電子政府におけるICカードとPKIの市場(2):実績があるのは電子入札用と士業用

電子政府におけるICカードとPKIの市場(1):普及が進まない住基カードと公的個人認証サービス」の続きです。今回は、企業や公的資格者向けの電子証明書について整理しておきます。

 

●「企業用の電子証明書」の市場規模と発行枚数

 「企業用の電子証明書」は、法務省(電子認証登記所)が発行する「商業登記の電子証明書」が主流で、数多くの電子申請や電子申告、一部の電子入札等で利用できます。

現在、全国の会社企業数は約160万となっていますので、まずまずの市場規模と言えます。

発行枚数は、法務省からの公式発表が無いので不明ですが、累計で数千~数万社ぐらいと思います。

他の電子証明書と比べると有効期間が短く設定(数ヶ月~1年程度)されているので、実際に流通している電子証明書の数は、かなり少ないと思われます。

また、「商業登記の電子証明書」は、特定の商用ソフトウェアを購入して「電子証明書申請用フロッピーディスク」を作成する必要があります。

これが、申請者の大きな負担となっており、普及が進まない原因の一つとなっています。

電子証明書の交付は、インターネット経由で電子証明書を取得(ダウンロード)する方式なので、基本的にICカードの枚数は関係ありませんが、「商業登記の電子証明書」をICカードに格納してくれる民間サービスもあります。

★参考資料
商業登記に基礎を置く電子認証制度(ホゥ!ティービー)
http://www.moj.go.jp/ONLINE/CERTIFICATION/

法人認証カードサービス:商業登記に基づく電子証明書のICカード格納サービス(日本電子認証)
http://www.ninsho.co.jp/hojin/index.html

 

「商業登記の電子証明書が主流」と書きましたが、「企業用の電子証明書」で最も普及し利用されているのは、次に挙げる「電子入札用の電子証明書」です。

●「電子入札用の電子証明書」の市場規模と発行枚数

電子入札システムには、いくつか種類があるのですが、主流となっているのは「コアシステム」と言われるもので、多くの省庁や自治体で採用されています。

「コアシステム」の電子入札で利用できる電子証明書は、様々な民間企業等(が運営する認証局)から発行されています。全てICカードとセットになっていますので、電子証明書の発行枚数=ICカードの発行枚数となります。

最近では、「電子入札用の電子証明書」が、電子入札だけでなく、他の電子申請等でも利用できるようになってきました。

シェアトップの日本電子認証が発行枚数10万枚を突破し、全国の建設業許可業者数が約56万ほどであること等を踏まえると、市場規模は20~30万ぐらいでしょうか。

ただし、「コアシステム」の電子入札は、主に公共事業(工事)の政府調達で利用されており、物品・役務(サービス)を含めた電子入札の市場規模となると、更に大きくなります。

・電子入札への対応は電子申請と異なり実質的な強制力を持っている
・全国の会社企業数が約160万、総民営事業所数が約600万となっている
・政府調達における契約の電子化が進められている

こと等から、電子入札用の電子証明書の市場規模も、今後の拡大が予想されます。

★参考資料
コアシステム(電子入札)対応認証局

AOSign:平成19年 3月22日-発行枚数10万枚を突破しました(日本電子認証)
http://www.ninsho.co.jp/aosign/news/20070322-1.html

建設業許可業者の現況(平成17年3月末現在)
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha05/01/010426_.html

事業所・企業統計調査 全国(会社企業)
http://www.stat.go.jp/data/jigyou/2004/kigyou/index.htm

 

