マイナンバーに関連する番号の利用は可能か

マイナンバー法の施行令案に見る、情報提供ネットワークシステムに「よらない」特定個人情報の提供」を書いたら、いつになくツイートされていました。なかなか興味深い反応もあったので、今回提出した意見について少し補足しておきたいと思います。

特に反応があったのは、次の箇所のようでした。

個人番号カードの記載事項には、自動車運転免許証の番号と同じように、カードを識別・特定できるシリアル番号を記載して、自由に利用できるようにするべきである。同時に、当該シリアル番号を利用して、個人番号カードの有効性をインターネット上で容易に確認できるサービスを提供するべきである。この措置により、個人番号カードを本人確認手段として広く汎用的に利用できると考える。

この意見には、2つの視点があります。ひとつは「マイナンバーに関連する番号の利用が許される余地があるか」ということ。もう一つは「マイナンバーや個人番号カードの有効性確認を企業や個人が行える余地があるか」ということです。この2点について、「現在の政府の考え方」を知っておきたいと思ったので、上記のような意見を提出したのです。

まずは、「マイナンバーに関連する番号の利用が許される余地があるか」について考えてみましょう。

実は、シリアル番号の利用については、情報連携や個人情報保護を検討する中で、似たような議論がされてきました。それは、マイポータルのログイン等で利用されることを想定した「公的個人認証サービスの認証用電子証明書のシリアル番号」の取り扱いについてです。結果として、電子証明書のシリアル番号については、住民票コードと同様の告知要求制限を設けるなど、マイナンバーと同様に保護していくことになりました。

マイナンバー法でも、第2条(定義)8項において、個人番号に対応する番号や符号等については、個人番号と同列に扱い、そうした番号・符号を含む個人情報を「特定個人情報」であるとしています。

第2条8項
この法律において「特定個人情報」とは、個人番号(個人番号に対応し、当該個人番号に代わって用いられる番号、記号その他の符号であって、住民票コード以外のものを含む。第七条第一項及び第二項、第八条並びに第六十七条並びに附則第三条第一項から第三項まで及び第五項を除き、以下同じ。)をその内容に含む個人情報をいう。

それでは、第2条8項にある「個人番号に対応し、当該個人番号に代わって用いられる番号、記号その他の符号」とは、具体的にどのような番号・符号なのでしょうか。まず考えられるのは、機関別本人識別符号です。機関別本人識別符号とは、

・情報提供ネットワークシステムを使用して
・情報照会者等が特定個人情報の授受を行う場合に
・個人番号(マイナンバー)に代わって
・特定個人情報の本人を識別するために用いることができる
・番号、記号その他の符号

のことです。おおっ、これはまさに「個人番号に対応し、当該個人番号に代わって用いられる番号、記号その他の符号」と言えそうです。

それでは、「(個人番号カードに必ず格納される)認証用電子証明書のシリアル番号」や「個人番号カードのシリアル番号(もしあれば)」は、「個人番号に対応し、当該個人番号に代わって用いられる番号、記号その他の符号」なのでしょうか。

個人番号カードは、マイナンバーや機関別本人識別符号と異なり、取得も廃棄も本人が自由に選択でき、有効期限もあり、本人の意思とは関係なく失効してしまうことも多いものです。「当該個人番号に代わって用いられる」かと言えば、ちょっと微妙な感じもします。

また、上述した「電子証明書のシリアル番号の利用制限」についても、民主党政権時代にマイナンバー法案作成に向けた大綱を検討する際に議論されたものです。現在は、自民公明への政権交代を経て、マイナンバー法も成立し、当時とはかなり事情が変わっています。

さらには、IT総合戦略本部の新戦略推進専門調査会において、マイナンバー等分科会が設置されるなど、マイナンバーの利用拡大に向けた動きが活発化しつつあります。ITコミュニケーション活用促進戦略会議でも、「認証基盤としてのマイナンバーへの期待」が会議の論点となっています。

関連>>マイナンバー、医療や金融でも利用 有識者会議で検討:日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS19025_Z10C14A2PP8000/

このような状況を踏まえて、現在の政府が「個人番号カードへのシリアル番号の記載」や「シリアル番号の利用」について、どのような回答を示してくれるのか、とても気になるのですね。

もしも政府から「個人番号カードのシリアル番号なんて、とんでもない!」といった回答があれば、マイナンバーのガチガチ度が再確認できます。もしも「今後の検討事項とします」ぐらいであれば、多少の見込みはあるかもしれません。

次に、「マイナンバーや個人番号カードの有効性確認を企業や個人が行える余地があるか」を考えてみましょう。

日本に住む外国人が持っている在留カードについては、法務省入国管理局が提供する「在留カード等番号失効情報照会」というサービスがあり、仕様書も公開されています。

在留カードの仕様書公開にあたっては、法務省から次のような説明があります。

近年,金融機関や携帯電話事業者等が諸取引を行う際,身分証明書などによる本人確認が義務付けられるなど,社会の様々な場面における本人確認の重要性が増してきており,在留カード等についても,写真付きの身分証明書として種々の本人確認の場面で利用されることが想定されます。

そこで,民間企業等において,カードの偽変造等確認を容易に行うことができるようにするため,在留カード等のICチップの読み出しに係る仕様を下記のとおり公開いたします。

民間企業等においてこれら確認が確実に行われることにより,不正な取引等が防止され,金融機関等の当事者や善良な外国人の方々の保護につながることが期待されます。

在留カードと個人番号カードは、目的も用途も異なるものですが、本人確認手段として利用される個人番号カードについても「在留カード等番号失効情報照会」と同様のサービスがあれば、便利であることは確かでしょう。もちろん、カードの有効性確認なので、本人の氏名やマイナンバーを表示する必要はなく、「有効な個人番号カードのシリアル番号です」といったシンプルな回答で足ります。

ちなみに、米国では社会保障番号を確認できるサービスが提供されています。

個人番号カードの有効性については、個人番号カードに格納された署名用電子証明書を利用する方法も考えられます。個人番号カードを使って本人確認する際に、ICカードリーダを使って個人番号カードを読み取り、本人に「個人番号カードの保有者本人である」等の宣誓電子文書に電子署名してもらいます。その電子署名を使って、署名用電子証明書の有効性をオンライン確認する方法です。

今回提出した意見に対して政府から回答があれば、そもそも「企業や個人がマイナンバーや個人番号カードの有効性を確認できることの必要性を、政府がどのように考えているのか」がわかるでしょう。

「マイナンバーや個人番号カードの有効性確認は、行政機関など法令で指定された組織と職員がするもので、一般の企業や個人がするものではない。」と回答されるかもしれませんし、「有効性確認の必要性は認識しているので、今後の検討課題とする」と答えてくれるかもしれません。国民や企業からのニーズが大きければ、実現に向けて法令を改正すれば良いだけのことです。

いずれにせよ、現在の政府の考え方を知っておくことで、マイナンバーや個人番号カードを活用した将来のサービスを検討しやすくなります。

政府のパブリックコメント制度は、「自分の考えや主張を、政府の施策等に反映させる」ためだけに使うものではありません。情報公開等の視点から、政府の考え方や方向性を知るための手段としても、有効に活用できればと考えています。