オンライン利用拡大行動計画が決定、オンラインなら手数料が半額に

高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)のページに、平成20年9月12日付けで『オンライン利用拡大行動計画(PDF)』概要版PDF)が公開されました。

前年度までは、各省庁ごとに行動計画が策定されていましたが、平成20年6月11日決定の『IT政策ロードマップ(PDF)』(下記、抜粋参照)に基づいて、省庁横断的・政府全体的に検討し、IT戦略本部の決定となっています。

★抜粋:国の行政手続に関し、別添「国の行政手続のオンライン利用促進に関する取組方針」に基づき、取組の対象手続を重点化し、新たな目標を設定するとともに各手続ごとに添付書類の省略、手数料の引下げ等の具体的な改善措置を定めた上で、政府全体としての行動計画を本年8月末までにとりまとめ、IT戦略本部で決定する。上記作業に当たっては、内閣官房に関係府省を含めた検討の場を設け、行動計画の策定に反映する。

●目標達成のための重点的取組

重点的取組みとして、次の9項目を掲げています。

1.認証基盤の抜本的な普及拡大

①ID・パスワード方式のセキュリティの向上を図り、現行の電子署名方式とは別に、本人のID・パスワードと電子官印を組み合わせて活用する新たな申請の仕組みの導入等を検討
②公的個人認証サービスの改善
(1)本年11月を目処にICカードリーダライタ用ドライバの自動設定、Java(JRE)の不要化を実現
(2)将来の抜本的改善策を検討(有効期間の延長等)

★作者コメント
電子官印方式を採用した場合、申請者の否認防止機能が無くなりますが、そもそも紙申請では簡単に否認できてしまう(実印を必要としない手続がほどんど)わけだから、申請者の負担を増やしてまで電子署名を利用させる必要は無いと言えます。

電子署名(ICカード)の利用については、制度設計から見直さないと難しいでしょう。

日本におけるID管理体制や国民感情を考えると、一つの方式を政府が決めて「これを使いなさい」とするのは得策ではありません。いくつかの選択肢を用意して、その中で成功したものを拡張していくのが良いでしょう。

2.オンライン利用に係るガイドラインの策定

電子政府の手続に応じたセキュリティ確保策及びユーザビリティ向上方策に関する統一的ガイドラインの策定に向け、内閣官房を中心に有識者を含めた検討会を立ち上げ年度内に一定の方向性を取りまとめる

★作者コメント
ユーザビリティについては、優れた電子政府サイトもありますが、電子申告・電子申請については、初歩的なことさえ満たしていないものがあり、かなりレベルが低いと言えます。

統一的ガイドラインの他に、省庁横断的に代表的なサービスについてユーザビリティテストを実施し、その結果を公表すると良いでしょう。また、新しく始めるサービスについては、一定のレベルに達していない場合は、運用を開始できないようにするべきです。

開発ベンダーに対しては、契約(SLAなど)で定期的なユーザビリティテストと改修を義務付けたりすることで、過度な費用の発生を防止する手立ても必要です。

3.経済的インセンティブの向上等

①手数料のあるものについては、基本的に一律、紙申請の手数料の半額となるよう手数料体系を見直す方向で検討・調整
②公用請求時における逆インセンティブ(紙より手数料が高額なもの)の解消
③電子政府推進税制の継続を検討

★作者コメント
逆インセンティブの例としては、登記関連の証明書があります。経済的インセンティブは、費用対効果の検証を行い、「ばらまき」とならないようにしましょう。

関連ブログ>>電子申告のインセンティブは慎重に

4.添付書類の削減

①申請者本人による自己保管の義務化により、添付書類を省略できる範囲を拡大
②行政機関発行の証明書類の提出を省略するためのバックオフィス連携の推進

★作者コメント
添付書類の削減は、申請者の負担を軽減するために実施されるもの。自己保管の義務化がかえって負担を増やすことにならないよう注意しましょう。

バックオフィス連携の推進は、国民の利便性実感に直結するので、より力を入れるべきです。チャネル(窓口申請かオンライン申請か)に関係なく、すべての人に利便性を提供するので、その市場規模は何倍にもなります。現に、政府のオンライン利用率の大半は、バックオフィス連携を基礎とする「オンライン照会」で稼いでいます。

関連ブログ>>登記申請オンライン利用件数(乙号)の内訳

5.窓口サービスの充実

高齢者や中小・零細事業主等パソコンに不慣れな者に対する窓口でのオンライン入力補助・代行サービス(窓口来所型サービス)の充実

★作者コメント
以前コメントを頂いたように、『電子申告の利用率を上げるために、行政機関にノルマを課し、窓口に来た申請者に対してパソコンの利用を無理強いした』といった報道がありました。国民に対して誤解を与えたことは事実と思いますので、こうしたことがないよう「利用率の向上は、それ自体が目的ではなく、利用したことで国民がどう感じるかを大切にする」といった認識が必要でしょう。

