自然エネルギーの可能性と限界 -風力・太陽光発電の実力と現実解-

自然エネルギーの可能性と限界 風力・太陽光発電の実力と現実解
石川 憲二 (著)
オーム社

初版発行が平成22年7月25日で、東日本大震災が起きる前に書かれています。

評判どおりの内容で、自然エネルギーの全体像を知るのに良いですね。

震災を経て事情が変わっている点もありますので、より最新の情報を参考にした方が良いかもしれません。

今よりも純粋だった学生時代には、作者も環境問題や自然エネルギー(再生可能エネルギー)の本をよく読んだものですが、20年経った今でも、それほど大きな変化は無いように思います。

狭い国土に1億人以上の人口を抱えて、世界第3位の経済規模を誇る日本の場合、現実的には化石燃料依存は避けられず、持続可能な範囲で再生可能エネルギーを活用しつつも、化石燃料によるエネルギーシステムの改善を続けて、ICTを活用した省エネを進めていくしかないようです。エネルギー政策については、デンマークのような小国を理想とするのは難しいのですね。

再生可能エネルギー利用の先進国として知られるドイツでも、基幹エネルギーは依然として石炭です。エネルギー政策の基本方針も
(1)安定供給の確保
(2)自由競争による適切なエネルギー価格の確保
(3)環境問題への取組み
となっており、当然ながら「安定供給の確保」が最重要視されています。

電力の安定供給を考えれば、日本では既存の原子力発電も活用したいところですが、国民感情を考えると難しいでしょう。

作者の周囲にも、一部のネット情報だけを頼りに、再生可能エネルギーに過度な期待を寄せる人が増えているように思います。せめて、エネルギー白書ぐらいは一読した上で判断して欲しいのですが、「政府の情報は信頼できない」と思っているのかもしれません。

電力における「安定供給の確保」には、一定の余裕が必要とされますが、「原子力発電を稼動しない」という条件の下で、一定の余裕を確保するのは非常に困難でしょう。しかし、そうした困難な道を選ぶことも、たぶん「あり」なのだと思います。

「原子力発電を稼動しない」と決まってしまえば、再生可能エネルギーの活用、省エネ、化石燃料利用の効率化などが進み、新たなビジネスと雇用が生まれます。もちろん、「原子力発電を稼動しない」ことによる経済的なデメリットもたくさんあります。

さて、最終的にどちらの判断が優れているのかは、作者自身はよくわかりません。なので

・極端な考え方に陥らないように注意しながら
・財政や環境の持続可能性を考えたポートフォリオ(エネルギー配分)を
・国内外のエネルギー事情を見ながら
・適宜調整していく

として欲しいのですが、やっぱり感情論が幅を利かせちゃうのかな