どうなる? どうする! 共通番号

どうなる? どうする! 共通番号
クリエーター情報なし
日本経済新聞出版社

社会保障・税番号大綱」を国民の視点でわかりやすく解説しています。

特に、著者の専門である税務の視点での解説は、(財務省の警戒感からか)政府発信のものが少ないので、貴重な情報と言えましょう。もちろん、給付つき税額控除にも触れています。

本書で解説されている通り、所得の把握で重要なのは、納税者番号法定調書(法定資料制度)ですが、もう一つ「電子化・ネットワーク化」があります。もう少し具体的に言えば、

1 納税者を特定し追跡できること
2 納税者の収入や資産に関する情報が集まってくること
3 集められた情報を迅速・正確・効率的に名寄せ・突合(マッチング)できること

納税者番号は、1と3で働いてくれます。
法定調書は、2で有効です。
電子化・ネットワーク化は、1と3で有効です。

日本の場合、電子申告・申請も少しずつ利用が拡大し、紙による申告・申請についても以前からOCR帳票があり、確定申告書等作成コーナーもあるので、電子化はかなり進んだと思います。国の機関や自治体が参加する行政専用のネットワークがあるので、ネットワーク化も進んでいると言えるでしょう。

しかし、せっかくの電子データを紙で印刷して渡して、それをまた入力して電子データにする。といった無駄な作業がなされることもあり、電子化・ネットワーク化の活用方法に課題があると思います。

納税者の収入や資産に関する情報については、収入が減少傾向にある日本では、国民の資産が減っていく前に、資産課税が強化=法定調書の対象範囲が拡大されるかもしれません。

現在把握しきれていない収入の情報であっても、韓国の現金領収書制度のようにインセンティブを与えて、情報が集まりやすくする仕組みを作れば、捕捉率を改善することも可能でしょう。

オーストリアのセクトラルモデルについても補足しておきましょう。

オーストリアのセクトラルモデルは、番号制度のモデルではなく「ID管理モデル」(Identity Management Models)と言うのが正確なところです。

納税者番号の類型で言えば、オーストリアは社会保障番号型であり、用途が拡大される前のアメリカやカナダに近いと思います。ただし、中央政府による住民登録番号制度がある点や、民間により社会保障番号が付番される点などは、アメリカやカナダと異なります。


出典:電子行政の視点からの検討(PDF:平成22年4月5日 内閣官房IT担当室)

セクトラルモデルによる情報連携は、あくまでも「例外」であって、社会保障番号などによる情報交換・共有・連携等が主です。

日本においては、「情報連携基盤を通すことが原則である」といった主張もありますが、社会保障・税番号大綱案を読み解く(17)、「情報連携に該当しない」分野に注目しようで解説したように、「IDコード(符号)」や「情報連携基盤」が上手く機能しなくても、政策上重要な情報の利用については「情報連携に該当しない」とすることで、「(社会保障と税の)番号」は機能するようになっています。これは、オーストリアの例を見てもわかるように、適切な対応だと思います。

大綱に従えば、限定列挙で法令に明記された手続等に限り、情報連携基盤が使われることになります。情報連携基盤を利用するためには、「対象機関が保有する情報が符号に紐付けられていること」が前提条件となりますので、これを嫌う機関も多いはずです。

ですから、「情報連携基盤」が主となることは難しく、例外的な利用にとどまるのではないかと思います。

わざわざ社会保障と税に共通する番号を導入するのであれば、番号をそのまま利用して情報交換・共有・連携等を行うべきであり、番号の代わりに符号を用いる必要は無い(セキュリティ等とも関係ない)のです。

本人確認と番号の関係についても、少し触れておきましょう。

まず、番号で本人確認することはできません。番号ができるのは、個人の特定(識別)です。

ですから、仮に緊急時において「番号の告知で本人確認する」という措置があったとしたら、それは「本人確認をしない」ということです。言い換えれば、「とりあえず個人の特定だけ行い、本人確認は後で行う」と。

これはどういうことかと言えば、「電子認証等の分野における常識は、行政分野では同じように通じない」ということです。

行政分野における常識は「法令に定められた手続等に従うこと」なので、実際には本人確認していなくても、「あたかも本人確認したかのように取り扱う」ことがあるのです。

例えば、役所への申請や届出では、本人確認しないことが多いのです。「記名押印」や「住民票の写し提出」があることで、「あたかも本人確認したかのように取り扱っている(思い込んでいる)」のですね。

本人確認は「なりすまし」と大いに関係があります。

アメリカの社会保障番号を例にして、番号制度を導入すれば「なりすまし」が増えるといった主張があります。

しかし、実際には、社会保障番号で「なりすまし」をしているわけではなく、「本人確認を怠った」「本人確認時に偽造された身分証明書を提示された」ことなどにより、「なりすまし」は発生します。

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なりすまし詐欺等は共通番号があっても無くても起きるもの。いい加減な本人確認、偽造しやすい公的身分証明書などが狙われます。

警察もだまされるような精巧な身分証明書が数万円で入手でき、運転免許証も州によって異なる。ICカード化も遅れている。そうした事情も「なりすまし」が増える要因となっています。

「なりすまし」を完全に防ぐことはできませんが、予防策としては、本人確認について統一的なルールを作ることが有効でしょう。日本でも本人確認は厳格化される傾向にありますので、将来的には、ICカードタイプの国民IDカード取得が義務付けられ、様々な場面で提示を求められることになるかもしれません。