上記の添付書類省略で触れたように、バックオフィスの連携が進めば、電子申請や電子申告を利用しない人でも、十分に電子政府の恩恵を受けることができます。

6.使い勝手の向上

①オンライン申請システムの初期設定の簡素化、申請画面の簡素化
②申請者の相談・サポート体制の充実

★作者コメント
ユーザビリティテストの重要性については、「オンライン利用に係るガイドラインの策定」で触れましたが、使い勝手の向上や簡素化は、申請者だけでなく行政側の負担も減らしてくれます。

システムが簡素化されれば、説明も簡単になり、利用者が迷うことも少なくなります。現在はシステムが複雑なため、説明を見ても何を言っているのかさっぱりわからない。。といった状況です。

「申請者の相談・サポート体制の充実」は大切ですが、コールセンターのような仕組みは大きなコストが発生します。システムや手続を簡素化することで、できる限りウェブ上で問題を解決できるようにしましょう。

7.国及び地方公共団体によるオンライン利用の拡大

①源泉徴収票の提出、社会保険手続等について、国が率先してオンライン申請を実施
②e-TaxとeLTAXの連携強化等

★作者コメント
政府自身がオンライン利用者となることは、海外では当たり前です。利用者の分類でも、市民、企業、外国人といった中に「政府職員」があります。海外では、日本のように政府専用の総合ネットワーク(霞ヶ関、LGWANなど)が整備されていないため、インターネットを利用した電子政府サービスを政府職員も利用することになるからです。

e-TaxとeLTAXの連携強化については、国と地方の連携例として注目して良いでしょう。市町村における導入が遅れているeLTAXも、半ば強制的に導入を進めることが決まっています。既存のインフラを活用することは大切ですが、導入に当たっては市町村の負担を軽減する措置が必要です。

8.企業によるオンライン利用の拡大

各種経済団体等に対しオンライン利用拡大及び業界慣行の改善を要請

★作者コメント
海外では(例えば、ドイツや米国)、大企業などに電子申告の利用を義務付ける措置が取られています。

電子申告・電子申請の利用を企業や業界に利用させるためには、業務フローの分析を踏まえた業務改革やデータの標準化が必要となります。決して、政府のやり方を一方的に押し付けたりしてはいけません。

9.業務の効率化・ペーパーレス化の徹底

★作者コメント
業務の効率化・ペーパーレス化の徹底は、業務・システムの最適化により、ある程度は進んできたと言えます。最適化の対象外で作者が進めて欲しいのは、「政府の会議」と「国会の質疑応答」業務です。

電子政府評価委員会も会議の一つですが、会議の日程調整・準備・開催等は、もう少しシステム化・ペーパレス化できるのではないかと思います。

「国会の質疑応答」は官僚の大きな負担となっていますが、これもシステム化して、国会議員が質問を電子申請で行い、標準化された回答様式に従って回答し、議員や国民が国会中継と共にインターネット経由で閲覧できるようにすれば良いでしょう。

この他に、次の2点を明記。

(1)行動計画の着実な実行を確保するため、総務省は、計画の実施状況を厳格にチェック。また、電子政府評価委員会が評価し、PDCAサイクルを確立

(2)行動計画に基づきオンライン利用拡大を図る一方で、利用が極めて低調な手続については、システム停止も含めて見直し(メリハリの効いた対応)

★作者コメント
「システム停止も含めて見直し(メリハリの効いた対応)」は、予算措置と連動してかなり厳格に行われるようです。

パスポート電子申請から学ぶ、電子政府サービスの引き際でも触れたように、使われた税金が無駄にならないような見直し方法を検討しましょう。

“オンライン利用拡大行動計画が決定、オンラインなら手数料が半額に” に8件のコメントがあります

  1. 免許税はそのまま
    半額に注目したけど、あくまでも手数料で、登記事項証明などの登記手数料は、23年度から半額と。すぐやらないのは、登記特別会計が減ると困るというところでしょう。

    で、不動産登記、商業登記の免許税は

    「電子政府推進税制については,その必要性,現行税制の利用状況やオンライン利用促進への効果等について検証した上で,現行税制を継続する必要性について検討する。」

    現状維持を継続することを「検討」するのだそうです。
    これで71パーセントがいけるのか。もっとも、証明書や、登記情報提供サービスぶっ込みでの目標ですから、なんとかなるとの皮算用でありましょう。

  2. なんだ持ち回り決議
    なんと持ち回り決議ですね。辞任表明後の消化内閣ですからいい加減になったのか。
    http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kaisai.html

    で、どうも「政」のチェックが入っていると思えない部分。
    バックオフィス連携を目玉にうたいながら、所得税では、
    「住民票・登記情報について、バックオフィス連携可能となり即時に情報取得が可能となった段階での添付省略を検討」
    とあるのに、不動産登記に添付を要求される会社、法人の代表者事項証明などは
    「引き続き現在の措置を実施」となんら検討してません。

