新たな局面を迎える政府の情報システム調達、ベンダーロックインに泣き寝入りしないために

政府調達に係る苦情の受付及び処理の状況

平成20年12月26日付けで、政府調達苦情処理推進本部幹事会から、情報システムに関係する政府調達への苦情申立情報が開示されています。

●苦情申立の概要

苦情申立人は、日本アイ・ビー・エム株式会社で、

苦情対象となっている案件は、国土交通省自動車交通局の

「次期自動車登録検査業務電子情報処理システムの設計・開発業務 一式」

とあります。なお、上記システムは『自動車登録検査業務電子情報処理システム(MOTAS)業務・システム最適化計画(取組状況:PDF)』に基づくものです。

申立人の主張を見ると、

(1)評価項目に記載されていない基準で評価が行われたこと。
(2)評価の対象となる提案をするのに必要な情報が公平に提供されていないこと。
(3)評価が公正、公平な審査に基づくものではないこと。
(4)評価委員会の構成自体も公正、公平ではないこと。
(5)既存のベンダーに特に有利な評価をしていること。

とあり、いわゆる「ベンダーロックイン(特定業者による過度な囲い込み状態や依存状態のこと)」による不公正な競争・評価だったということのようです。

●「政府側に違反行為あり」との判断

これを受けての政府調達苦情検討委員会(コンピューター分科会)による報告書及び提案書(PDF)では、本申立ての適法性を認めた上で、関係調達機関(国土交通省)が行った「技術点審査が関連規定に違反している」と判断しています。

その上で、国土交通省による
・入札の再審査
・(予備的に)同じ入札条件による再入札の実施
を提案しています。

また、違反とまでは認められないものの、
・評価委員会における評価方法(外部委員の評価する項目)
・評価基準の曖昧性
・意見招請における質問への回答
などについても「問題あり」と判断しています。

一方で、苦情申立人(IBM)に対しては、「必要な情報を求めるための努力が不足していたことは否めない」といった指摘もあります。

●情報システム政府調達は新たな局面へ

今回の判断は、日本における情報システムの政府調達にとって、非常に重要な意味があります。それは、

1 不透明・不公正な入札を許さない
2 入札業者は泣き寝入りしなくて良い

ということです。

応札するだけでも多大なコストが発生する中で、今回の苦情を申し立てた日本アイ・ビー・エムには、敬意を表します。

残念なことに、政府機関が特定の業者と密接な関係にあることは、作者も否定できません。天下りは、外郭団体だけでなく、民間企業へも行われます。

そうした状況に対して、何もしないでいれば、日本の電子政府はダメになってしまいます。

今後は、日本のベンダーからも「不透明・不公正な入札を許さない」という意志と行動が出てくること期待します。

発注元である行政機関においては、関連規定を改めて精査すると共に、より明確な提案依頼書や要件定義書の作成を心がけて、同じような苦情が発生しないよう最大限の努力をして欲しいですね。

被害に遭ったベンダーも、泣き寝入りしないで、積極的に苦情を申し立てて欲しいと思います。

また、委員会からの指摘にあった「必要な情報を求めるための努力が不足していた」とされないために、有益な情報が得られないとわかっていても、

・必要な情報が不足してる場合は、必ず質問して回答を得る
・質問に対する回答が不十分な場合は、再質問・再々質問する
・意見招請終了後(公告後)にも、不明な点について質問する

ようにして、その経緯を記録に残すようにしましょう。

関連ブログ>>情報システムに係る政府調達制度の変遷(3):調達改革の効果を検証する