電子申告のインセンティブは慎重に、どんぶり勘定&皮算用はもう止めよう

今年から、電子申告の税控除が始まりました。個人が住基カード(公的個人認証サービスの電子証明書を含む)を使って電子申告すると、最大で5,000円の控除が受けられるというものです。

関連ブログ>>国税庁が確定申告特集のページを開設、電子申告だけが電子政府サービスじゃない電子申請のインセンティブ:電子申請・電子申告による税額控除と添付書類の省略

このように、電子申請や電子申告を利用した場合に与えられる優遇措置を、最近では「インセンティブ(incentive:刺激、誘因、動機、報奨金、報奨物)」と呼んでいます。

●インセンティブの種類

インセンティブには、次のような種類があるとされています。

・物質的インセンティブ
・評価的インセンティブ
・人的インセンティブ
・理念的インセンティブ
・自己実現インセンティブ

電子政府では、対象とする人(国民、担当職員、現場職員、ベンダーなど)の立場や環境に応じて、上記のインセンティブを使い分けたり、組み合わせたりする必要があります。そして、提供したインセンティブの効果を測定し、価値観やニーズに合っているかを確認していくことが大切です。

参考>>Webラーニングプラザ 技術者 eラーニング:人・組織の分析と人的資源開発コース

●電子申告のインセンティブ、5000円では少ない?

電子申告のインセンティブである「5000円の税控除」は、少ない、足りないと言われることが多いようです。

実際、電子申告をするための準備費用として、住基カード(500円)、公的個人認証サービスの電子証明書(500円)、ICカードリーダ(3000円ちょっと、送料を入れると約4000円)が必要となり、これだけで5000円ぐらいかかってしまいます。

しかも、住基カードや公的個人認証サービスの電子証明書を取得するためには、市町村役場に行く必要があるため、交通費や手間賃を考えると、実質的には赤字となってしまいます。

しかも、5000円が控除されるのは一度だけ(19年度に適用があれば20年度の適用は不可)とされるので、次年度以降に回収することもできません。

というわけで、「5000円は単なる必要経費で、インセンティブではない」と言われたりします。

●電子申告のインセンティブは増やすべきか?

それでは、「5000円の税控除」をもっと増やすべき(例えば1万円に)なのでしょうか。

結論から言えば、安易に増やすのは避けるべきです。

それよりも、電子申告を利用するのに、住基カードも公的個人認証サービスの電子証明書もICカードリーダも、全部不要とする。少なくとも、利用者に対して選択肢を提供する。こちらの方が、確実に利用拡大を期待できます。

電子申告のインセンティブは、民間サービスで言えば「販促コスト」です。

現在の電子申告に、一件当たり「5000円」の「販促コスト(税金)」をかける価値があるかと言えば、残念ながら「無い」と思います。

「販促コスト」にお金をかけ過ぎれば、当然ながら赤字となります。3000円の商品を一つ売るのに、「販促コスト」を5000円かけることはあり得ません。

●今のままでは、単なるバラマキで効果が少ない

電子申告を実現するために、何千億円もの税金を使い、維持するために毎年何百億円もの税金を使っています。

ところが、実際の利用率は数パーセントで、電子申告を実施する国の中では最低ランクというのが現状です。

※ちなみに、利用率が70%を越えるオーストラリアの電子申告システムの場合、システム開発に要した初期開発費が800万ドル、年間維持費が200万ドル、2002年までに約1,500万ドルの費用を計上しています。費用対効果は、なんと日本の千倍以上です。

関連ブログ>>なぜ、電子政府で「一件当たりいくらか」を評価するべきなのかオーストラリアの電子申告に学ぶ

国税申告手続(所得税、法人税、消費税)の年間平均申請件数は、約2700万件となっています。政府が目指す「利用率50%」とするためには、1350万件の利用が必要であり、最低でも1000万件は増やさなければいけません。

