公共・行政分野のAI活用で見落とされがちな「順序」──「自然言語法令 × AI補完」の危険性

近年、日本でも行政分野におけるAI活用が盛んに議論されています。しかし、AIを導入すること自体が目的化し、手段と目的が逆転しているように感じる場面が少なくありません。

公共・行政分野におけるAIの利用は慎重になるべきで、特に個人の権利義務に影響を与えるような決定を含む場合は、「法令に基づくルールベースの自動化(if-thenルールでアルゴリズム化)」の選択が最優先です。

手続きが複雑でルールベース自動化が難しい場合は、まず制度の見直しや手続きの簡素化を進めるべきです。この段階で安易にAIを導入すると、問題をさらに悪化させるリスクがあります。根本的には、法令の書き方自体を機械処理可能な形式に変えていく必要があり、これこそが真のデジタル国家の基盤となります。

現在の法律は、人間による解釈・適用を前提とした自然言語で書かれているため、曖昧さや文脈依存が生じやすいです。機械で自動処理しようとすると、どうしても「補完」が必要になりますが、ここで機械学習(ML)のようなAIを穴埋めツールとして使うのは短絡的で危険です。AIには「ブラックボックス化」「バイアス増幅」「説明責任の喪失」という避けられないリスクが伴うからです。

「自然言語法令 × AI補完」の組み合わせは、積極的に避けるべきです。これはAIそのものを否定するものではなく、適用順序と役割を誤ることへの警鐘です。

エストニアの例を見ると、必要な公的データベースを整備し、X-Roadのような仕組みでリアルタイムに相互参照できるようにすれば、データの即時更新にも対応した動的適用が可能です。その上で、不正検知や業務効率化など、権利義務判断から切り離された業務に限り、AIを補完的に活用すれば良いのです。

将来的には、立法プロセス自体を改革し、例えば法案ドラフトを自然言語と並行して構造化データで作成するようにすれば、個人の権利に影響する行政決定の多くをルールベースで自動化でき、AIのブラックボックスリスクを大幅に低減できます。

本来あるべき順序を整理すると、次のようになります。

1. 制度目的の明確化(誰の権利義務を、何のために決めるのか)
2. 法令・手続の簡素化と形式知化(例外・裁量の棚卸し)
3. ルールベース自動化の最大化(AIなしでどこまで自動化できるか)
4. データ相互運用基盤の整備(X-Road型)
5. それでも残る部分に限ってAIを慎重に検討
6. 最後にリスク分類・管理(必要な場合)

「便利さのためにAIを無理やり入れる」のではなく、この順序を守れば、日本でも公正で信頼できるデジタル国家を実現できるでしょう。