北欧教育の秘密―スウェーデンの保育園から就職まで、「環境」と「必要」が人や仕組みを変える

北欧教育の秘密―スウェーデンの保育園から就職まで
遠山 哲央
柘植書房新社

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企業経営者である著者が、その「独断と偏見」でスウェーデン教育の実態を紹介しています。

この「独断と偏見」が、「かなりの優れもの」であることが、本書の特徴と思います。

スウェーデン人の奥様を持ち、園児の父親であり、米国や中国といった海外経験が豊富なビジネスパーソンである著者が、本書で採用する「スウェーデン教育へのアプローチ」は、非常に効果的ですね。

特に、教師、子供達、行政担当者(教育、就業など)、学識者、専門家といった様々な立場の人たちにインタビューを行い、スウェーデン教育の特徴(課題や悪い面も含めて)を明らかにしているところが良いです。

小さい頃から、自分で調べて、考えて、決めるといったことが当たり前になっているスウェーデン人にとっては、生き残っていくために必要な仕組みを作ることも、ごく自然なことなのかもしれません。

この辺りは、日本人が最も苦手としていることかと。

日本人が「自分で考えて決める」「論理的に考えて、相手と議論する」といったことが苦手なのは、教育や訓練を受けていないのだから、まあ当たり前だなあと。

作者が興味深く思った記述を挙げると、

『先生を変えるのは難しい』

単純に考えても、子供は大人よりも柔軟で適応能力も高い。

日本でも、今の先生に多くを望むのは、彼らが受けてきた教育と育ってきた社会環境を考えると、ちょっと無理があります。

日本の学校には、今までとは異なる才能や技能を持った先生が必要なのではと思います。

『環境さえ与えれば、生徒が自主的に変わってくることを期待している』

今のスウェーデン人を作ったのは、教育と言うよりは環境によるところが大きいのではないか。というのが著者の考えだそうです。

確かに、「何かを学ぶ」時に、もっとも強力な動機付けは「必要」であるとも言える。

例えば、自分の子供が関係する刑事事件のために、必死に法律を勉強した母親とか。

公務員改革も、「環境の変化」により、公務員自身が自主的に変わっていく。そのために必要なことを学んでいく。というのが良いのかもしれない。

実際、「農林水産省の若手官僚が、自分達で農作業をしてみる」といった取組みも、「環境の変化」に敏感な世代が自主的に始めたことなのでしょう。

考えてみれば、改革と言われるものは、ひどい「どん底」を味わい、相当な痛い目を見た後でなければ、なかなか行われないようです。スウェーデンやイギリスの歴史、そして戦後の復興を遂げた日本も。。

日本は、これから非常に厳しい時代を迎えますが、それこそが「日本が変わるために必要な環境」なのかもしれません。

『全員が物事に影響力を持つ。そのかわりに責任も持つ。目下から目上へ要求と反対ができる。』

この仕組みを、著者は「スウェーデン式デモクラシー」と呼んでいます。

これに対して、「選挙の投票率が低く、困ったときだけ政府や企業を頼り、要求ばかりで、自身が積極的に参加し責任を負うことは避けている」というのが、日本式デモクラシーかな。

『スウェーデン教育が他のヨーロッパより優れている点:就学前教育とデモクラシー教育』

この点は、非常に重要な示唆を含んでいると思います。

ある分野で優れた成果を上げた人が、晩年になって「教育」や「人材の育成」に関心を持つことは多いようです。

けれども、本当に人材を育てたいと思うのであれば、社会人教育だけでなく、就学前教育で、基本的な考え方や行動パターンを身に付ける必要があるのではということ。

残念なのは、スウェーデンに留学し、生まれて初めて「勉強が面白い」と感じた日本人の子供が、日本に戻ってきたら、その意欲を失ってしまったという話です。

やっぱり、自身が置かれた「環境」から避けては通れない「必要」を感じない限り、人が学び変わることは難しいのだなあ。。

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