    やっぱ埋蔵金が減るのが困るからでしょう。

  3. 特別会計の壁
    どうも埋蔵金の定義がよくわかってませんが、22年度までの残り少ない特別会計は、なんとしてでも減らせないという危機感か。

    オンライン利用率のノルマより、そっちを優先というのが見え見えであります。

    バックオフィス連携もですが、銀行など民間機関に提出する分には、韓国のように自宅や、オフィスで印刷して、確か5回までは使えるというああいうシステムを導入しないと利便性は伴いません。
    ま それも特別会計が減るから23年度以降の検討対象でしょう。

  4. 自動車保有関係手続の実績値?
    http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/080916honbun.pdf

    こちらのpdf131ページに、平成19年の実績値が54%とある。どのような積算で、この数値となっているのか根拠式が不明です。

    なお,18日にインセンティブ(笑)での感謝状贈呈がありました。
    http://www.mlit.go.jp/common/000023568.pdf

    これの資料によると、
    「(参考)平成20年1月から同年6月までのOSS申請の総件数は、7,507件。」
    年間新車登録台数が約360万件。実績値の数値はなにをもって積算したのか、気になります。

    バックオフィスでの件数かもしれないなぁ。

  5. もはや利用率は数字遊びに
    sagoさん、イエモリさん、こんにちは。
    いつもコメントありがとうございます。

    登記事項証明書等も、定款の認証も、法務省にとっては貴重な収入源ですからね。厳しい抵抗が予想されます。

    オンライン利用率については、もう「何でもあり」の状況です(笑)

    例えば、「窓口来所型サービスの導入・充実」に次のような記述があります。

    『行政の効率化や国民利便の向上に資するようなオンラインを活用した申請等を拡大する観点から、行政内部において申請を受けた後の事務処理過程が電子的に遂行される場合には、窓口等でデータ形式により提出される申請についても、オンライン申請等件数として把握するものとする。』

    いわゆる「FD申請(磁気媒体申請)」についても、オンライン利用件数に数えましょう。ということです。

    これだけ役所にコンピュータ・ネットーワークが普及した現在、「行政内部において申請を受けた後の事務処理過程が電子的に遂行されない」手続ってあるのかなあ。

    そのうち、「窓口等における紙申請であっても、事務処理過程が電子的に遂行される場合には、オンライン申請等件数として数えます。』となるかも。。これなら、90%も夢ではありません。

    ということで、オンライン利用率は、行政のさじ加減でどうにでもなることが、改めてわかりました。。はてさて、どうしたものか。

  6. いろいろ数字を稼ぐ
    ほんと利用率の数字操作は、どこの省もなんでもありになってきましたね。
    e-Taxも100万件以上が、税務署で入力させられたケースだったとか。来年自分でやるころには、もう操作忘れているでしょう。税務署の職員は残業が増えただけなのではないかな。

    登記に関しては、半ラインの解消には、まったく検討してる気配もない。商業法人は、ほっといても、集中化で全国80庁に減るからいやでもオンラインでやると思っているのでしょう。
    原本別送で雑用もかなり増えると思うのですがねえ。

  7. 数字あそびは自由にやってよし。ただし計算式は公開せよ
    むたさんの、
    >ということで、オンライン利用率は、行政のさじ加減でどうにでもなることが、改めてわかりました。。はてさて、どうしたものか。

    これはもともと、当初から好きなようにいじれる、匙加減次第ですよね。

    登記事項証明書に関しての交換システムも利用件数に入れていたし。(爆笑)
    これらについては、計算式を明らかにしていたのでそれはそれで納得しています。

    が、今回のOSSの実績値については、どこに計算式を提示しているのか、今のところ分からないのですね。これは困る。

    実績値なり利用率については、行政内部のみに通用する競争値みたいなもんで、国民側にはなんの効果もなし、です。(爆)

    「あの省庁の利用率より、我が省の利用率が高いぞ。」と比較するに便利がよい程度ね。

  8. 利用率の次の評価指標は?
    行政のさじ加減でどうにでもなるオンライン利用率は、評価指標としては、もう機能しない。そうすると、それに代わるものが当然必要です。

    本年4月1日の第6回経済財政諮問会議での、以下の問題提起はなんだったのか?
    『(町村議員)多分、皆さん同じことを言っておられる。でも、現実はほとんど進まない。・・
    (御手洗議員)業務そのものの見直しからスタートせずに、現状の業務をそのままIT化しようとしたことが問題である。』

    計画を立てるには、なによりも「正確な現状認識」が必要。そして、「何を実現したいのか」という目的の明確化が必要です。

    耳障りのいい「利便性の向上」をいうかぎり、IT戦略はだめです。行政の「効率性」の追求。IT化の目的はこれにつきます。
    そのための次の評価指標を早く出してください。手遅れになりますよ。

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