日本の電子政府が良くならない本当の理由(12):必要なのは「行政サービスの棚卸(たなおろし)」

今回は、「原則として、全ての電子政府サービス事業を民間に委託する」について解説する。

●「電子政府サービス事業を民間に委託する」際のポイント

「電子政府サービス事業を民間に委託する」際のポイントは、次の通りである。

  1. 各サービスごとに、事業経営のリスクと責任を負わせる
  2. リスクや責任に見合った報酬を与える
  3. サービス品質とコストの基準を明確にする

この3つに注意して民間委託を実行すれば、「今よりも少ないコストで、行政サービスを良くする」電子政府の実現も夢ではない。

●「電子政府無責任体制」を無くすには

電子政府プロジェクトの責任は誰に? 行政の責任を期待しない仕組みを」でも触れた通り、現在の電子政府サービスは、責任の所在が曖昧で、何十億円もかけてほとんど利用されないシステムがあったとしても、誰も責任を取らない仕組みになっている。

そこで、

  1. 行政による電子政府サービスの独占を止め
  2. サービスのプロである民間の力を生かしつつ
  3. 各自(行政と民間)の役割と責任が明確となり
  4. かつ持続可能な方法で
  5. 「今よりも少ないコストで、行政サービスを良くする」

には、どうすれば良いかを考えることになる。

●なぜ民間に委託するのか

行政(公共・公益)サービスの民間委託は、世界各国で行われ、日本でも地方を中心に進められてきた。当然ながら、成功例もあれば失敗例もある。日本の場合は、やり方が稚拙なため、どちらかと言えば失敗例の方が多いかもしれない。

民間に委託する理由としては、財政難を挙げることが多いが、最も重要なことが見落とされがちだ。

それは、「サービスの棚卸(たなおろし)」である。

行政が実施しているサービスの種類・品質を調査し、その価値を再評価する。

これこそが、現在の行政サービスに最も必要なことである。

  • 本当に必要なサービスはどれか
  • 足りないサービスは何なのか
  • 行政がやらなくても良いサービスはどれか
  • サービスの品質が、ニーズや必要最低基準を満たしていないものはどれか
  • サービスの提供が不公平で、本当に必要な人に届いていないものはどれか
  • 緊急性を要するサービスはどれか
  • 長期的な視点が必要なサービスはどれか

などを明らかにするということだ。

本来、行政サービスは「公共性・公平性」といった性質が強く、格差を是正する(所得の再分配)機能もあるので、市場原理に任せた自由競争には馴染まないものである。

自由競争に馴染むものについては、いわゆる「民営化(鉄道、たばこ産業等)」が行われるが、そうした行政サービスはもはや残っていない。郵政公社の民営化(が適切であったかは別として)で、打ち止めとなったと考えて良い。

現在残されている行政サービスは、公共性・公平性が高く、採算性・収益性の低いものであり、純粋な「民営化」には馴染まない。

しかしながら、残された行政サービスは玉石混合で、いらないものもあれば、足りないものもある。品質・効率性共にお粗末なサービスもあれば、民間にも負けない優秀なサービスもある。

こうしたサービスを今まで通りのやり方で運営していれば、お金も人も足りなくなり、本当に必要なサービスさえ維持できなくなってしまう

そこで、「行政サービスの民間委託」の登場である。「行政サービスの民間委託」は、上記の現状を明らかにしてくれる。

なぜなら、民間委託を実現する過程(競争入札、契約など)で

  • サービスの必要性と重要度・優先度
  • 現在の利用状況
  • 行政の役割と責任
  • 民間の役割と責任
  • 現在のサービス水準
  • 最低限維持すべきサービス水準(報酬減額の対象)
  • 目標とするサービス水準(成功報酬の対象)
  • 現在のコスト水準
  • 最低限維持すべきコスト水準(報酬減額の対象)
  • 目標とするコスト水準(成功報酬の対象)
  • 現在の利用者満足度
  • 最低限維持すべき利用者満足度(報酬減額の対象)
  • 目標とする利用者満足度(成功報酬の対象)

などが明らかになるからだ。

上記の内容を明らかにしないまま民間委託をすれば、まず間違いなく失敗に終わる。

「民間委託」は万能薬ではないし、処方を間違えれば毒になる

経費削減・人件費削減といった目先の利益だけを考えて、民間企業に行政サービスを丸投げしても、行政サービスの質が低下するだけで、かえって高くつくことになる。

●行政任せでは、サービスは良くならない

今のままでは、行政は、自分たちが提供しているサービスの水準がどの程度にあり、利用者がどれだけ満足してくれているのかを知ることさえ無い。日々の業務で手一杯なこともあり、現状認識ができないのである。

現状認識が無いと、「今よりも少ないコストで、行政サービスを良くする」なんてできるわけが無いと、初めからあきらめてしまう。

こうした事態は、国民にとっても行政にとっても不幸である。

今こそ、「サービスの棚卸(たなおろし)」をしなければいけない。

次回は、「原則として、全ての電子政府サービス事業を民間に委託する」ことの実現可能性を考え、具体的な手法についても紹介しよう。