から信頼されず評価が低いのは無理もないことと思います。

しかし、その多くは国民自身が招いたということに、国民自身が気づき、国民自身が変わっていかなければ、今の状況も変わらないでしょう。

●電子政府世界ランキングは、世界を学ぶきっかけ

ところで、作者が考える「電子政府世界ランキング」の資料としての価値は、二つあります。

1 世界の中での日本の電子政府の位置づけを知る(ベンチマークとして)
2 世界の電子政府の現状(成功も失敗も)を知り、今後の方向性を予測・確認する

どちらも大切ですが、作者のようなコンサルタントとしては、2がより重要です。

アクセンチュアの政府顧客サービス成熟度ランキングは、世界の電子政府の現状を知り、今後の方向性を予測・確認する上で、貴重な資料と言えるでしょう。

実際、海外の事例は日本の電子政府に大きな影響を与えています。

例えば、次世代電子行政サービスを実現するために必要な「政府間の情報共有の仕組み」は、韓国を参考にしています。

関連>>韓国における行政情報の共同利用(NTTデータ DIGITAL GOVERNMENT)

国民電子私書箱で実現を目指す、「国民への電子アカウント(口座)の付与」や「個人向けにカスタマイズされたサービス提供」などは、ヨーロッパの影響が伺えます。

関連>>漏えい被害を限定的に抑制――オーストリアの国民ID番号:ITpro

●海外の成功例を生かすも殺すも国民次第

しかしながら、韓国やシンガポール、ヨーロッパでは、国民IDが確立した中で、「政府間の情報共有の仕組み」を構築・運用しています。

これに対して日本は、国民IDの議論が不十分なまま、社会保障カードや電子証明書といった器や道具の話ばかりが進んでいます。

このままでは、うわべだけのモノマネとなり、「世界最先端の電子行政サービス」に満足するのは、国民ではなく行政ばかりとなってしまうでしょう。

やはり、継続的な国民による監視が必要ですね