なぜ止めないのか? 社会保険・労働保険関係手続のオンライン申請(1)

電子政府に七不思議があるとすれば、「社会保険・労働保険関係手続のオンライン申請が、ほとんど利用されないのに続けられていること」が間違いなく入るでしょう。

それほどに、「社会保険・労働保険関係手続のオンライン申請」の実態はひどいのです。

結論を言えば、厚生労働省や社会保険庁の体質が変わり、大幅な業務の見直し(法制度の見直しも含めて)が無い限りは、「これからも利用は増えない」ということです。

ところが、現状では上記のような変化が起きる可能性は少なく、むしろ逆の傾向があります。つまり、このまま「利用もされないオンライン申請システムが放置される」かもしれないのです。

●5年かけても増えない利用率

省庁の汎用的なオンライン申請システムが本格的に開始したのは、今から5年前の2003年度です。「社会保険・労働保険関係手続のオンライン申請」も、始まってから5年が経過したのです。

ところが、その利用率が一向に増えません。

昨日の電子政府評価委員会に提出された資料によると、「厚生労働省におけるオンライン利用率(平成19年度実績)」は次の通りです。

FD(磁気媒体)申請を含むオンライン利用率:42%
FD申請を含まないオンライン利用率(重点21手続):12.91%
・先行11手続のオンライン利用率:14.64%
・その他の重点10手続:0.10%

いくつも数字がありますが、実態は一番下の「0.10%」、これが「社会保険・労働保険関係手続のオンライン申請」の利用率です。整理すると、次のようになります。

厚生労働省全体:約42%
・FD申請:約30%
・年金受給権者現況届出(住基ネットを活用した手続の省略):約10%
・「食品等の輸入の届出」:約2%
・社会保険・労働保険関係手続のオンライン申請:0.1%
 ※平成20年度経過(4-10月)は0.19%

なお、オンライン申請0.1%の内訳は、2007年度 社会保険業務の最適化実施状況報告書(PDF)に出ています。

つまり、社会保険労務士の協力を得ながらも、5年もかけて0.1-0.2%ほどの利用しか無いのです。0.1%の利用内訳も、一部の社会保険労務士が積極的に利用したものであり、政府が提唱する「国民の利便性」とは全くかけ離れたもの。なぜ、こんなものを続けているのか理解に苦しみます。

●オンライン利用率は、行政のさじ加減で決まる

上記の利用率を見て、「なんだか数字がたくさんあって、どの利用率を見れば良いのかわからない」と思うかもしれません。これが、本ブログで何度も取り上げている「オンライン利用率の数字遊び」です。

関連ブログ>>オンライン利用件数の水増しを防ぐ、「利用件数」の定義を明確にするべき

作者も電子政府評価委員会等で提言しているのですが、未だに「オンライン利用」の定義は明らかにされていません。実態から判断すると、次の4つに分類できるでしょう。

1 オンライン申請:インターネット等を経由した国民から役所への申請・届出等
2 オンライン照会:行政間ネットワークを利用した行政内部における事務処理
3 オンライン閲覧:インターネット等による情報提供・閲覧のサービス
4 その他、国民に利便性を提供している情報処理技術を用いたもの
  (例:FD申請、窓口で申請者本人や職員がパソコンを操作するものなど)

つまり、部分的にでもコンピュータで処理されて、行政側が「これは国民にとって利便性がある(判断基準はありません)」と判断すれば、「オンライン利用」として計上されることになります。

言ってみれば「なんでもあり」です。窓口で申請しようが、紙で申請しようが関係ありません。「行政がいくらでも水増し・数字合わせができる」、それが「オンライン利用」の実態なのです。

次回は、これほどまでに利用されない「社会保険・労働保険関係手続のオンライン申請」に、どれだけの税金が使われてきたのかを明らかにしましょう。

“なぜ止めないのか? 社会保険・労働保険関係手続のオンライン申請(1)” に3件のコメントがあります

  1. 利用率では、士業からの利用率をゼロとすべし
    >言ってみれば「なんでもあり」です。窓口で申請しようが、紙で申請しようが関係ありません。「行政がいくらでも水増し・数字合わせができる」、それが「オンライン利用」の実態なのです。

    そそ。なんでもありなので、この際、士業の利用率を控除した実質の利用率を打ち出したらいかがか?
    一般申請者がどの程度利用しているか測定するのがよろしいかと。

    士業に期待しての利用率向上など、本末転倒だとおもうのだ。

  2. 士業の利用を控除すると
    イエモリさん、こんばんは。
    コメントありがとうございます。

    「士業の利用率を控除した実質の利用率」は、指標の一つとして良いアイデアかもしれません。

    あるいは、「士業のオンライン利用による国民への還元効果」、例えば「士業がオンライン申請を一件するごとに、国民に500円還元される」といったことが証明・疎明できれば、士業の利用率を増やす意義を認めやすくなるでしょう。

    社会保険・労働保険関係手続の場合、社労士の関与率は30-40%ぐらいですから、どんなに社労士さんが頑張っても、利用率50%は達成できません。

    オンライン申請だけでなく、年金問題の後始末など、社労士さんはかなり頑張っていると思います。それでも、利用率1%未満なのですから、もうどうしようもありません。

  3. かえって割高になっていないか?
    むたさんの、

    >あるいは、「士業のオンライン利用による国民への還元効果」、例えば「士業がオンライン申請を一件するごとに、国民に500円還元される」といったことが証明・疎明できれば、士業の利用率を増やす意義を認めやすくなるでしょう。

     そうなんですよね。これが目に見える形での士業による利用を推進するのですが・・・・

    実態は、どうでも士業向けにシステムを構築した分、余計な経費がかかっているのではないか、と推測しています。還元どころか割高システムと。

     このあたり調査をどこもしていませんので、推測ですが・・・

コメントは停止中です。