福祉国家デンマークのまちづくり―共同市民の生活空間

福祉国家デンマークのまちづくり―共同市民の生活空間
小池 直人,西 英子
かもがわ出版

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キーワード:共同市民性、民主主義、ガバメント(政府統治)とガバナンス(自主統治)、共治(コ・ガバナンス)、社会関係資本、自発結社、政治関係資本

ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、そして本書のデンマークと、北欧諸国のモデルが注目されています。

本格的な高齢化を迎える日本にとって、国際的な競争力を保ちながら、充実した社会保障、医療、教育、雇用などの制度を併せ持つ北欧は、良いモデルになるのではないかと。

人口1000万人にも満たない国々のやり方も、日本で地方分権や道州制の導入などが実現すれば、十分に通じるといった意見もあるようです。

しかし、北欧に関する書籍や資料を読めば読むほど、日本国民との意識の違いが大きすぎて、同じやり方は通じない。通じるとしても、何十年もの時間を必要とするだろうと思ってしまいます。

北欧教育の秘密―スウェーデンの保育園から就職まで』でも触れましたが、北欧の人々の民主主義への理解と実践力は半端じゃありません。

物心ついた時から、自分たちのことは自分たちで考えて、話し合って決める。決めたことを守って実行する。状況が変わったら、また話し合ってルールを変更し、試行してみる。間違ってたら、また話し合って調整すると。

これらを実行するのは大変で、とっても面倒。言われたことだけをやって、ルールも決めてもらった方が、はるかに楽チン。でも、はるかに大変で面倒なことの価値を理解して、あえてそちらを選ぶ。

国民にとって、民主主義や市民社会が当たり前となっているのですね。

残念ながら、今の日本には、北欧が持つ「下からの政治文化」は期待できないと思います。

教育や制度改革により国民の意識を変えるとしても、最低でも2、30年はかかるでしょう。

だから、形だけ北欧のやり方を真似ても、とても成功するとは思えないのです。

電子政府では、期待された成果が生まれないことに対して、行政の責任が追及され、役所の仕事や役人の意識を変えようとしています。

もちろん、行政の変革は必要なのですが、電子政府のことを研究すればするほど、より重要なのは国民であると思うようになります。

作者自身、電子政府における国民の役割と重要性を以前から訴えてはいたのですが、その認識がまだまだ甘かったと反省しています。

ですから、今後の電子政府に必要なのは、これまでおろそかにされていた国民への働きかけであると思うのです。

それは、国民が電子申告のやり方を覚えるとか、住基カードを取得して利用するといった表面的なことではありません。

例えば、国民ID番号や個人情報の共有について、その必要性やリスクを国民自身が考え、導入の成否を決める。導入するなら、その利用範囲を決めるといったことです。次世代電子行政サービスについても、同様に市民と行政が話し合って決める。その実証や運用についても、市民が監視する。

そうした国民参加、市民参加を実現する手段として、電子政府やインターネットを活用して欲しいのです。

その過程で、国民や市民が、行政の仕事ぶりや努力を知ることができれば、電子政府や行政サービスの見方や信頼度も、きっと変わってくると思うのです。

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