社会保障カードから読み解く、国民ID構想の全体像

社会保障カードについて、「社会保障番号を導入しないことになった」というのは、その通りとも言えますが、いわゆる「国民背番号」という視点からは、「導入が進められている」と考えることもできます。

というのは、社会保障カードを導入するにあたって、「整理番号:内部でのレコード管理用番号」が国民(日本で生活する外国人を含む)に付与されることになるからです。

関連資料>>「社会保障カード(仮称)の基本的な計画に関する報告書」に対するご意見の募集について

もはや懐かしい思い出ですが、住基ネットが登場した頃に、住基ネットを考えるを発表しました。

この中の、住基ネットに関する誤解と問題点で、次のように解説しました。

『もし、国家管理のためのIDとするならば、住民票コードのように国民に教えたりしないで、内緒で番号付けをするでしょう。もちろん、変更もさせません。バイオ認証(本人の指紋、網膜、虹彩、声紋、DNA情報など)も組み込むでしょう』

実際、「国民背番号は、けしからん」という人たちの意向とは裏腹に、国民一人一人には、既に多くの背番号が付与されています。政府が付与するものもあれば、民間で付与するものもあります。国民に番号が知らされている場合もあれば、知らされていない場合もあります。

今回、導入されることになりそうな「整理番号:内部でのレコード管理用番号」が、裏の国民背番号だとすれば、表の国民背番号は、やはり「住民票コード」です。

なお、「裏の国民背番号」は、既に述べたように、国民に対して知らせないことで「管理しやすくする」という狙いがありますが、公表しないことで「悪用されるのを防ぐ」という側面もあります。

●国民背番号の階層でわかる、国民ID構想の流れ

将来的な国民背番号の階層を、

1 制度(データベース)
2 番号
3 カード
4 電子証明書

の項目で整理すると、次のようになります。

(D)社会保障制度等の各種台帳(年金、医療、介護など):各種制度の登録番号(年金基礎番号など):各種カード(社会保障カードの導入により廃止):電子証明書なし

(C)社会保障カード台帳(発行データベース):整理番号:社会保障カード:公的個人認証の電子証明書を使いたい?

(B)住民基本台帳:住民票コード:住基カード:公的個人認証の電子証明書

(A)戸籍:番号なし:カードなし:電子証明書なし

日本人の場合、最下層に「戸籍」があり、次に「住民基本台帳」、その上に各種制度が乗っかります。

社会保障カードは、「社会保障関係の制度をまとめるもの」なので、「住民基本台帳」と「社会保障制度等の各種台帳」の間に位置づけられることになります。

今後、納税IDが導入されるとすれば、「住民基本台帳」の上、つまり社会保障カードと同列の階層に位置づけられることになるでしょう。

なお、外国人の場合は、「戸籍」の代わりに最下層が

(A’)入国管理(在留資格):在留カード番号:在留カード:電子証明書なし

となります。

関連ブログ>>着々と進められる国民と外国人のID管理、外国人も住基ネットに追加社会保障カードへの提案(1):まずは「社会保障番号」の議論をオープンにするべき

●国民ID構想の核となるのは「住民基本台帳」と

国民背番号の階層を見ると、日本における国民ID構想の核となるのは、「住民基本台帳」と考えて良いでしょう。

「住民基本台帳」は、戸籍や在留資格とも繋がり、住民票コードや基本4情報(氏名、性別、住所、生年月日)を含む住基ネットを備え、公的個人認証の電子証明書を発行する際の基礎データにもなっているからです。

社会保障カード構想で、「公的個人認証の電子証明書」を使おうとする意図がうかがえるのも、「住民基本台帳」の役割や機能があればこそでしょう。

●制度や機関の統廃合、業務改革、データベースの整理を

社会保障カードは、ICカードと電子証明書の一人歩きが目立ち、「既存の業務をどのように改革するのか」という検討が不十分と思います。

データの電子化による効率化(=多額の予算確保がしやすく、ベンダーの利益にもなりやすい)は検討されるものの、制度自体の整理・統合(=省庁間の利害関係が複雑で、実施するのが大変。ベンダーの利益にもならない)は、ほとんどされていません。

自動車手続のワンストップサービスが大失敗したのは、業務改革を行わないまま、既存の業務をネットワークで繋いだだけだったことが大きいのですが、このままでは社会保障カードも同様の道をたどることでしょう。