●「士業用の電子証明書」の市場規模と発行枚数

電子申請等で電子証明書を利用している士業には、税理士、行政書士、司法書士、土地家屋調査士、社会保険労務士、弁理士などがあります。

上記の士業の登録者数を全部足しても20万ぐらいですから、登録者数が年々増えていると言っても、市場規模としては小さめで、大きな拡大も期待できないでしょう。

実際の発行枚数については、正確なデータ資料が無いのですが、最も多い税理士さんで取得率6~7割、枚数で4万枚弱と思います。

その他の各士業が、数千~1万枚ぐらい。ですから、全体でも10万枚に満たない規模と思われます。

★参考資料
士業用の電子証明書
 

●医療従事者用の電子証明書

士業以外の「公的資格者向けの電子証明書」として、「ヘルスケアPKI(HPKI)認証局」から発行されるICカード格納の「医療従事者用の電子証明書」があります。

これにより、医師等(薬剤師、看護師、理学療法士など)の個人が電子署名を使えるようになり、電子申請等で必要となる診断書等の電子化に役立つことが期待されています。

保健医療福祉分野の公開鍵基盤(ヘルスケアPKI:HPKI)では、「厚生労働省HPKI認証局」が親玉(ルート)になっており、医療従事者に対して電子証明書を発行するのは、医師会等が運営する「ヘルスケアPKI(HPKI)認証局」となります。

システムの構築が2006年度に完了し、今年度(2007年)からの運用開始を予定しているので、まだ実績はありません。

平成16年における「医師・歯科医師・薬剤師」の全国の届出数が約60万人(医師27万人、歯科医師9万5千人、薬剤師24万人)で、看護師は約76万人となっています。

「医師の需給に関する検討会報告書」によると、毎年、約7,700人程度の新たな医師が誕生し(退職等を差引いて、年間3,500~4,000 人程度の増加)、無職や保健医療関係以外の業務に従事している医師を除いた全ての医師数は、平成27年には29.9万人、平成37年には32.6万人と推計されています。

以上のことから、「医療従事者用の電子証明書」の市場規模は数百万ぐらいと想定されますが、当面は医師を対象とした電子証明書が中心となるので、実際の発行枚数は良くて数千~数万程度になると考えられます。

★参考資料
保健医療福祉分野PKI認証局 証明書ポリシ
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/04/s0401-1.html

厚生労働省 HPKI 認証局の構築・運営事業について
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/03/s0330-8.html

日本医師会 認証局
http://www.pki.med.or.jp/index.html

わが国の保健医療福祉分野PKIの動向(日本ネットワークセキュリティ協会)(PDF)
http://www.jnsa.org/seminar/2006/20060607/yamamoto.pdf

医療情報化を巡る取組の状況とPKIの役割(PDF)

医療情報のニュースや資料が入手できるサイト Medical IT Link
http://www.medical-it-link.jp/

厚生労働省:医師の需給に関する検討会報告書
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/07/s0728-9.html

医師・歯科医師・薬剤師数の年次推移
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/04/kekka-gaiyo.html

就業保健師・助産師・看護師・准看護師の年次推移
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/04/kekka1.html

 

次回は、その他の公共ICカードとして、ICカード免許証、IC旅券(電子パスポート)、国家公務員ICカードを紹介したいと思います。

 

“電子政府におけるICカードとPKIの市場(2):実績があるのは電子入札用と士業用” に1件のコメントがあります

  1. 電子入札用のICカードは思ったより増えないかも
    電子入札用のICカードなのですが、公共工事が
    建設業者を潤していた時代ではなくなっています。

    電子入札用のICカードの発行数も当初予測よりも
    かなり少ない状況になると思われます。

    日本電子認証の10万枚や13万枚の発行数は、
    おそらく発行累積。有効期限内のICカードは、おそらく
    6~7割程度だと思います。

    公共投資がかつての時代より半減し、建設業者は
    淘汰の時代を迎えており、厳しい状況です。
    http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/const/news/20080325/517608/

    入札工事の利益も少なくなり、入札不成立といった事態も起きています。
    http://www.asahi.com/politics/update/0704/TKY200807040500.html?ref=rss

    地方への補助金や地方交付税が三位一体改革でかなり減り
    ましたので、工事のみならず物品や委託関係の入札にも影響
    していると考えます。

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