「行政分野のデジタルファースト」で紙の呪縛から脱却できるか

行政分野 デジタルファースト推進のため調査研究報告書
http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H28FY/000463.pdf
私も委員として参加させて頂いた研究会の報告書が公開されました。民間で進みつつある業務のデジタル化・オンライン処理やデータを活用した新たな付加価値創出(「デジタルファースト」)の考え方を我が国行政の業務に適用する意義や、それにより実現される社会像・新たなサービス像について整理を行うものです。
では、日本の行政で「デジタルファースト」が進むのかと言えば、かなり微妙なところです。というのも、これから政府が進める「デジタルファースト」は、相変わらず電子と紙が混合したものだからです。しかも、そのベースになるのは、やはり紙です。
日経BPの記事を見てみましょう。
政府が民間クラウド活用へ、システムの自前主義から脱却
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/346926/011501276/
行政手続きでよく提出を求められる「住民票記載事項証明書」や法人の「登記事項証明書」といった添付書類もシステム連携で添付そのものを廃止するとあります。
こうした「添付書類の省略や廃止」という発想自体が、いかにも時代錯誤で「デジタルファースト」とはかけ離れた思考であることに、行政が気がついていないことがわかります。
だいたい、「添付書類の省略や廃止」を進める一方で、コンビニ交付で便利になりますというのも、おかしな話です。
これが、例えば
2025年までに「住民票記載事項証明書」や「登記事項証明書」の発行そのものを廃止します
とあれば、『お、少しは「デジタルファースト」に近づくかな』と期待が持てるでしょう。
添付書類の問題については、10年以上前に結論が出ている話であり、「国や自治体が保有する情報について(添付書類等による)提出を求めてはいけない」とすれば解決できたことです。解決できる問題を、政府が放置してきただけの話であって、新しい問題でも何でもありません。
政府が今ごろになって進めようとしているのは、「官が発行する各種証明書を本人が取得して、その証明書を別の官へ提出する」という無駄な作業を止めましょう という当たり前のことです。
その後に残るのは、
1 官が発行する各種証明書を本人が取得して、その証明書を民(企業等)へ提出する
2 民が発行する各種証明書を本人が取得して、その証明書を官へ提出する
この2つを残したままでは、依然として紙をベースとした一部のデジタル化であり、「デジタルファースト」とは呼べないのです。
添付書類の問題の根っこにあるのは、デジタル社会に対応したデジタルID(デジタルアイデンティティ)をいかにして確立するか という問題です。
それを認識した上で、本当の意味での「デジタルファースト」を目指して欲しいと思います。


サービスデザイン思考
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/keyword/14/260942/122000019/
サービスデザイン思考の解説としては、秀逸な内容ですね。人口減少が進む中で限られた行政資源を用いて行政サービスを提供し続けていくためには、デジタル技術の活用と利用者中心の設計を推進する必要があると。
英国政府がサービスデザインの導入に踏み切ったのは、エストニアのようなデジタル政府を実現できないという環境的な要因が大きいと理解しています。英国の電子政府がこれから直面するのは、「サービスデザインだけではデジタル政府を実現できない」という厳しい現実でしょう。日本の電子政府にとって、「サービスデザイン思考」は重要なテーマの一つですが、過剰な期待は禁物ということだけは理解しておきましょう。
プレス発表 「文字情報基盤整備事業」で推進していた漢字6万文字の国際規格化が完了
https://www.ipa.go.jp/about/press/20171225.html
約6万文字の漢字全ての国際規格化が完了し、これら約6万文字全てをコンピュータで使用する際、統一的な文字コードで扱うことができるようになりましたと。
「各自治体においては、今後の運用次第で、新たに外字を作成する必要はなくなる」ということで、別の見方をすれば、「今まで作成した外字の取り扱いについては、今後も各自治体に任せます」ということですね。「これで外字問題が解決した」と誤解しないようにしましょう。
関連>>コンピューターで全漢字使用可に 6万字コード化 #NHKしっかりして
https://qiita.com/yumetodo/items/91e5169bff5ea4a813de
MJ文字情報一覧表
http://mojikiban.ipa.go.jp/1311.html
行政サービスの100%デジタル化、課題は102万の外字統合
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/346926/011501275/
Estonia, the Digital Republic
https://www.newyorker.com/magazine/2017/12/18/estonia-the-digital-republic
エストニアのデジタル国家までの道のり、現状など、大変詳しく網羅的に解説しています。英語ですが、自動翻訳で日本語にしても十分伝わりますし、英語で記事を読み上げるオーディオサービスも提供しています。
溶けゆく境界 仮想国民2.7万人
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25273990R31C17A2SHA000/
デジタル移民を募る国として、エストニアを紹介。eレジデンシー(電子居住者制度)も、いつの間にか143カ国2万7000人(人口の約2%)の大所帯になりました。
関連>>世界初、「国境のない国」エストニアのデジタル戦略
https://forbesjapan.com/articles/detail/18294
仮想国家で「独立」 カタルーニャ2.0の思い
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25257250Z21C17A2000000/
another sky-アナザースカイ
http://www.ntv.co.jp/anothersky/contents/2018/01/post-2051.html
日本テレビのアナザースカイで、アートディレクターの森本千絵さんがエストニアへ訪問されてました。クリスマスのマーケットなどが紹介されてましたが、世界最古のコマ撮りアニメーションスタジオ「ヌクフィルム」がエストニアにあると知って驚きました。コマ撮りアニメーションの作品って、それだけでワクワクしちゃいます。
関連>>Nukufilm