「社会保険労務士」という仕事があるように、国民のニーズを本当に考えるのであれば、社会保険や労働保険の制度を整理・統合して、行政の縦割りをなくすための改革が必要です。

制度の整理・統合が進めば、各種データベースの整理も進みます。

その上で、社会保障カードのような媒体・手段について検討するというのが、本来の流れです。「箱物行政」を防止する上でも、社会保障カードの一人歩きは望ましくありません。

現在の社会保障カード構想では、各種データベースの整理どころか、新たに「保健医療番号を導入する」といった考えがあったりで(カード番号を券面記載すれば足りるのに)、ますます複雑化・コスト高を招くばかりです。

少なくとも、「最もシンプルでコスト安な仕組み」を含む複数案を提案して、国民から意見を聴くことが必要です。

社会保障カードの導入を急ぐ必要はありません。

社会保険や労働保険の制度を整理・統合すると共に、国民ID構想についてオープンに議論し、国民に対してわかりやすく説明していく。

そうした地道な活動こそが、社会保障制度の基礎となる「国民との信頼関係」を築いてくれるのです。

“社会保障カードから読み解く、国民ID構想の全体像” に6件のコメントがあります

  1. 「在留カード」システムが試金石かも
    >(A’)入国管理(在留資格):在留カード番号:在留カード:電子証明書なし

     現在、国会で改正入管法の審議を行っています。新外国人管理制度の根幹をなすのが在留カードとの位置づけです。

     在留カードの有り様が、最終的には住基カード並びに社会保障カードの位置づけに重大な影響を与えそうです。

     在留カードこそが、その試金石とも思われる。施行が公布から3年以内。

  2. いろいろと
    イエモリさん、こんばんは。
    コメントありがとうございます。

    在留カードは、いろいろと用途が広がりそうですね。

    住基カードや社会保障カードだけでなく、地下経済とかにも影響があるような。。。

    ・日本国民ID
    ・外国人ID
    ・公務員ID
    ・法人ID

    と、ID付与による管理は着実に進んでいますね。

    これが良いか悪いかの判断は難しく、意見が分かれるところと思います。

    しかし、一方的に付与されるよりは、全部に付与した方が、相互の抑止力が働きやすくなります。

    そう言えば、議員IDってあるのかな?

  3. 国会議員のIDたる議員証明書
    >そう言えば、議員IDってあるのかな?

     笑い話ではなく、国会でも議論されていた。IDといっても議員としての身分証明書だが金融機関の窓口では、これが一切通用しない、と。

     本人確認の資料にならない議員証明書です。

     では、どこでこのIDを使用するのか、議員さんもよく解ってないのじゃないかな。(笑)

     

  4. 身分証明書
    イエモリさん、こんにちは。
    コメントありがとうございます。

    なるほど。あまり通用しない身分証明書ですか。。

    バッジの方が、幅広く通用しそうですね。

  5. 総務大臣になって取得の住基カード
    先日、国会の衆議院総務委員会模様をネット中継にて見ていたら。
    総務大臣が質問に応える。

    「総務大臣になって初めて住基カードを取得した。」と。

    鳩山総務大臣は、前法務大臣で、法務大臣当時は住基カードを取得していなかった、ということですね。

    まぁ、所管大臣だら、取得したんでしょうけど、電子政府ってのも、この程度だと思ったほうがよろしい、かと。

  6. 住基カードをどうするか
    イエモリさん、こんばんは。
    コメントありがとうございます。

    住基カードを取得しただけでも、エライと思いますよ(笑)

    住基カードの枚数を増やすことは、制度さえ変えてしまえば、簡単に(というか自動的に)増やすことができますが、いまだにそうした計画案は提示されないですね。

    一部の市町村で、いくら印鑑登録カードや図書館カード(の新規発行)を住基カードに切り替えても、絶対的な母数(印鑑登録カードや図書館カードの普及枚数)が少ないのですから、全体(全国)での普及率は頭打ちとなります。

    せいぜい頑張っても20-30%程度でしょう。

    こうしたことは、小学生の算数でわかることなので、総務省を初めとした官僚が理解していないはずがありません。

    となると、政府全体としては住基カードを本気で普及させようとする意思が無い(統一されていない)と考えてしまいます。

    そうした考えは、わからなくもありません。なぜなら、住基カードの使い勝手は、お世辞にも良いと思えないからです。民間のICカードやサービスとの連携も悪いですし。

    住基カードも正念場を迎えています。

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