日本のマイナンバー制度は「マイナンバーを使わせないための制度」である

エストニアで浸透「未来のマイナンバー」の正体
https://president.jp/articles/-/32417

齋藤 アレックス 剛太さんによる解説と提言の記事。未来志向の考え方は、斎藤さんらしいと思いました。

「e-ID」の定義が難しいところなので、少し触れておきたいと思います。

エストニアでは、「個人番号(個人識別コード)」と「国民IDカード(デジタルIDカード)」があり、個人番号は「デジタルネーム」と言われたりします。同姓同名の人が多い中で、デジタル処理において個人を確実に識別するために使われるのが個人番号(デジタルネーム)ということです。この個人番号は、それだけでは身元証明できるわけではなくて、別途法律で定める身分証明書の提示が必要になります。そうした身分証明書の代表例が「国民IDカード」というわけです。

日本のマイナンバー制度とエストニアの個人番号制度を無理やり対比すると、

マイナンバー(使用制限が厳しい):個人識別コード(使用制限が厳しくない)
マイナンバーカード(欲しい人が取得):国民IDカード(取得が義務)

「デジタルID」は、個人番号を意味するものではなく、デジタルIDカードのICチップに格納された「電子証明書」のことです。この「デジタルID」により、デジタル本人確認(digital identification)とデジタル署名(digital signing)が可能になります。

厳密にいえば、「日本はデジタルID黎明期」というわけではありません。日本の公的なデジタルID(公的個人認証サービス)が開始したのは2004年1月で、エストニア(2002年1月にデジタルIDカードの発行を開始)に負けないぐらいの歴史があります。

日本とエストニアの「デジタルID」の大きな違いは、そこに個人番号が含まれているかどうかです。日本の「デジタルID」には、マイナンバーを記載することができません。

日本のマイナンバー制度は、「マイナンバーを活用するための制度」ではありません。「マイナンバーを使わせないための制度」であり、付随する情報システムも「マイナンバーを使わない」ことを原則に設計されています。マイナンバーを使えないので、仕方なく電子証明書を使おうとしているわけですが、電子証明書を使ってもらうことの難しさは、既に日本のデジタルIDの歴史が証明しています。

日本のマイナンバー制度とエストニアの個人番号制度を比較するのは、正直無理があると思っています。基本的な考え方や設計思想、進もうとしている方向性が、あまりにも違いすぎるからです。マイナンバー制度そのものの抜本的な見直しが無い限り、エストニアと比較しても、混乱が増すばかりでしょう。