平成20年度における行政手続オンライン化等の状況、なぜ実態とかけ離れた利用件数がはびこるのか

電子政府の総合窓口では、行政手続オンライン化法第10条に基づく公表として、毎年度の行政手続オンライン化とその利用状況を公表しています。今回、平成20年度における行政手続オンライン化等の状況(PDF)が公表されました。

この「行政手続オンライン化法第10条に基づく公表」については、電子政府推進員の協議会でも大変に評判が悪く、士業の人たちと話をすると、『現実を反映していない利用件数は、単なる数字遊びで、協力する気をなくす』といった厳しい意見も聞かれます。

作者自身も、電子政府評価委員会等で何度も利用件数の透明化・公正化を訴えてきたのですが、ほとんど効果はありませんでした。

関連ブログ>>第4回関東電子政府推進員協議会に参加してオンライン利用件数の水増しを防ぐ、「利用件数」の定義を明確にするべき

電子政府における情報公開や透明性は、何にも増して重要なものであり、行政側の情報操作で、あたかもオンライン行政サービスが多くの国民に評価され利用されているような誤解を与え続けることは、健全な電子政府の発展を妨げるものでしかありません。

電子政府関係者は、その代償を払うのが最終的には自分自身であることを、きちんと認識しておく義務があります。

●オンライン化の状況

各行政機関においてオンライン化の対象とされている手続:14,327種類
オンラインにより申請・届出等を行うことが可能な手続:13,129 種類

となっており、約92%がオンライン化していることになります。

ただし、この数字は、手続の一部がオンライン化していれば「オンライン化済み」となるため、オンラインで手続が完結するわけではありません。例えば、別途窓口へ提出や説明に行ったり、紙の添付書類を役所宛てに郵送したりする必要がある場合でも、「オンライン化手続」と数えられてしまいます。

以前は、一部のオンライン化と全部のオンライン化で分けていたのですが、現在は両者をごっちゃにしているため、オンライン化の実態がわからなくなっています。

●オンライン利用状況

オンライン化されている手続全体の件数:4億6,961万1,207件
オンラインを利用した件数:1億5,998万3,207件

となっており、オンライン利用率は34.1%となりました。

オンライン利用件数の実態は、かなりひどいもので、実際の利用率は10%も無いでしょう。

「オンライン利用」というと、普通の人は、例えば楽天やアマゾンなどでのオンラインショッピングだったり、iTunes Music Storeなどで音楽データをダウンロード購入したりすることを思い浮かべるでしょう。オンラインバンキングやオンライントレードもあるでしょう。

ところが、電子政府のオンライン利用は、手続の一部でもコンピュータ処理されれば、国民の利便性に貢献したと行政側で勝手に解釈して、オンライン利用件数に数えてしまうのです。

例えば、窓口に行って証明書の発行を請求します。その窓口では、オンライン処理で他の行政機関からデータをもらって、そのデータをプリントアウトして証明書を発行します。これも、「オンライン利用件数」となります。

申請データを格納したFDを持って、窓口へ行き提出します。これも、「オンライン利用件数」となります。

つまり、「オンライン利用する」のは、電子政府の利用者である国民ではなく、行政なのです。

●行政中心主義、提供者側の理論で進む電子政府

なぜこうした「おかしなこと」が起きているかといえば、現在の電子政府が、国民の利便性を考えた利用者中心主義ではなく、行政中心主義、提供者側の理論で構築・運営されているからです。

もちろん、建前としては「国民の利便性」や「利用者の視点」が重要であるとされていますが、実態が伴っていないのですね。

政府戦略の目標として、「オンライン利用率50%の達成」が掲げられました。上記の数字稼ぎは、全てこの目標を達成するために行われています。その目標が達成されて嬉しいのは誰でしょうか。得をするのは誰でしょうか。決して国民ではないことは、誰の目にも明らかでしょう。

もちろん、現場で実際に電子政府サービスを作り運営する人の中には、「国民の利便性」や「利用者の視点」の重要さを正確に理解し、実践しようと苦労している方もいます。

だからこそ、オンライン利用状況における「数字稼ぎ」は、早急に是正されなくてはならない、電子政府における実害なのです。

「国民の利便性」や「利用者の視点」を追求するのであれば、まずはオンライン利用状況の公開方法から見直す必要があります。