日本の電子政府が良くならない本当の理由(9):第6の欲求「公益志向」の流れに乗れ

今回は、既に紹介した「ネットワーク化」と「ボーダレス化」に加えて、今度の電子政府に大きな影響を与える、もう一つの大切なキーワードを紹介する。

世界的な潮流である「ネットワーク化」と「ボーダレス化」より、もっと昔から始まっているのが「グローバル化」である。

「グローバル化」とは、「地球規模で世界の結びつきが強まること」であり、歴史的には16世紀(アメリカ大陸発見)や19世紀(植民地の増加)頃にも見られるものである。

この「グローバル化」が、ここ2,30年で劇的に進んだとされる。

先に取り上げた「ネットワーク化」と「ボーダレス化」が、「グローバル化」を加速したと考えて良い。

以前では考えられないぐらいの規模と頻度で、人(労働力)や物・金(資本)が国境を超えて行き来するようになったのだ。

「グローバル化」は、経済を中心とした動きであるが、社会政策や国のあり方にまで影響を及ぼしている。

関連>>グローバル資本主義 – Wikipedia日本経済とグローバル化(平成16年度年次経済財政報告:内閣府)

「グローバル化」についても、良いか悪いかの議論はあまり意味がない。ある人にとってのメリットは、別の人にとってはデメリットとなる。儲かる人の裏には、損をしている人がいる。

重要なのは、こうした世界的な潮流に、どのように対応していくかである。

その上で、自分が本当に価値があると思えることをすれば良い。

国際的な競争力を身に付けたからといって、無理に他者と競争する必要は無いし、弱者を排斥していく必要も無い。競争と共生を両立させれば良いのである。日本語で言うところの「切磋琢磨」だ。

グローバル社会で「衣食足りて礼節を知る」となるためには、最低限の競争力は欠かせない。

 

実は、世界的な潮流として、もう一つ重要なキーワードがある。

それが、「公益志向」である。

「公益志向」とは、自分の利益や目先の利益だけでなく、社会全体の利益や将来を考えて行動することだ。

企業においては、顧客の利益・会社の利益だけでなく、従業員の幸せや長期的な視点で捉えた社会への貢献を考慮する。消費者においては、地球や環境に配慮し、社会や家族との繋がり・共存共栄を求め、競争よりも協調や調和を重視するようになる。

「公益志向」が大きな流れになってくると、「公益志向」を無視した製品やサービスは、消費者から相手にされなくなってくる。

個人であれ組織であれ、 「公益志向」を無視した行動は、国民や社会から非難を浴びて、自らの立場を不利なものにしてしまう

関連>>強まる公益志向ソシエタルマーケティング新たな成長に向けた日本型市場システム・企業ガバナンスの在り方

電子政府も、自らの競争力を高めつつ、公益志向の流れに乗る必要がある

 

「公益志向」の台頭には、非常に重要な意味があるので、もう少し詳しく触れておこう。

人々が「公益志向」にたどり着くのは、ごくごく自然なことである。

なぜなら、 「公益志向」が無いまま自己の利益だけを追求していくと、自分たちが滅びてしまうからである。

「欲求段階説(欲求のピラミッド)」で有名な心理学者のマズローも、「自己実現欲求」の先に、第6段階の欲求として「コミュニティ発展欲求」を述べたとされる。

コミュニティを、地域社会や地球全体と捉えれば、マズローの第6欲求は、まさに「公益志向」と言える。

「公益志向」が無いまま、各自が欲望のまま勝手なことをし続ければ、環境破壊が進み、地球に人が住めなくなってしまう。

そうなったら、自己尊厳とか自己実現とかのんきなことは言っていられない。食べる・寝る・生きるといった基本的な欲求さえ、満たすのが困難になる。

「グローバル化」の一側面である「競争」が間違った方向へ進めば、極端な格差社会を生み出し、人々の間に新たな争いが起きる。

争いが大きくなれば、やはり基本的な欲求さえ満たすのが困難になる。

人々は、その危険を察知し、必死に調整しバランスを取ろうとしている

そこから、「公益志向」が現れたのである。

このように、行き過ぎた流れがあると、別の流れが生まれ、バランスを取ろうとする

バランスが取れた状態とは、完全な停止や固定ではない

固定してしまうと、外からの衝撃(外部環境の変化)に弱くなり、危険が高まるからである。

バランスが取れた状態とは、あたかも綱渡りのように、ゆらゆらと揺らぎながら、微妙な力加減で一定の状態を保っていることだ。それが社会であり世界である。

バランスが大きく崩れれば、元に戻すために、同じような大きな力が必要となる。

元に戻すための大きな力は、副作用も生み出すので、力の加減を間違えると、結果としてもっとバランスが崩れてしまうこともある。しかし、何もしなければ、バランスが崩れ落ちてしまい、もはや元に戻すこともできなくなる。

バランスを大きく崩す前であれば、小さな力で元に戻すことができるので、副作用も少ない。しかし、バランスの崩れが小さいうちは、「まだ大丈夫」「全く危険は無い」と、ついつい問題を先送りしてしまう。

この原則を理解すると、世の中で起きていることが、良くわかるようになる。

次に何が起きようとしているのか、予測しやすくなる。

次回から、作者が提言した内容を一つ一つ解説していくが、その全ては上記の原則に基づいている。