2025年最新状況:e-Gov電子申請の電子公文書の表示問題から考える「電子公文書」の意味と重さ

2025年12月現在も、e-Gov電子申請の電子公文書の問題が続いています。

IEモードが有効にならず、公文書が表示できない事象について(11/4更新) | e-Gov電子申請
https://shinsei.e-gov.go.jp/contents/news/2025-10-08t1341530900_1662.html

この問題は以前から続いている根深いもので、筆者も何度かe-Gov電子申請の利用者から相談を受けたことがあります。

結果として、ハード・ソフト非依存を目指したはずのXMLが特定ブラウザに依存したまま長年放置されてきました。さらに、所管がデジタル庁に移管された後も、約5年間にわたり対症療法が中心となり、問題の根本的解決が先送りされてきた点は重く受け止める必要があります。

e-Gov電子申請の開発当時(2000年代中期)に、「将来IEがなくなる」想像がされなかったのは仕方がないと思いますし、政府調達・SI構造の問題もあり「非依存で表示できる」は余計な事と認識された可能性が高いでしょう。また、当時は「帳票文化の延長線」でXMLが考えられていました。

e-Gov電子申請の電子公文書問題の具体的な解決方法としては、

1. e-Gov電子申請で電子公文書を文書形式で表示してPDF等で出力できる機能を追加する
2. 同様の機能を持つ「公式の」簡易ビューアーを作って無償配布してソースコードを公開する
3. IE依存のXSLT(XMLの文書化)と切り離したXMLデータや標準XSD準拠のクリーンなXMLも提供する

表示責任をクライアント(IE)からサーバー側 or 公的ビューアーに戻すのがポイントで、これでデータとプレゼンテーション(表示)の未分離問題が解消されます。

上記の3つは、どれもそれほど難しいものではなく、特に簡易ビューアーの作成は生成AIに「e-Gov電子申請の電子公文書を文書形式で表示できる簡易ビューアーを、HTMLの一つのファイルとして作ってください」と依頼すれば、既存の最新ブラウザで電子公文書を文書として表示し、印刷(PDF化)して二次利用できるようになるでしょう。

ただし、複雑な構造の電子公文書では適切に表示されない可能性もあるので、プロトタイプとして有効ですが、やはり「公式」の簡易ビューアー提供が必要です。デジタル庁による、速やかな対応が望まれます。


ところで、XでIT技術者の方とやり取りしていて、e-GovのXMLを「連係用データ」だと捉えているケースがあることに気が付きました。これは根本的な誤解で、e-GovのXMLは単なる連係用データではなく「電子公文書」です。この「電子公文書」という用語は非常に重たい意味を持ちます。

「連係用データ」という言葉は、API、EDI、メッセージキューなどを連想させ、「人が読まない」「一時的」「可視化不要」といった誤解を招きがちです。しかし電子公文書には、公文書管理法、電子帳簿保存法、行政手続法や個別法令、さらには監査・訴訟・情報公開請求といった文脈に基づく厳密な要件が適用されます。

e-GovのXMLは、法的効力を持つ成果物であり、紙の公文書と同等の証拠性・保存性・可読性が求められます。すなわち「人が文書として認識し、法令が意図した文書構造に従って内容を理解できること」自体が要件です。

人が文書として読めない設計は行政手続の前提(可読性・証拠性)を崩しています。「テキスト部分だけが表示されて意味を推測できれば良い」というものでもありません。事業者・士業・担当者は、保存・閲覧・印刷・提出(再提出・内部稟議・監査対応)を日常的に行うため、実務上困っているケースは少なくありません。

「連係用データだから人が読めなくてもよい(テキストとして読めればよい)」という発想は、行政における電子公文書が紙の公文書と同等の法的役割を持つという前提を欠いたことから生じる誤解だと思いますが、こうした誤解が生じる背景には、公共ITで起きがちな分業構造の問題があります。IT技術者が制度背景を直接参照しなくても正しく実装できるように設計されていないため、目的が共有されず、仕様だけが伝達されてしまいます。

エストニアでは、情報システムの実装を規定する法令の中に制度背景を組み込む、あるいは明示的にリンクさせることで、制度背景の共有を前提とした構造へと転換しています。日本でも制度背景の共有を強化したデジタル改革が進むことを期待します。