厚生労働省のオンライン申請から学ぶ(1):「利用されるオンライン申請」とは

昨日開催された第8回電子政府評価委員会で、厚生労働省の追加ヒアリングがありました。厚生労働省CIOも参加されて、配布資料により最新の利用状況と取組み、阻害要因の分析、今後の対策・対応などが説明されました。当該資料は、電子政府評価委員会のページから近日中に公開されはずです。

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●「オンライン申請」は、ほとんど利用されていない

「オンライン申請」の利用が少ないのは、厚生労働省に限った話ではありません。

どの省庁を見ても、電子署名を採用するオンライン申請は、ほとんど利用されていないというのが現状なのです。

しかし、政府ではオンライン利用件数・利用率は、予定通り順調に増えている発表しています。

ところが、これにはカラクリがあります。

政府が50%を目指しているのは、「オンライン利用率」であって、「オンライン申請の利用率」ではないのです。

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「オンライン利用」には、次の3つの利用を含んでいます。

1 オンライン申請:インターネット等を経由した国民から役所への申請・届出等
2 オンライン照会:行政間ネットワークを利用した行政内部における事務処理
3 オンライン閲覧:インターネット等による情報提供・閲覧のサービス

オンライン利用件数・利用率の内訳は、そのほとんどが「オンライン照会」や「オンライン閲覧」であり、「オンライン申請」の占める割合は微々たるものです。

「オンライン照会」や「オンライン閲覧」は、今後も順調に増えていくことでしょう。その一方で、「オンライン申請」は、基本的な方針を変更しない限り、利用率・利用件数が増えることはありません。

各省庁でオンライン利用の差が見られますが、それは各省庁の力量やオンライン取組みの姿勢から来るものではありません。

各省庁は、政府の方針に従って言われるままにオンライン化を進めてきたわけで、システム構築するベンダーはどこも似たようなものですから、普通に考えれば差はできないのです。

省庁間のオンライン利用の差は、
・所管する手続(特にオンライン利用促進の対象手続)に
・「オンライン照会」や「オンライン閲覧」
・そして下記で説明する「利用されるオンライン申請」を含んでいるかどうか
の差です。

オンライン利用が少ないとされる省庁は、言ってみれば「貧乏くじ」を引かされたようなものですね。

例えば、オンライン利用が少ないとされる厚生労働省も、全体の利用率を見ると、平成19年度実績で14%(1900万件)もあります。

しかし、その内訳を見ると「年金受給権者現況届出(住基ネットを活用したオンライン照会)」が大部分を占めており、「食品等の輸入の届出(利用されるオンライン申請)」を加えた二つの手続だけで、利用全体の99%となっています。

同じように、法務省は「オンライン照会」や「オンライン閲覧」でオンライン利用件数を稼いでいます。

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●「利用されるオンライン申請」とは

しかしながら、「オンライン申請」にも「利用されるオンライン申請」と「利用されないオンライン申請」があります。

日本の政府は、「利用されないオンライン申請」ばかり注目して、なんとか利用を増やそうと税金の投入を続けています。

作者から見ると、なんと無駄なことを。。と不思議に思います。

「利用されないオンライン申請」なんて、さっさと止めてしまって、「利用されるオンライン申請」を発展・拡大していけば良いのですから。

だいたい、利用率が1%にも満たないオンライン申請なんて、無くなっても国民は困りません。困るのは、担当した行政職員とベンダーぐらいでしょう。

では、「利用されるオンライン申請」とは、どんなオンライン申請なのでしょうか。

次の3つの条件を全て満たしていれば、そのオンライン申請は利用されているはずです。

1 電子署名を採用(または併用)していない純粋なID・パスワード方式である
2 インターネットが始まる前から存在している
3 特定の分野に特化している

この条件が揃うと、利用者ターゲットや機能が絞り込まれた、シンプルで使いやすいオンライン申請システムとなる可能性が高いからです。

電子署名を採用(または併用)していない純粋なID・パスワード方式は、事前準備など利用者の負担が少ないのはもちろん、システム構築・維持コストも安く済むので、費用対効果が高くなります。

インターネットが始まる前から存在しているサービスであれば、既存の利用者をインターネット対応の新しいサービスへ移行してもらうだけなので、利用件数や利用率の確保が容易となります。

特定の分野に特化していると、機能やメニューが絞り込まれるので、見た目もシンプルで使いやすくなります。また、利用者ターゲットを絞り込むことができるので、適切なプロモーションを展開することができます。

逆に言えば、上記3つの条件を一つも満たしていないオンライン申請は、強制でもしない限り、決して利用されることはありません。(きっぱり

電子署名(ICカード)を採用する限り、一部の士業を除けば、オンライン申請の利用が10%を超えることは難しいでしょう。

次回は、「年金個人情報提供サービス」を例にして、「使われるオンライン行政サービス」のあり方を考えてみましょう。