http://www.nukufilm.ee
バルト3国と連携強化 視線の先には対ロ関係
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25662500T10C18A1EA2000/
エストニアのラタス首相がウクライナに侵攻したロシアへの制裁維持を訴えたのを受けた発言で「名指しはしないがロシアへの厳しい姿勢をアピールした」。今回の訪問で北朝鮮問題での連携も確認したと。
苦労せず後任が使用許せぬ…データ消去 滋賀、市職員処分
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180112-00000039-kyt-soci
システムに設定ミスがあり、男性職員は9月中旬まで旧所属のファイルにアクセスできたと。日本の電子政府のレベルがわかる事案ですね。動機も行動もひどすぎますが、「戒告処分」で済むところが何より恐ろしい。。
と思ったら、もっとひどい事案がありました。
不正アクセスで有休枠水増し 滋賀、市職員が欠勤分給与
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180117-00000058-kyt-l25
不正アクセスしてデータ改ざんして不正受給してって、思いっきり犯罪でしょ。市教委は「不正受給分を返納する姿勢をみせている」として告訴しない方針で、停職6カ月の懲戒処分とかあり得ないと思うのですが。。
メール不具合 突貫工事裏目 解決策見えず、自治体困惑
http://www.saga-s.co.jp/articles/-/167444
都道府県は市区町村のメールをチェックするシステムを、市区町村はインターネット回線と自治体専用回線を分離する大がかりな作業をそれぞれ迫られたが、十分な検証をする時間を取れなかった自治体も少なくないと。
関連>>マイナンバー運用前 302自治体に業務支障
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201801/CK2018010902000101.html
インターネット分離、公共系に続き企業にも拡大–ITR調べ
https://japan.zdnet.com/article/35111922/
シンガポールに出現した「無人空港」の凄み チャンギ空港第4ターミナルが示す近未来
http://toyokeizai.net/articles/-/202588
一連のシステム導入により、自動化していない空港に比べ、長期的な人員数を20%ほど抑えられる。韓国の仁川も自動化を進めていると。シンガポール・チャンギ国際空港のように、「コンピュータによる自動化で人を減らす」ができない限り、日本の電子政府も変わらないのですよね。
関連>>日本の電子政府は、できないBPRを潔くあきらめた方が良い
http://www.manaboo.com/wordpress/?p=2057
AIで住民の利便性が向上するか…地方自治体の新しい試み
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180106-00019212-forbes-sci
三菱総合研究所の村上文洋氏が立ち上げた「行政情報標準化・AI活用研究会」の取組みを紹介。AIの進化によって、エストニアの電子政府でやっていることの一部が、日本でも実現できる可能性が増えてきました。
産総研 情報・人間工学領域シンポジウム「IoTとセキュリティ 2017 Connected Industriesのセキュリティ -」
https://www.itri.aist.go.jp/events/IoTSecSymp17/
昨年開催のシンポジウムの資料が公開されています。IoTサイバーフィジカルセキュリティの課題、IoTセキュリティの課題と産総研の取り組みなど。
「誰もブロックチェーンを有効活用できていない」「仮想通貨のまともな使い道は通貨投機と違法取引だけ」
https://chibicode.com/jp/blockchain/
最も現存の金融システムのセキュリティと保証に依存している高齢者たちは、匿名仮想通貨の「秘密鍵認証」「元に戻せない決済」といった特徴の最大の被害者なのだと。
仮想通貨以外でブロックチェーン(広義の)を有益に使っている例は、エストニアぐらいかな。
Profiling in the financial sector under the GDPR
https://www.law.kuleuven.be/citip/blog/profiling-in-the-financial-sector-under-the-gdpr-part-ii/
デジタル社会において、プロファイリングは欠かせないものなので、その信頼性を高める努力は常に必要です。
政府が2018年度予算案を閣議決定
厚労省予算案は前年度比1.4%増の31兆1262億円で過去最高規模に
http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/feature/15/327421/010900054/
「社会保障関係費」は同1.5%増の30兆7073億円。医療が前年度比0.3%増の11兆8079億円、介護が同3.4%増の3兆1153億円と。なお、本体の「社会保障給付費」は114兆8,596億円(2015年度)となっており、そのうち社会保険料から支払えているのは54.3%。37.4%は公費負担(税金)となっています。
関連>>社会保障費用統計(旧社会保障給付費)
http://www.ipss.go.jp/site-ad/index_Japanese/security.html
「2040年問題」で日本の医療はここまで変わる
人口減と少子高齢化が加速し医療ニーズは縮小へ
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t305/201801/554385.html
制度改革の目標として本質的に見据えるべきは、高齢者数がピークに達する2040年前後に他ならないと。2040年になると、私も70歳で立派な高齢者です。
技術と法律の壁を越える挑戦
エンジニアと法律家の目に個人情報保護法はどう映るのか
https://business.bengo4.com/category3/article282
法律の実務には技術的なサポートが不可欠と。
関連>>裁判手続等のIT化検討会
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/saiban/index.html
「まずは抵抗があまりないところから」、デジタル化やAIは行政をどう変える?
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/17/121500582/121500004/
都道府県CIOフォーラム報告 第15回年次総会より。