電子政府におけるICカードとPKIの市場(5):外国人の管理を強化する「在留カード」

電子政府におけるICカードとPKIの市場(4):問題の多い「健康ITカード」の続きです。今回は、新たな公共ICカードとして注目される「在留カード」を紹介しておきましょう。

●「在留カード」とは

「在留カード(仮称)」とは、日本に滞在する外国人に付与される「在留許可(在留資格)」を証明するカードです。

その背景には、現行の外国人登録制度(地方自治体)を、入国管理制度(法務省)に一元化することで、外国人管理の効率性や実効性を高めようという政府の方針があります。

「在留カード」の発行を決めたのも、「犯罪対策閣僚会議」の「外国人の在留管理に関するワーキングチーム」であり、国際テロ等の犯罪対策の一環なのです。

なお、特別永住者(いわゆる「在日○世」とされる方など)は、「在留カード」の対象外となっています。

●「在留カード」の導入で不法滞在者が減る?

不法滞在者の数は年々減っていますが、「在留カード」の導入により、減少傾向は更に強まると予想されます。

短期の旅行などを除き、外国人が日本で滞在するために手続は、次の3ステップです。

1 本国でビザ発給(外務省)→パスポートにスタンプ
2 日本の空港等で入国審査・在留資格の取得(法務省)→パスポートにスタンプ
3 役場で外国人登録(市町村)→外国人登録カードの発行

関連>>入国管理局-手続案内-

現行の外国人登録制度で発行される「外国人登録証明書(外国人登録カード)」は、不法滞在者(オーバーステイなど)にも交付されますが、「在留カード」は不法滞在者には交付されません。

「外国人登録カード」は、「外国人を登録・管理する」という趣旨に加えて、住民としての外国人に対する「行政サービスの提供」にも寄与しています。

「外国人登録」をして住民としての義務(納税など)を果たしていれば、例え不法滞在者であっても、各種行政サービスが受けられるようになっています。

「在留カード」では、「外国人を登録・管理する」側面が強化され、不法滞在者には交付されません。その結果、不法滞在者の生活環境は悪化し、帰国する外国人も増えることでしょう。

もちろん、追い詰められた外国人が犯罪に走るといった事態を避けるためには、帰国までの生活支援、人道的な理由による在留許可の付与といった施策が必要となります。

 

●「在留カード」で、高度な行政サービスが実現できる?

適法に滞在する外国人にとっては、「在留カード」の導入で、より高度な行政サービスを受けられるようになる可能性があります。

本人の個人情報や在留歴等が記録された「在留カード」があれば、日本語の読み書きができなくても、入管や市町村の窓口での手続を、より簡便にできるかもしれません。

現在、安価(千円程度)で提供されている「住基カード」と「公的個人認証サービス(電子証明書)」は、日本人だけが利用できて、外国人は利用できません。

しかし、「在留カード」を住基カードのようにICカードとして、電子証明書を格納できるようにしておけば、外国人版の「住基カード&公的個人認証サービス」を実現できるでしょう。

実際、法務省では「今後の外国人の受入れについて(中間まとめ)」の中で、

『外国人に在留カード(仮称)を発行し,在留管理目的のみならず,社会的に広く活用し得るものとする。』と明記しています。

 

●「在留カード」の形態は?

「在留カード」の形態は未定ですが、自由民主党の政務調査会がまとめた「新たな入国管理施策への提言 平成17年6月16日(PDF)」を読むと、だいたい次のような形が見えてきます。

・ICカードで発行する
・搭載情報は、氏名、国籍、旅券情報、在留資格、就労先、指紋など

指紋情報の搭載は、昔であれば猛反対されたでしょうが、昨今のテロ事件等により、国際的にも「指紋採取も仕方が無い」といった傾向にあり、実現の可能性は高いでしょう。

関連>>米国政府による外国人渡航者からの生体情報読み取り措置について(外務省)EU、顔面+指紋認証のバイオメトリクス搭載パスポートを義務付け(マイコミジャーナル)

なお、入管法の改正により、2007年秋から新しい入国審査手続が導入され、日本に入国する外国人(再入国者を含む)は、電磁的方法による生体情報(顔写真と指紋)の提出が義務付けられることになります。

関連>>第164回国会において成立した「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律(平成18年5月24日法律第43号)」について(PDF)個人識別情報(生体情報:biometric information)を利用した新しい入国審査手の導入について(2006年12月 法務省入国管理局)ボーダー・コントロール(国境管理)におけるバイオメトリクスの活用(ITpro)

電子証明書については、費用や手続の負担を考えると、早期の実現は難しいかもしれません。

 

●「在留カード」の市場規模は?

現在の外国人登録者数は約201万人(日本総人口の1.57%)となっており、不法残留者数は約17万人となっています。

※「不法残留」は、不法滞在の一類型で、適法に入国した後で在留期間の期限が切れた場合の違法行為(状態)です。いわゆる、オーバーステイのこと。

不法残留者数は、毎年数万人単位で減っており、全ての不法残留者が外国人登録をするわけではありませんから、「在留カード」の市場規模も、現在の外国人登録者数と同じで、だいたい200万前後と考えて良いでしょう。

「在留カード」は、「強制&切替」方式なので、運用が開始されれば、枚数は順調に増えていきます。

電子証明書を格納すれば、PKI対応の公共ICカードとして、国内最大枚数の事例になるかもしれませんね。

★参考資料
外国人の在留管理に関するワーキングチームの検討状況について(平成18年12月19日)(PDF)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hanzai/dai8/8siryou2_1.pdf

多文化共生の推進に関する研究会報告書2007(平成19年3月28日)外国人住民への行政サービスの的確な提供のあり方
http://www.soumu.go.jp/s-news/2007/070328_3.html

日弁連 – 外国人の出入国・在留管理を強化する新しい体制の構築に対する意見書(平成17年12月15日)
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/2005_69.html

外国人登録証明書の偽変造防止対策について(平成17年5月 法務省入国管理局)
http://www.moj.go.jp/NYUKAN/nyukan38.html

入国管理局-統計-
http://www.immi-moj.go.jp/toukei/index.html

本邦における不法残留者数について(平成19年1月1日現在)
http://www.moj.go.jp/PRESS/070227-2.pdf

平成17年における外国人及び日本人の出入国者統計について
http://www.moj.go.jp/PRESS/060406-1/060406-1.html

平成17年末現在における外国人登録者統計について
http://www.moj.go.jp/PRESS/060530-1/060530-1.html

厚生労働省:外国人雇用状況報告(平成17年6月1日現在)の結果について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2005/12/h1222-5.html

次回は、「ICカードの導入コスト」について考えてみたいと思います。