オンライン申請システム停止の意義(1)、何を学び何を生み出すかが問われる

オンライン申請システムの停止に関する意見募集について本ブログでもご紹介しましたが、意見募集に伴う情報提供が「わかりにくい」「不十分だ」といった意見が多いようです。

関連>>オンライン申請の停止,利用低迷の理由や費やした総経費を明らかにせよ

実際には、かなりの情報が公開されているのですが、散在しており整理も不十分なため、「わかりにくい」「見つけにくい」といったことは確かだと思います。この点につきましては、電子政府評価委員会のメンバーとしてお詫び申し上げます。

今回は、お詫びも兼ねまして、ウェブ上で公開されている情報を基に、今回の「オンライン申請システム停止」について整理したいと思います。

●電子政府評価委員会における意見

今回の件に関する電子政府評価委員会の意見を整理しておきましょう。

委員会内で意見をまとめるにあたっては

1 申請1件当たりの経費
2 利用件数の向上等の見込み
3 今後の改善方策の有無

などが考慮されています。

(1)文部科学省オンライン申請システムについて

・システム全体をいったん停止するべきである。
・平成22年度予定のシステム更新時には、
・手続の絞込み、認証方式の簡素化、業務フローの見直し等を行い
・簡易なシステムへの移行の可否等について検証するべきである。

作者の理解するところでは、

・まずはシステムを停止した上で
・文部科学省自身が問題点等の検証を行い
・より便利で使いやすいシステムを
・より低廉なコストで実現するべく
・最大限の努力をしてください。

となります。もちろん、上記の努力が認められない場合は、更新や再稼動をするべきではありません。

これを受けて、文部科学省は

・電子政府評価委員会からの意見に基づいて検証し
・検証結果等について改めて同委員会の意見をうかがってから
・システム更新(開発)するかどうか
・平成21年5月末頃までに決める

ことになりました。「誰が、いつまでに、何をするか」が明確になっているのは良いことです。

また、戦術として考えても、妥当なものであり、行政としては画期的と思います。

1 これはダメだと判断し、いったん撤退(後退)します。
2 体制を整え、反撃が可能となってから、再出動します。
3 体制を整えるのが困難な場合や
4 再出動しても勝てる見込みが無い場合は
5 完全に撤退(撤収)します。

という流れです。

(2)防衛省申請届出等システムについて

・利用件数向上の見込み、今後の改善方策の有無、費用対効果の低さを考慮すると
・システムを継続することは困難である。
・現行システムのうち、歳入金連携機能部分は存続させて
・窓口連携サーバや受付管理サーバ等についてのみ停止の対象とすべきである。

この意見については、作者は「歳入金連携機能部分」の金額や内容が不明瞭なので、もう少し検討する必要があると考え、委員会でも意見を述べました。

なぜなら、文部科学省オンライン申請システムの場合は、停止することで年間の運用経費「1億900万円」がまるまる削減されるのに対して、

防衛省申請届出等システムの場合は、運用経費「3,700万円」のうち、「600万円(約16%)」しか削減されないからです。

オンライン申請システムの主要部分である「窓口連携・受付管理の機能」が600万円で、付属機能に過ぎない「歳入金連携機能部分」が3,100万円というのは明らかにおかしいでしょう。

ですから、
・「歳入金連携機能部分」は一体何をする機能なのか
・なぜシステム運用経費の84%も必要とするのか、
・他の省庁でも「歳入金連携機能部分」だけ残しているのか
・残している場合は、運用経費の金額や割合はどうなっているのか
などを明らかにするべきだと思うのです。

文部科学省は、「誰が、いつまでに、何をするか」が明確になっているのに、防衛省は「ただ単にシステムの一部を止めるだけ」では不公平であり、システム停止から何も学ぶことができません。

「システムの停止」は、状況を改善し、目標に近づくための決断と行動です。決して「責任の放棄」ではありません。

防衛省申請届出等システムの停止から

・運用費用の算出方法について問題点を洗い出し、基準や指針を作る
・各省庁でバラバラに運用されているかもしれない「歳入金連携機能」を統合し、業務の効率化やコスト削減を実現する

