次世代電子政府サービスを作るためのキーワードとは

デジタル新時代に向けた新たな戦略~三か年緊急プラン~(PDF)の決定版が公開されています。

今回は、三か年緊急プランから、「日本の電子政府が、今後どのように変化していくのか」を考えてみたいと思います。

電子政府については、「第2章 具体的施策(7ページ)」にある

(プロジェクト1)
『国民がサービスの利便性を実感できる新しい電子政府・電子自治体の推進』

に書かれています。

●目指すべき成果が問われるように

本プランの良いところは、「目指すべき成果」について、国民、企業、行政それぞれの視点から、わかりやすい言葉でまとめているところです。

目的や成果を明確にするのはとても大切なことなので、もっと冒頭に持ってきても良かったでしょうか。

その成果とは

(1)国民にとって

・行政情報のデジタル化に伴う雇用が生まれる。
・行政情報に手軽かつ安価にアクセスできるようになる。
・一度の手続で複数の機関への手続を済ませることができるなど、行政手続に要する手間や費用が大幅に軽減される。
・デジタル情報の公開や、行政機関等が保有する利用者自身の情報にいつでもアクセス・確認できるようになるなど、透明性の向上により行政への信頼感が増す。

(2)企業にとって

・行政手続に要する手間や費用の大幅削減により、投資や競争力強化にリソースを充当できる。
・公開された行政情報を活用することで、新規ビジネス創出や企業の労働生産性の向上が期待できる。
・許認可のスピードが上がり、国際的な企業競争力が増す。

(3)行政にとって

・システムの刷新、情報の活用等により業務の質の向上、業務能率の向上が図られる。
・業務の効率化により費用を節減し、こうしたリソースや人財を今後拡充が必要な分野に充当できる。

上記の「目指すべき成果」から、「これから政府が何をやろうとしているのか」が何となくわかりますね。

●電子政府の基本は、「簡単に」と「すぐに使える」

電子政府サービスに「利便性の実感」を求める場合、必須の要素、つまり「最低限、満たしておくべきもの」があります。

それは、「きちんと仕事をこなしてくれること」と「簡単に、そしてすぐに使えること」です。

電子政府に必要な人材活用と顧客満足で、次のような「顧客満足に影響を与える4つの期待」を紹介しました。

1)正確さ
2)すぐに利用できる便利さ
3)協力関係(理解されているという実感)
4)アドバイス

電子政府サービスでも、「正確さ」と「すぐに利用できる便利さ」が満たされていなければ、どんなに高機能でお金をかけたサービスでも、利用者の満足を得ることは難しく、国民による「利便性の実感」は期待できません。

世界の電子政府先進国でも、サービスの利用が期待通りに増えなかったため、サービスを使ってもらう成功要因として「easily(簡単に)」や「convenient(便利な)」を、より強く認識するようになっています。

●基本の次に、目指すべきものとは

「きちんと仕事をこなしてくれること」と「簡単に、そしてすぐに使えること」を満たしたら、次はより高度なサービスを目指します。

政府が進める次世代電子行政サービスでは、「ワンストップサービス」を目指しており、確かに「ワンストップ」は大切と思います。

しかし、国民の高齢化や行政機関・職員の削減が進むことを考えると、より重要なのは、次の3つです。

1 マルチチャネル化:好きな方法を選べる
2 マルチストップ化:色んなところから利用できる
3 マルチファンクション化:色んなことをしてくれる

例えば、

インターネットはもちろん、窓口や電話など、慣れ親しんだ好きな手段で行政にアクセスできる。申請や申し込み、問い合わせ、相談などができる。複数の方法を組み合わせても良い。

これが、マルチチャネル化です。

最寄の役場や出張所から、大抵の用事は済んでしまう。わざわざ役所のホームページへアクセスしなくても、いつも利用しているポータルなど民間ウェブサイトからサービスを利用できる

これが、マルチストップ化です。

職員に尋ねれば、少なくとも関連・隣接する業務については、たらい回しにすることなく、適切に対応してくれる。役所内の総合窓口へ行けば、複数種類の手続きでも処理してくれる。

これが、マルチファンクション化です。

上記3つは、民間では既に実現しつつあります。

・実店舗でもウェブでも売上げを伸ばす小売業。
・ウェブでクーポンを配り、お客を実店舗に誘導する
・アフィリエイト広告
・医療における「総合医」、IT・製造業における「多機能工」
・機内清掃まで行う客室乗務員や機長
・フロントや接客もこなすホテルのコックや支配人
などなど。

●求められる「全体的な視点」と「徹底した顧客主義」

今後は、「電子政府」という閉じられた狭い世界ではなく、より広範で全体的な視点・思考・行動が必要になってきます。

その上で、「徹底した顧客主義を実践する」ことが必要になります。

マルチチャネル化、マルチストップ化、マルチファンクション化。すべて、顧客中心の思考から生まれるものです。

けれども、残念ながら、今の行政サービスや電子政府サービスは、見せ掛けの顧客主義で終わっているケースが多いのです。

関連>>電子政府の成功は、行政のやり方を押し付ける文化を変えることから

●具体的な施策は

上記のような電子政府サービスを実現するためには、次のような施策が必要となります。

1 役所同士や官民の連携・情報共有ができるようにする
2 電子政府サービスや行政データベースを民間に解放する
3 顧客視点で業務を見直す
4 顧客視点で組織を見直す
5 顧客視点で人材採用・育成を行う

1と2は少しずつ進んでいるので、やはり「本気の顧客視点」が急務ですね