300億円以上の税金投入で利用率0.1%、社会保険・労働保険関係手続のオンライン申請(2)

なぜ止めないのか? 社会保険・労働保険関係手続のオンライン申請(1) の続きです。

今回は、5年もかけて利用率1%未満の「社会保険・労働保険関係手続のオンライン申請」に、どれだけの税金が使われてきたのかを明らかにしましょう。

●どれだけの税金を使ってきたのか

失われたのは5年という時間だけではありません。「社会保険・労働保険関係手続のオンライン申請」には、多額の税金が投入されています。

「社会保険・労働保険関係手続のオンライン申請」に関係があるシステムは、次の二つです。

1 厚生労働省汎用申請・届出等受付システム
2 労働保険適用徴収システム

費用の根拠と計算方法は、オンライン申請システム停止の意義(2)、全部でいくら税金を使ったのか?
と同じです。

★厚生労働省汎用申請・届出等受付システムの費用

整備経費:26億7,598万2,000円 
年間運用経費:6,854万8,000円 
申請1件当たりの経費:489円
減価償却費を含む1件当たりの経費:約4,310円
費用の総額:約30億1872万円

※申請件数が多いため、利用率が1%未満でも、申請1件当たりの経費は安く済んでいます。

★労働保険適用徴収システムの費用

整備経費:16億1,102万1,000円 
年間運用経費:51億5,415万4,000円 
申請1件当たりの経費:24万5,062円
減価償却費を含む1件当たりの経費:約26万382円
費用の総額:約273億8,179万円

※「労働保険適用徴収システム」は、オンライン申請以外の機能も有しているため、費用が多額になっています。

というわけで、開始から5年もかけて利用率0.1%しか達成できないオンライン申請に、300億円以上の税金を費やしています。

その後、「厚生労働省汎用申請・届出等受付システム」は、「e-Gov電子申請システム」に統合されましたが(平成20年2月から)、オンライン申請の利用率は一向に増えていません。

●なぜ、利用されないのか

厚生労働省の見解(磁気媒体による申請に比べてオンライン申請が伸びない理由)は、次の通りです。

1 公的個人認証及び法人登記に基づいた電子証明書の普及が不十分。
2 オンライン申請で手続が完了しない等の要因がある。
・「雇用保険被保険者資格喪失届」について、離職証明書を伴う場合には、オンライン申請を行うことができない。
・国への手続と申請契機が同一な健康保険組合や厚生年金基金への手続がオンライン化されていない。
3 被保険者が事業主を経由して提出する手続について、被保険者の電子証明書が必要となるため、申請しづらい。
4 事業主等が行う手続について、一定の条件の下に、添付書類の省略が可能となる旨の周知が不十分。
5 申請主体に高齢者・中小零細事業主等が多く、パソコンに不慣れであったり、パソコンを所有していないことが多い。また、申請者の中には、窓口で相談しながら申請を行いたいというニーズがある。

「社会保険・労働保険関係手続のオンライン申請」の問題点については、作者も協力したEABuS電子申請普及促進部会による「2006年度 行政関連手続きの最適化に向けた考察(PDF)」などで詳細に検証されており、業務改革はもちろんのこと、制度変更も含めた抜本的な見直しが必要と指摘されています。

しかし、現在までに抜本的な見直しどころか、業務改革さえ実施されておらず、システム一部機能の追加・改善(更なる税金の投入)や運用レベルでの見直しに留まっています。

これでは、利用率が増えるわけもありませんし、これからも増えることはないでしょう。

次回は、「社会保険・労働保険関係手続のオンライン申請」について、「今後どのように処理していけば良いのか」を考えてみましょう。

“300億円以上の税金投入で利用率0.1%、社会保険・労働保険関係手続のオンライン申請(2)” に5件のコメントがあります

  1. 親亀転けたら・・・・・
    こうした税金投入額の詳細が明らかになると背筋が寒くなる申請状況ですが・・・・

    厚労省所管の社労士会としても、これのシステム整備にて、独自認証局を起ち上げ、オンライン申請システムに協力、協調する姿勢を示してきているが。

    独自認証局を起ち上げた意義さえ失いかねない情勢ともいえる。費用対効果などの検証がこれから始まるであろうし。

    投入する、投入した金額が明示されればされるほどに、凍りつくなぁ。(汗)

