クラウド化する世界、リソースの交通整理役を担うのは誰か

クラウド化する世界
ニコラス・G・カー,Nicholas Carr
翔泳社

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クラウドと言っても「クラウドコンピューティング」の本ではありませんが、社会の動向がなんとなく理解できます。

ITインフラを利用するコストが劇的に下がることで、アイデアと行動力があれば、個人や中小企業でも、大企業に負けず劣らないサービスを生み出すことができる。

たぶん、これは新しい格差社会への突入なのかと。

所有物や既得権益の上にあぐらをかいていた人たちは、そこから引き摺り下ろされるかもしれない。

所有物や既得権益のような障害を理由にして、何もしないで敗者であることを嘆いていれば良かった人たちも、障害がなくなったことで「言い訳」が通用しなくなるかもしれない。

努力の方向性というのは、社会の動向に左右されるようで、なんとも曖昧な代物である。

本書では、電力会社の発展と比較して、ITのユーティリティー化(電気や水道のように、好きなときに好きな分だけ使える)を解説しています。

確かに、グーグルが提供する個人向け生産性向上ツール(PPT:Personal Productivity Tool)は、ほとんど無料で使えるし、機能も驚くほどのスピードで強化されています。

ところが、面白いことに、電力の世界では、コンピューティングと違う動きも出ています。

なぜ、デンマーク人は幸福な国をつくることに成功したのかでも紹介したように、デンマークのエネルギー自給率は150%超えますが、電気の16%は市民が作っています(風力発電所の8割が市民所有)。

電力の作り手が、個人や企業から電力会社へと移ったのが、再び個人や企業も作り手として参加するようになってきたのです。

日本でも、太陽光パネルを設置する個人住宅が増えれば、まさに個人が電力の作り手として、重要な役割を担うようになります。

電力の作り手が拡大・拡散すると、それを交通整理する役割が必要になります。

米国のオバマ政権が掲げる「スマートグリッド」とは、正にそういうことなのでしょう。

さらに、将来的には、「電力」というくくりではなく、あらゆる「リソース(天然資源、人口資源、物流や情報通信など)」を交通整理する役割に脚光が浴びることでしょう。

日本が、環境技術立国を標榜するのは悪いこととは思いませんが、電気を作る(太陽光パネル、太陽電池)、電気を貯める(蓄電池)、電気を送る(超伝導)といったことにばかり力を注いでいると、一番美味しいところを「リソースの交通整理」を制覇した企業や国家に持っていかれるのではないのかなあ、とちょっと心配しています。