電子申請率450倍の事例から学ぶ、電子政府担当の公務員に必要な「システムの設計力」とは

行政情報システム研究所が発行する「行政&情報システム」の2009年4月号(目次PDF)に

『電子申請率450倍 ―新公益法人制度に見る業務・システム設計の舞台裏―』
内閣府公益認定等委員会事務局 業務・システム係長 大平 利幸

という報告記事があります。

2008年12月から始まった新公益法人制度に合わせて、電子申請システムの見直しを行い、その結果、0.2%の利用率が90%以上になったというものです。

関連>>公益法人information

電子申請の利用率向上を目指して、3つのステップが実施されたとのこと。

1 ターゲットの分析
2 行動分析と電子申請システム設計
3 職員の利便性向上

電子政府の担当者から、このような報告があることを、作者は心の底から嬉しく思います。「あー、日本の電子政府にも、ようやく、こうした人材が育ってきてくれた」という喜び

まさに、「使ってもらえる電子申請」の事例であり、今後の日本の電子政府を作るための重要なモデルケースと言って良いでしょう。

もちろん、公益法人の電子申請も、まだまだ改善の余地が多いと思います。

しかし、上述のような基本的な考え方(設計思想)がしっかりしている限り、利用者からの意見を踏まえて、より良いサービスとなっていくことと思います。

●学ぶべきは、「なぜ、そうしたのか」

新しい電子申請システムでは、電子署名方式ではなくID・パスワード方式を採用しています。

ここで重要なのは、「結果」ではなく「理由」です。

すなわち、「なぜ、ID・パスワード方式を採用したのか」という点。

そして、その答えは「利用者のことを考えたから」です。

「電子署名を止めて、ID・パスワードにすれば、電子申請の利用率が上がる」という誤解は禁物で、他の要素が欠けていれば、やはり利用率は伸びません。

公益法人の電子申請では、ID・パスワードの発行方法一つを見ても、「利用者のことを考えて」様々な工夫がされています。

そこに、これまでの電子申請との違いがあるのです。

●求められる「設計力」

今回、注目したいのは「設計」という言葉です。

「システムの設計力」

これが、電子申請を初めとした電子政府を担当する公務員に求められる能力であると思います。

ここで言う「システム」とは、単に「情報システム」を意味するものではありません。

「限られた資源を有効に活用し、業務をより効率・効果的に実施し、本来の事業目的や使命を果たすための仕組み」という意味での「システム」です。

この「システムの設計力」の先には、「新しい社会システムをデザイン・設計する能力」があり、これからの公務員に期待される役割と合致するものです。

●次世代の電子政府を作るのは、次世代の人材

今回の報告は、「係長」という若い世代からのものです。

以前、評価も現場から、道路占用許可の電子申請から学ぶで紹介した論文の執筆者も「係長」でした。

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる、若い世代が作る電子政府に期待でも触れたように、次世代の電子政府を作るのは、やはり次世代の人材と思います。

インターネットや携帯が物心付いた時から当たり前だった20代、30代の人たちが、これからの日本の電子政府を作っていくのです。

そうした状況において、「少なくとも、邪魔だけはしないようにしなくちゃ」と思う作者なのでした

“電子申請率450倍の事例から学ぶ、電子政府担当の公務員に必要な「システムの設計力」とは” に6件のコメントがあります

  1. 電子申請利用率90パーセント以上の根拠母数
    公益法人Informationサイトを毎日チェックしています。

    電子申請利用率90パーセント以上を公表したのが次のところです。
    https://www.koeki-info.go.jp/pictis_portal/common/index.do?contentsKind=120&gyouseiNo=00&contentsNo=00017&syousaiUp=0&procNo=contentsdisp&renNo=1&contentsType=02&houjinSerNo=&oshiraseNo=&bunNo=1120021319&meiNo=1120016573&seiriNo=undefined&edaNo=undefined&iinkaiNo=undefined&topFlg=0

    確かに90パーセント以上ですが、まだまだ総申請件数が130件でその内電子申請の件数が121件という実情です。分母がこの程度で90パーセント以上といわれると、なんとなく眉唾に思えるところが哀しい。