※平成19年度(平成20年1月31日現在)のe-Taxの利用件数は、約160万件

関連>>e-Taxの利用件数

利用を一件増やすのに5000円かけると、100万件では50億円となります。

100万件は、全体の3.7%に過ぎません。つまり、税金を50億円かけても、その効果は微々たるものなのです。

さらに、「利用率50%」を目指して1000万件を増やすためには、500億円かかります。この金額は、広告・宣伝費といった他の販促コストを含んでいません。

そんな状況で、安易にインセンティブを増やしたら、電子申告の「販促コスト」は数千億円を超えてしまうでしょう。これこそ、税金の無駄遣いであり、俗に言う「バラマキ」です。

●電子申告がするべきことは、簡素化とスリム化

電子申告がするべきことは、二つあります。それは、

1 簡素化して、もっと使いやすくすること
2 スリム化して、もっとコスト削減すること

電子申告の簡素化は、利用の必須条件です。今のように一部のマニアしか使えないようなサービスは止めるべきです。

関連>>池脇ネット申告に四苦八苦
キャンペーンキャラクターの女優さんに、思わず「簡単なのか難しいのか分からない」と言わせてしまった電子申告。この世代に四苦八苦させるようでは、オンラインサービスとして失格でしょう。

先に述べたように、電子申告を利用するのに、住基カードも公的個人認証サービスの電子証明書もICカードリーダも、全部不要とすれば、確実に利用拡大を期待できます。

スリム化も、必須です。

今どき、年間数百億円も維持費がかかる電子申告システムでは、他の先進国に笑われてしまいます。最低でも、数十億円レベルとして、削減した分を販促コスト等に使えば良いでしょう。

電子申告システムの構築費や維持費に比べれば、50億円や100億円は安いものであるといった考えは、非常に危険です。

そうしたバブル的な考え方は、情報システムの分野ではすでに通じない話であり、電子申告システムが企画・開発されたきた頃とは、金銭的な感覚や環境が現在は違っているという認識が必要です。

「販促コストに何百億円もかけられるサービスって、どんだけすごいのよ?」「それだけの価値が、ホントにあるの?」という、現在の日本の電子政府が置かれている財政状況を前提とした常識的な感覚で、インセンティブの効果を評価する必要があるのです。

●金銭的なインセンティブも使い方次第

とは言え、金銭的なインセンティブは、上手に使うことができれば、電子申告の利用を拡大する上で非常に有効です。

金銭的なインセンティブの良い点は、
・わかりやすいこと
・話題性が高いこと

電子申告を利用すれば時間や手間が削減できる。それを金銭に換算するといくらになります。というのは、一般の人にとっては面倒くさい。人件費も人によって違います。ところが、税控除5000円となれば、面倒な計算はいらず、「5000円のお得」と単純明快です。

話題性が高いと、ニュースになりやすくなり、テレビや新聞で取り上げてもらえます。それだけで広告・宣伝費用を削減できます。電子申告を知らなかった人や、関心が無かった人が、新規の利用者となってくれる機会を作ってくれます。

今後の方策としては

・5000円税控除と添付書類の省略により、個人による電子申告の利用が、どれだけ増えたかを調査する
・利用率が増えることで、行政の負担がどのように変化したか(するのか)を調査・予測する

上記を踏まえて、次のような措置を選択肢として検討するのが良いでしょう。

・5000円の控除を納税額に応じて増やす
・継続利用者には、継続年数に応じて控除金額を増やす
・お年玉年賀はがきのような景品制度を導入する

ともあれ、どんぶり勘定&皮算用による安易なインセンティブ提供だけは止めましょうね

“電子申告のインセンティブは慎重に、どんぶり勘定&皮算用はもう止めよう” に8件のコメントがあります

  1. お久しぶりです。
    e-Taxもがんばってるけど、コスト的にはほんとまだまだなんですねえ。

    登記オンライン、3月になってガクンと落ちました。
    まあ原因は想像がつきますが、言わないでおきましょう。

    http://www.moj.go.jp/MINJI/shinsei.html

    と続きはまた後で。

  2. 電子納付の還付先の問題
    登記オンラインで、電子納付を使って、事情によって取り下げた場合(たいていの場合はミスや書類不足)は、免許税は登記権利者などの申請人口座に振り込まれます。

