近代日本政治思想史入門―原典で学ぶ19の思想

近代日本政治思想史入門―原典で学ぶ19の思想
大塚 健洋
ミネルヴァ書房

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中国の歴史を紐解けば、およそ人間が考えるであろうこと、行うであろうことが、良いも悪いも、喜怒哀楽も、全て見て取れる。なんてことが言われます。

日本の近代政治思想史を概観するだけでも、現在の政治も似たり寄ったり、そんなに変わらないなあと。

本書で取り上げられているのは、

吉田松陰、福沢諭吉、徳富蘇峰、中江兆民、陸羯南、樽井藤吉、陸奥宗光、幸徳秋水、平塚らいてう、大杉栄、吉野作造、北一輝、出口なお、石原莞爾、河合栄治郎、吉田茂、丸山眞男、竹内好、田中角栄

と、かなりバラエティに富んだ19名。

頭の良い人は、なにかと悩みも苦労も多いし、自らの思想のためには死をも辞さない。いやいや、平和時代の庶民で良かったなあ

本書を読むと、「貧困」や「差別」が、社会を動かす「きっかけ」や「パワー」になっていることが、よくわかります。

「貧困」や「差別」は、どこでもいつの世にもあるので珍しくないのですが、経済や政治が不安定になると、そのバランスが崩れて、「貧困」や「差別」がより際立ち目立つようになります。

人間ピラミッドの一番下が苦しいように、社会的・経済的身分の低い人たちが苦しい生活を続ける中で、「もうダメだ」となるぐらいまで虐げられると、そこから変化(逆襲)が始まります。

この変化も千差万別で、暴力など反社会的行為をする人もいますが、社会的に認められる形で変化していく人たちも出てきます。なぜなら、反社会的行為では生き残れないからです。

その様子は、あたかも、単細胞生物が環境の変化やストレスにより、様々なパターンの遺伝子変化を試みるかのよう。

例えば、弱者によるコミュニティ形成やネットワーク化により、まずは最低限の生活ができるようにします。一種の相互扶助ですね。

最低限の生活を確保できたら、より経済的な安定を求めて、ビジネス化・事業化を試みる人もいるでしょう。

別のアプローチとしては、他の強者との連合・連携などを経て、自分たちの中から政治家を立てて、議会へ送り込むこともあるでしょう。

いずれにせよ、社会に影響を与えるためには、経済力や政治力が必要なので、そのどちらか、できれば両方の力を高めるのが得策なのですね。

けれども、大多数の人たちは、そこそこの生活が確保できた時点で、「もう、これで十分」と思ってしまいます。社会を変えるなんて面倒なことは、他の人に任せようと。

で、しばらくすると、また経済や政治が不安定になって、せっかく確保した「そこそこの生活」が奪われ文句を言います。「まじめに働いてきたのに」と。

いやいや、それを選んだのはあなたですよと言いたいところですが、そんな私も、面倒なことを他人に任せてしまった口なので、あまりえらそうなことは言えません。。。なんて具合に、歴史は繰り返されていく。。。

作者の理解では、派遣切りなどはまだまだ序の口で、日本は、これからもっと苦労していくように思います。

日本が大きく変わるほどのパワーが貯まるのには、今しばらく時間がかかりそうですね。

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