電子政府におけるSaaS・クラウドの活用法、「居つかない」で常に「捨てる覚悟」を

電子政府におけるSaaSやクラウドの活用については、「クラウドに踊らされないために、日米政府の比較でわかるWeb2.0とクラウドへの理解度」や「三か年緊急プランから考える、電子政府のプラットフォーム戦略」で触れましたが、誤解も多いようなので、もう少し詳しく解説したいと思います。

●「どこのサーバに預けるか」は、たいした問題ではない

例えば、海外のサーバに政府のデータを保管すると、「海外の政府が強制的に日本政府のデータを閲覧・取得してしまう」といった話があります。

まあ、全く可能性がない話ではありませんが、答えは簡単。

「そんな大事な情報は預けるな」ということです。

この場合の「大事な情報」とは、行政の中でも極々限られた人間しかアクセスできない「防衛や外交上の最重要機密事項」ぐらいです。

例えば「住民や職員の個人情報」は確かに重要ですが、一般の職員が閲覧可能であり、海外サーバに置けないほどの重要情報ではありません。

つまり、ほとんどの政府の業務は、民間のSaaSやクラウドを利用しても、まったく問題ないということです。

●障害時の対応、最も有効なのは「逃げる」

「政府専用のプラットフォームやらクラウドを自前で構築・維持」しようとするのは、食糧問題に対して「政府主導で食料自給率を上げる」ことを目指すのに似ています。

他方、「民間のSaaSやクラウドを活用する」という考えは、「世界中から安くて美味しい食料を買えるようにしておく」、あるいは「世界中の良質な農作地を借りる」といった考えと同じ方向性です。

前者は、日本が不作に陥ったときに大打撃を受けますが、後者はリスクが分散されてるので、被害を抑えることができます。

例えば、本ブログのデータは、いつでもバックアップをダウンロードすることができます。

本ブログのサービスが一時的に使えなくなった場合は、復旧するのを待つでしょう。

しかし、サービス自体が終了したり、事業もとの会社が倒産してしまったら、どうなるのでしょうか。

答えは、簡単。

「別のサービスに乗り換える」だけです。

バックアップしておいたデータを、新しいブログへ移行(インポート)すれば、過去のコンテンツが無駄になることもありません。パーマリンクは無くなってしまいますが。。。

●「居つかない」と「捨てる覚悟」がポイント

電子政府におけるSaaS・クラウドの活用で最も重要なのは、「依存し過ぎないこと」であり、「いつでも逃げられる準備をしておくこと」です。

一極集中を避け分散しておくと共に、いざとなったら「はい、さよーならー」と。

武道では、「居つかない」ことが重視されてきましたが、SaaSやクラウドの本質は、これに似ています。

そして、常に「捨てる覚悟」を持つと。

これに対する考えが、これまで大手の電子政府ベンダーが行ってきた「囲い込み」であり、移行を困難にする「独自のレガシーシステム」であると言えます。

よく言われる、SLA(サービス水準についての協定)なども、最低限のものは必要ですが、あまりこだわると「コスト高」や「サービス依存」を招き、SaaSやクラウドの本質から離れていくことになります。

この本質を知っておくと、SaaSやクラウドといった言葉に騙されにくくなります。

ベンダーが提案するサービスが、「そのサービスへの依存」を奨励し、「いつでも逃げられる準備を妨げる仕掛けが多い」場合は、「SaaSやクラウドとして利用する価値は少ない(基幹サービスとしての利用価値は別)」と理解して良いでしょう。

●「データの取扱い」と「移行費用(スイッチング・コスト)」に注目

電子政府の関係者がSaaSやクラウドを活用しようと考える場合、実際に提供されるサービスの質や実績に加えて、「データの取扱い」と「移行費用(スイッチング・コスト)」を確認することが大切です。

最低限で欲しいのは、

1 業務に使用しているデータをいつでもバックアップ取得できる
2 バックアップデータが他社の類似サービスでも再利用できる
3 サーバに置かれたデータを、自由に一部・全部削除できる

その上で、別のサービスに乗り換える場合に必要な費用や日数を含む「緊急時移行計画」などを作成しておきましょう

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