行政手続等における本人確認に関する調査結果が公表、厳格化が進む一方で統一性に欠ける実態が明らかに

総務省から、行政手続等における本人確認に関する調査結果に基づく通知(要旨(PDF)参考資料(PDF)通知(PDF)資料編)が公表されています。行政手続や民間取引における本人確認の実施状況等について、初めて横断的な調査・分析を実施したものです。調査結果を踏まえて、関係省庁に対し本人確認の手順・方法等の点検・見直しをするように通知しています。

●調査対象

79の行政手続と民間取引の3手続。

パスポートの発給、住基カード(写真付き)の交付、婚姻届、転出届(引越し)、戸籍謄本の交付、運転免許の付与、預貯金口座の新規開設、携帯電話の加入契約など、国民に馴染みの深い手続もたくさんありますね。

●調査項目

1 行政手続等における本人確認の手順・方法等の適切性
2 行政手続により発行された証書等が本人確認書類として二次利用される際の信頼性
3 行政手続等における本人確認に関する今後の取組課題

●「本人確認」の定義

次の2点を担保する行為

(1) 架空の人物でないこと(実在性)
(2) 他人への成りすましでないこと(同一性)

●本人確認の手法例

(1) 本人確認書類の提示等による確認
(2) 面談等による確認
(3) 郵送を利用した確認

●行政手続等における本人確認の手順・方法等の適切性

○着眼点

(1) 統一性:出先機関等の間で運用に差異がないか
(2) 厳格性:申請者等の「実在性」及び「同一性」の担保に問題は見られないか

○厳格性のレベル

(1) 実在性:2段階
(2) 同一性:4段階

両者の組合せで、7つのレベルに区分け。この他に、手続によっては「交付の確実性」を加味している。

厳格性に関する助言として、
・複数の方法を適切に組み合わせて工夫することが重要
・「不正の発生のリスク」と「申請者や顧客の利便・負担」との関係の斟酌が必要
としている。

●行政手続により発行された証書等が本人確認書類として二次利用される際の信頼性

○着眼点

(1) 証書等の外形(記載事項や写真の有無等)
(2) 発行手続における本人確認の厳格性
(3) 証書等に記載されることとなる者以外の者による申請・取得の可否
(4) 他人の手に渡るおそれ
(5) 証書等の発行後における氏名等の自筆記載など

○厳格性のレベル

(1) 実在性:2段階
(2) 同一性:4段階
(3) 写真の有無:2段階
(4) 交付の確実性:1段階

4者の組合せで、12のレベルに区分け。「偽造の困難性」については、言及していない。

最も高いレベル「Aap+」とされるものに、パスポート、運転免許証、外国人登録証明書、私立大学の学生証などがある。

耐タンパー性が高いとされる住民基本台帳カード(写真付き)は「Abp(上から7番目のレベル)」となっており、本人確認の証明書としての信頼性はあまり高くない。

●行政手続等における本人確認に関する今後の取組課題

(1) 国の行政手続について、本人確認の手順・方法等を点検する
(2) 法令等で本人確認を義務付けている手続(民間取引を含む)について、関係法令・通知を点検する
(3) その他の手続について、必要に応じ助言を行う

★本人確認における行政の勘違い

架空名義や成りすまし等が増える中で、本人確認は厳格化される傾向にあります。そうした現状に対応するべく、今回のような横断的な調査が実施されるのは非常に良いことでしょう。電子政府における認証・署名問題の解決にも役立ちます。

行政は、良くも悪くも「形式主義」「前例主義」なので、「これまでのやり方で本人確認したという事実」で安心してしまう傾向があります。そして、「本人確認したという事実」により、行政の責任を果たした(何か問題が起こっても、自分達は悪くない、責任を追及されない)」と勘違いしてしまうのです。

しかし、実際には「本人確認したという事実」に加えて、「本人確認の方法が適切だったか」が重要になります。昔は適切であった方法も、現在では通用しないこともあります。

「不適切な方法による本人確認」は、犯罪者等からして見れば「抜け道・抜け穴(セキュリティホール)」」となるのです。

これからは、「形」だけでなく「質」が求められることになります。

★リスクマネジメントで「質」を決める

今回の調査で、「不正の発生のリスク」と「申請者や顧客の利便・負担」という二つの視点が指摘されたのは、とても良いことでしょう。

「不正の発生のリスク」には、不正発生の現状と発生する可能性、発生した場合の損害の大きさ、修復の可能性・コストなどが含まれます。

「申請者や顧客の利便・負担」は、コストだけでなくリスクも含まれています。「顧客を逃してしまう」「サービスを利用してもらえない」「煩わしさを回避しようとして、かえって不正行為を助長してしまう」といったリスクです。

また、「行政(確認する側)の利便・負担」についても考慮が必要です。

最終的には、行政手続を分類して、「この手続にはレベル●●の方法で本人確認する。」として、その具体的な方法を明示すれば、国民も行政職員もわかりやすいでしょう。

★行政手続における本人確認、3つの視点

行政手続における本人確認については、次の3つの視点が必要です。

1 本人の権利を守る(国民の視点)
2 犯罪等の不正を防止する(公共の視点)
3 行政の責任を明確にする(行政の視点)

3つの視点は、相互に関係しており、そのバランスが大切となります。

現在の電子政府では、「行政の視点」が強調され過ぎている感があり、サービスの利用低迷に少なからずの影響を与えています。

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今後は、行政が歩み寄ることで、国民の視点を強化し、国民の理解と協力を得ていくことが必要でしょう。