    ところで、この申請システムではIDパスワード、併せて代理申請も認めているところです。が、この申請後の認定、認可の後に、法務省オンライン申請システムで変更登記申請する場合、これは別システムになるので、電子署名を求めます。
    ここらあたりが、なかなか上手く行かないのだよね。

    ここらあたりも、ワンストップで電子署名を求めないことにすれば、一気に電子申請が推進するように思うが・・・・・

  2. 制度改正はビジネスチャンス
    イエモリさん、こんばんは。
    コメントありがとうございます。

    分母が小さいのは、制度が始まったばかりなので仕方が無いですね。今後、分母が増えるに連れて分子がどうなるか、チェックしていく必要がありますが、その辺りは、報告でも触れています。

    登記については、ご指摘の通りです。半自動的に登記されるようにすれば良いのですが。。。電子署名より、行政の縦割りや権益争いの方が、よほど切実な障害なのに・・・と思います。

    制度や法律の改正は、士業にとっては、やはりビジネスチャンスのようですね。ちょっと、検索しただけで、出るわ出るわ。行政と異なり、宣伝も積極的で、さすがに、たくましい(笑)

    公益法人申請 – TOSA たけうち経営労務事務所
    http://roudou.sakura.ne.jp/index.php?topic=80-10

    公益法人移行支援ページ 田中正明税理士事務所
    http://www.estanaka-zeirishi.jp/pc/free5

    公益法人設立・移行申請のことならおまかせ・会社設立申請・変更申請サービス
    http://www.fukai-office.jp/

    公益法人設立サポート / 一般社団法人・一般財団法人の設立を代行
    http://1353koeki.com/

    こうした士業の宣伝は、利用者の意見や使い勝手の実情がわかるので、電子政府の担当者も要チェクです。

  3. 士業等に頼らなくてもよろしいのだ
    むたさんの、
    >ちょっと、検索しただけで、出るわ出るわ。行政と異なり、宣伝も積極的で、さすがに、たくましい(笑)

     うん、商魂たくましいところです。今のところ地下鉄の車内にはこの手の広告はありませんが。

     ところで、余談。
     公益認定移行の第一号である社団の理事長が嘆いていた。
     コンサルなどに依頼しなくとも、簡単にできる手続なので、法人自身で申請すべきである、と。高額な代行手数料が要るような申請ではないのだから、とも。

  4. 申請窓口が馬券売り場みたいだ?
    ちょいと余談です。

    内閣府の公益認定等申請窓口(オンライン以外)につき、その受付場所をみて苦笑してしまった。虎ノ門のとあるビルの一室ですが。

    馬券売り場のようだ、と形容した人もいます。(笑)記念に撮影しておきました。

    見学がてら訪問するのもよろしいが、先ずはやはりオンラインにて申請がよろしいですね。

  5. 先進的なモデルポータルサイト
    公益法人Informationポータルサイトの先進部分は、国への手続と都道府県への手続が一カ所でできることです。この点を積極的に評価しておきたい。都道府県からの情報もこのポータルサイトにて取得できる。

    電子政府、電子自治体の最新モデルではないか、と期待してもいます。

  6. 誰に頼んでも同じ
    イエモリさん、こんにちは。
    コメントありがとうございます。

    手続の簡素化は時代の潮流ですから、代行業者に依頼しなくても問題ないですね。事務職員に「手続やっておいて」と指示すれば済むことです。

    ただ、いくら手続が簡素化されても、代わりにやってもらうのは自由なので、法人側の意識(コスト感覚など)次第と思います。

    「国への手続と都道府県への手続が一カ所でできる」ことは、大きな強みとなりますね。海外事例としても、ほとんど聞いたことがありません(地方分権度合いの違いもありますが)。

    今後は、日本の電子政府でも、優れたサービス、単純に便利だから使われるサービスが、少しずつですが生まれてくると思います。

    それは、政府全体で取り組む大きな電子政府プロジェクトからではなく、今回のような制度改正から(ゼロからスタートできる)、あるいは市民に近い地方自治体から生まれてくることでしょう。

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