日本の電子政府が良くならない本当の理由(6):日本の電子政府の費用対効果は世界最低水準

電子政府の関係者に、本連載で書いている内容を述べると、「牟田さんは、ずいぶんと先を見ているようですが、今の電子政府・電子自治体、あるいは士業がそのレベルにたどり着くには、まだまだ時間がかかるのでは。」といった反応が返ってくる。

誤解があるようなので述べておくが、作者が本連載で述べていることは、既に起きている現在進行中の話であって、これから作者が国民を煽って改革を起こそうというものではない。

「これこれこういう動きや流れがあって、いずれにせよこうなるので、今のうちにこうした方が良いですよ」と言っているに過ぎない。

「時代の流れに逆らうのは得策ではない」と考える人たちが、政府関係者、外郭団体、士業の中にもいるわけで、そうした人たちは着々と手を打っている

その事実を知っておかないと、公務員も外郭団体職員も士業も、よくわからないうちに、いつの間にか切られていくことになる。もちろん、真っ先に切られるのは末端にいる人たちである。

残された道は、
・いつ切られても良いように準備しておく
・切られない側に回る
・今のうちに転職する
ことぐらいだろう。

いずれにしても、「今のまま何の努力もせずに」なんて虫のいい話は、期待するだけ無駄である。

 

さて、前回までは、電子政府を取り巻く環境を理解するために、国内外の社会情勢を見てきた。今回は、電子政府の動向を見てみよう。

まずは、電子政府ランキングの比較を見て欲しい。
http://www.manaboo.com/archive/egov_200525_ranking.htm

電子政府に関する代表的なランキングを比較し、平均順位を出したものだが、日本の順位は14位となっている。

前回紹介した国際競争力ランキング(日本は20位)と比べると、順位が上がっているが、なぜだろうか。

その理由は、国際競争力ランキングが、時代の潮流である「ネットワーク化」や「ボーダレス化」を認識し、「何を持っているか」ではなく、「持っているものをいかに賢く有効に使うか」に重点を置いて評価しているからである。

他方、電子政府の評価は、まだまだ「政府中心」「モノ中心」のところがあり、「何を持っているか」を重視する傾向がある。

このことを理解した上で、日本の電子政府の特徴(評価されているところ、評価が低いところ)を整理してみよう。

日本の電子政府の特徴は、大きく分けて二つある。

一つは、資産が多いこと。

ブロードバンドのネット環境、パソコンや携帯など情報通信機器の台数、行政専用のネットワーク数、CIOの数、電子化された手続の数、大学卒業者の数、戦略・計画の策定数、関連法律の数など。まさに、「電子政府に必要そうなものは全て揃っている」と言える。

「資産」については、世界一と言っても良いレベルにある。

その一方、保有する資産に比べて、具体的な成果が非常に少ない。

これが、二つ目の特徴であり、これほどのギャップは世界に類を見ない

その様子は、あたかも「時代に取り残された大企業」のようだ。

上場一部の有名企業で、規模は大きく技術力もある。世間から見れば、まだまだ一流企業。しかし、そんな見た目とは裏腹に、経営やマーケティングの能力に欠けているため、投資利益率(ROI)や総資産利益率(ROE)が著しく低い。選択と集中ができておらず、収益を上げる事業もあるが、ほとんどの事業が赤字体質で、わずかな利益を食いつぶしてしまっている。「コスト意識」に欠けるのは問題だが、最も足りないのは「顧客中心・顧客重視の視点」である。。。

これが、日本の電子政府である。

何十億円もかけた電子申請システムの利用が、年間10件に満たなくても、放置され存続される。そして、誰も責任を取らない。
http://blog.goo.ne.jp/egovblog/e/b00ce5169a74d4f8ea0f39456741636c

それが、日本の電子政府の実態である。

電子政府ランキングにおける日本の順位は、そうした「日本製ニセモノ電子政府」の特徴を如実に表している。

「成果や顧客満足」を重視すれば、日本のランキングは下がり、「電子政府に関係する資産」を重視すれば、日本のランキングは上がることになる。

作者は、こうした現実を踏まえて、日本の電子政府の費用対効果は世界最低水準と評している。

次回は、日本が「電子政府先進国」となるために、何をすれば良いのかを考えよう。

“日本の電子政府が良くならない本当の理由(6):日本の電子政府の費用対効果は世界最低水準” に5件のコメントがあります

  1. 「・今のうちに転職する」に○
    牟田さん いやほんと

    「・今のうちに転職する」ができればいいが、もはや手遅れ。

    しかし、ほんとに政府はオンライン100パーセントを打ち出すのですかね。基礎的ファクターを分析すれば無理とわかっているでしょうし、首が飛ぶ人たちが相当数でますよ。

    オンラインの原則化で法体系を見直すことが主眼で、100パーセントはスローガンというか、念仏でしょう。

    どうもどこぞの団体が情報操作のために持ち出したのじゃないか。データセンターの構築の実証実験のために990万つぎ込むのだそうです。
    ぽんと1000万。この批判かわしの道具が100%しかも2010年までと来た。

    評価委員もご存じ無いとすれば、やっぱり怪しいと考えるべきでしょう。

  2. やっとわかってくれましたか(笑)
    >電子政府のプロジェクトに対して行政の責任を追求したり期待したりするのは現実的ではありません。なぜなら、責任なんてものは最初から存在しないからです。
    ~ははは、法体系の見直し、結構ですねえ。

  3. 地殻変動の蠢動
    むたさんの、
    >「これこれこういう動きや流れがあって、いずれにせよこうなるので、今のうちにこうした方が良いですよ」と言っているに過ぎない。

     このあたり、なかなかその流れというか動きを掴めかねているので、今後とも詳しく解説していただきたい。

     どうも地殻変動が起こっているとは思うものの、震源地が解らないのだ。

     私など士業の独占撤廃に蠢動は、なんとなくだが意識しているものの。独占撤廃というか、規制の大改革なくして電子政府の推進はあり得ないと思っているが、では、具体的にどのような動きが出ているかを掴みかねているのだ。

  4. 経団連はいの一番にあげている
    http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2008/035.html
    逆境を飛躍の好機に変える 2008年度総会決議
    1.成長力強化に向けて民間活力を引き出す

    (1) 先進的な電子行政・電子社会の実現を起爆剤として、社会全体の効率性・生産性を向上させ、産業の競争優位を確保する。
    ————————————————

     これらがどう動くか、・・

  5. こんな電子政府があってもいいのでは
    私は電子政府の当事者ではありませんが、
    仕事の中で電子政府の問題に接することはよくあります
    電子政府については、牟田学さんのブログ
    が代表的ですね
    政府の方も見ていらっしゃるようです
    構造的な問題はいろいろあると思いますし、

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