    少額であれば、代理人たる司法書士が立て替えることもあったり、また事前預かりの場合もありますから、代理人口座に入った方がいいのですが、この点の手当てはされないままですね。

    印紙納付なら再使用証明をとれるので、その点の不安はないが、納付用の用紙に所定の項目を記入しなければなりません。
    法務局側も、結局、書面申請同様消印や枚数確認など、オンラインなのに全然書面申請と手間が変わらない。

    納付番号もあるんだから、48時間以内の再提出の場合は電子的に再使用可能にするとか、工夫しないと、このあとの伸びは期待できないですね。

  3. 選択肢の提供
    sagoさん、こんにちは。ご無沙汰しております。

    お金の取り扱いは難しいところですが、一定のニーズがあるなら、還付先は申請時に選択できたり、取り下げ時に再提出の有無を選択できる方が良いですね。

    選択肢の提供は、サービス改善には有効ですから、利用者の実務フローを踏まえて、適切に実施するのが良いでしょう。

  4. またセキュリティホールです。
    話は変わってすみません。

    またJREのセキュリティホールです.

    http://shinsei.e-gov.go.jp/menu/smenu.html

    にもかかわらず法務省はのんびりしてます。

    http://shinsei.moj.go.jp/new/new_top.html

    【お知らせ】JRE1.4.2_17について(平成20年3月5日)

    法務省オンライン申請システム(以下「当システム」という。)においては、Sun Microsystems社のソフトウェアであるJava 2 Runtime Environment、(以下「JRE」という。)SE v1.4.2_16を利用しているところですが、本日、同社から、JRE1.4.2_17がリリースされました。
      JRE1.4.2_17については、法務省オンライン申請システムで正常に動作するか確認ができておりませんので、事前準備の際は、次のアドレスからJRE1.4.2_16をダウンロードしていただきますようお願いいたします。
      JRE1.4.2_16(http://java.sun.com/products/archive/j2se/1.4.2_16/index.html)

    入れ替えの延期どころじゃないのですがね。

  5. JRE無しで
    sagoさん、こんにちは。
    最新情報ありがとうございます。

    JREの問題は、ホントに困ったものですね。

    いちおう、「最新バージョンならOK」の方向で進んでいますが、できるならJREなんて無しにしてもらいたいものです。

    ショッピングでもオンラインバンキングでも民間のオンラインサービスでは、JRE問題なんて関係ないわけですから。

  6. Unknown
    むたさん こんにちは。

    前と違って利用者増えてますから、ここで入れ換え作業をさせると、伸びが止まると読んでいるのでしょう。

    JRE1.4.2_17に入れ換えるのに、また法務書オンライン申請ソフトもアンインスト、再インスト。

    しかし、まだ動作確認ができてないのですかね。修正バージョンの違いで動かないようでは困りますが。

  7. 業務には使いづらい
    sagoさん、こんばんは。
    コメントありがとうございます。

    なるほど。申請ソフトのアンインストと再インストが発生するのは、確かに面倒ですね。

    特に、仕事で使うソフトウェアは安定性が重視されますので、面倒なだけでなく、不安感・不信感も大きいかと。

    JRE問題は、「利用者の視点」が欠けていることの表れですね。

  8. 利用料の還付請求は紙なんだよね
    法務省オンライン申請システム利用で、事後の取下とするケースでは、手数料償還請求書が郵送で送られてくる。とほほほほ。
    これが償還請求書を提出して、実際に返戻されるのは、数ヶ月先なのだ。

    この方式もなんとかしたいですね。
    即返戻できるシステムが欲しい。

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