  2. 士業認証局
    イエモリさん、こんばんは。
    コメントありがとうございます。

    士業認証局は厳しい状況ですね。実際、基準の見直しや手続の簡素化といった要望が出ていますし。。

    初期投資をする時は、それなりに説得力がありましたが、利用率の低迷が続くと、その必要性を説明できなくなります。

    そのうちに、電子署名不要の簡素なオンライン申請が始まったりしたら。。。

  3. 士業認証局の今後
    むたさんの、
    >初期投資をする時は、それなりに説得力がありましたが、利用率の低迷が続くと、その必要性を説明できなくなります。
    そのうちに、電子署名不要の簡素なオンライン申請が始まったりしたら。。。

     はい、電子署名不要の簡易手続が一般的になるように思えます。

     となると、士業が独自認証局を起ち上げている意義さえ失うことにもなる。

     理想的には、弁理士が使用する電子証明書ではないか、と最近思っています。弁理士会は認証局など全く必要としていませんからね。

     それにしても、電子署名という技術は優れているが・・・。どうも運用、活用となるとなかなか優れたモデルを生み出せないなぁ。

  4. 認証局への期待と幻想
    イエモリさん、あけましておめでとうございます。
    今年も宜しくお願い致します。

    認証局の役割をよく理解している人は、上手に活用してますよね。

    士業の人は「資格」にこだわるあまり、認証局本来の役割を見失っているような。

    もっとも賢いやり方は、士業資格者のデータベースをウェブ公開した上で、(たいていの電子申請で使え、圧倒的に安い)公的個人認証で電子申請する方法でしょう。

    役所の方は、申請者が士業であるかどうかはあまり関心が無いことですし、もし確認したければ上記の士業DBにでもアクセスすれば良いのです。

    こうすれば、士業の方で認証局を用意する必要も無く、民間の認証局に年間数万円支払う必要もなくなります。

    このことは、HPKI(医療関係者の資格認証)にも言えますね。関係者には知っている人も多いので申し訳ないのですが、私からすれば、無駄以外の何ものでもありません。

    紙の申請を見ると、資格者(税理士、医師など)の署名や職印がしてあっても、実際に署名者が税理士や医師なのかは確認されていません。まあ、自己申告ですね。それで成り立っているのです。

    ところが、オンライン申請になると、なぜか資格の確認まで厳密にやろうとします。実際は、本人確認がしっかりできれば、資格は事後確認(または必要に応じて)で良いのですよね。

    政府は、認証ベンダー&ICカードベンダーに躍らされて、莫大なシステム・インフラ投資を続けていますが、認証の意味や役割をきちんと理解していれば、10分の一とか100分の一の費用で、十分に使える仕組みができるのです。

    電子認証・署名に罪はないのですが。。

  5. 当面は士業間の電子証明書の相互利用
    むたさん、あけましておめでとうございます。

    >もっとも賢いやり方は、士業資格者のデータベースをウェブ公開した上で、(たいていの電子申請で使え、圧倒的に安い)公的個人認証で電子申請する方法でしょう。

    私も最終的には、この方式にすべきと感じています。

    が、当面は、今ある認証事業を活かし、士業の電子証明書で、あらゆる手続ができることが望ましいと。
    例えば、司法書士の電子証明書で電子申告ができたり、行政書士の電子証明書で登記や電子申告ができたり。社労士の電子証明書で登記、電子申告等が。
    士業の電子証明書であれば、あらゆる手続にて電子署名ができる、と。

    この段階が経れば、後は自由に公的個人電子証明書の利用に向かうだろうと。

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