といったことが実現できれば、システム停止の意義があったと言えるでしょう。

次回は、Q&A形式で、よくある疑問・質問にお答えしたいと思います。

質問のある方は、本ブログにコメントをお寄せくださいませ。わかる範囲で、回答させていただきます。

“オンライン申請システム停止の意義(1)、何を学び何を生み出すかが問われる” に5件のコメントがあります

  1. 自動車ワンストップは?
    社会保険関係もひどい数字だったのですな。

    さて、自動車OSS,地方分権二次勧告で運輸支局廃止、登録事務は独立行政法人化との方針ですが、族議員が反対するのですかね。

    まあ 抜本的見直しするにはいい機会でしょう。

    政府の重要テーマ自体が縦割りでは、木を見て森を見ずになります。

    電子政府自体は手段ですから、他の重要テーマに合わせた視点が必要でしょうね。

  2. 自動車ワンストップは調査中
    sagoさん、こんばんは。
    コメントありがとうございます。

    自動車OSSは現在調査中で、内閣官房IT担当室を経由して、必要な情報の開示をお願いしているところです。

    しかし、行政にとって不都合な事実が明らかになると考えているのか、なかなか公開してもらえません。

    公開されている最近の情報によると

    自動車保有関係手続のワンストップサービス
    ~現状の課題と今後の取組み~(関係省庁提出資料)
    http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/densihyouka/kaisai_h20/dai4/siryou4_1.pdf
    平成20年度の申請実績(4月~10月) 合計:1.85%

    自動車保有関係手続 会計検査院資料
    http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/densihyouka/kaisai_h20/dai4/siryou4_2.pdf
    19年度末までに要した費用は、合計で65 億1967 万余円

    となっています。上記の合計費用には、

    ・OSSを導入する都道府県のシステム構築・維持費用
    ・業界・外郭団体の関連システム構築・維持費用

    が含まれていませんので、総費用は少なくとも80-100億円ぐらいにはなると思います。

    なお、オンライン申請システムには、もっと高額なものがあります。
    http://blog.goo.ne.jp/egovblog/e/0385dff3365f306846725c356bf53593
    ※15年度と16年度の合計金額
    総務省電波利用電子申請・届出システム 172億9300万円
    国税電子申告・納税システム(e-Tax) 166億1600万円

    自動車OSSがやっかいなのは、自動車販売業界を含む構造的な問題が背景にあることです。

    この件については、整理が出来次第、公開していきます。

  3. 虎の尾かも・・・・
    むたさんの、
    >自動車OSSがやっかいなのは、自動車販売業界を含む構造的な問題が背景にあることです。

     販売業界以上に日本の基幹産業ともいわれる自動車業界全体のことなのですよね。

     OSSに関与する士業といわれる「行政書士」では、これは単に言われているだけで、行政書士としての利用はコンマ以下の数値となっているようです。

     小渕内閣時にバーチャルエージェンシーとして、国家プロジェクトの最先端事業として位置づけた自動車保有関係手続システムですが、、、、。
     あれから 今はこのようなことになってしまった。

     
     
     

  4. さわらぬ神に?
    イエモリさん、こんばんは。
    コメントありがとうございます。

    「基幹産業ともいわれる自動車業界全体のこと」、まさにご指摘の通りです。

    経済成長が一段落し調整局面に入り、円安という補助金も切れたことで、自動車業界も苦境に立たされています。

    その意味では、自動車OSSを通じて、自動車業界の構造を見つめ直す良い機会かもしれません。

    まあ、電子政府評価委員会の親会であるIT新改革戦略評価専門調査会の会長も、トヨタの社長さんなわけで。。。
    http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/ithyouka/konkyo.html
    どこまで見直せるかわかりませんが、電子政府に対する「政府の本気度」を知る上でも、良いテーマですね。

  5. 張り子の虎の尾は思い切り踏もう?
    むたさんの、
    >どこまで見直せるかわかりませんが、電子政府に対する「政府の本気度」を知る上でも、良いテーマですね。

     そうですね、虎は虎でも、「張り子の虎」かもしれないから、・・・・。是非ともテーマとして頂きたい。

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