「かんぽの宿」の行方(1)、後出しジャンケンの怖さ

「かんぽの宿」の売却(譲渡)が話題になっている。

国民は、鳩山総務相の政治的なパフォーマンス・選挙対策であると理解しつつも、取得額(整備費用:2402億円)と比べた売却額(譲渡価格:108億円)の低さに納得できないようだ。

実際のところは、どうなのだろう。そんなに問題のある入札だったのだろうか。

●手続は問題なし、倫理・道徳・感情をどう考えるか

報道によると、手続きの面で言えば、問題は無かったようだ。

・一括譲渡方式は総務省(=その時の総務大臣)が了承している
・雇用に十分配慮するという参院での決議を踏まえて
・約3200人の職員を引き受けることが譲渡の条件とした
・競争入札が実施された

なお、郵政民営化法の第六条で「公社の職員の雇用は、承継会社において確保するものとする。」とされている

「かんぽの宿」の入札は、別に国民から隠れてコソコソ行ったわけではない。

日本郵政のホームページで、経営・財務情報が公開され、ディスクロージャー誌などでは、よりわかやすく事業(不動産の有効活用を含む)について説明している。

不動産売却の入札公告を含む調達情報も公開されている。

残念なのは、過去の入札公告が閲覧できないことだ。

そのため、今回の件については、「かんぽの宿等の譲渡について」というプレスリリースから、
・譲渡対象事業(かんぽの宿等の譲渡対象施設一覧PDF
・事業譲渡方式
・株式譲渡契約締結日
・会社分割および株式譲渡の実行日

の4点を確認できるだけで、肝心の入札条件がわからない。

まあ、この辺りの詳しい事情や経緯は、そのうち明らかになるだろう。

ちなみに、情報システムの政府調達では、政府調達事例データベースを使えば、過去3年間の入札等について調べることができる。

さて、手続きの問題が無いとすれば、あとは倫理・道徳・感情論の話か、ビジネスの話となる。

鳩山総務相も「法律的に問題がなくても、倫理的、道徳的に問題がある」と発言しているようだ。

国民の感情も、これまでの政府による無駄遣い実績を考えると、仕方の無いことだろう。

●どうすれば良いか

作者の理解するところでは、

・現実的な損得を考えると、一括譲渡でオリックス不動産に早いところ売ってしまった方が良い。
・非人道的に損得だけを考えると、約3200人の職員を解雇して、個別オークションで売却するのが良い。
・国民の感情を考えると、個別譲渡で地元企業に売却して、その一部の金額を公表する(こんなに高く売れたよと)。この場合、全体では損をする可能性が高い。

どれを選ぶかの最終判断は、日本郵政株式会社の経営陣と株主である財務大臣の仕事だろう。

●後出しジャンケンの怖さ

今回の件で恐ろしいと思ったのが、鳩山総務相の介入である。

作者には、鳩山総務相が時代劇に出てくる「悪徳お代官」に見えるので、余計に怖い

総務省が了承した一括譲渡方式にまで文句を言っているのは、どう見ても「後出しジャンケン」だ。

日本郵政の事業については、法律で総務大臣に「事業計画の認可権」と「業務の監督・命令権」が与えられている。

★日本郵政株式会社法
(事業計画)第十条  会社は、毎事業年度の開始前に、総務省令で定めるところにより、その事業年度の事業計画を定め、総務大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。

(監督) 第十四条  会社は、総務大臣がこの法律の定めるところに従い監督する。
2  総務大臣は、この法律を施行するため特に必要があると認めるときは、会社に対し、その業務に関し監督上必要な命令をすることができる。

つまり、やろうと思えば、総務大臣が好きなように干渉できる仕組みとなっているのだ。

もちろん、総務大臣に対して、事後的に「それは越権行為だ」と政治・法律的な責任を追及することは可能だが、事前・一次的に止めるすべはない。それが、総務大臣の暴走であったとしてもだ。

例えば、総務大臣は、手続き的に問題の無い入札であっても、自分の好きな業者に決まるまで、何度でもやり直しさせることができる。

そんなことを総務大臣がしていれば、「やっぱり官僚に任せた方が安心」となってしまうだろうし、作者もそう思う。

作者が総理大臣であれば、事の結果次第では、鳩山総務相を罷免にするだろう。

さて、今度は、ビジネスの視点で「かんぽの宿」を見てみよう。