日本の電子政府は、できないBPRを潔くあきらめた方が良い

2018年度に向けた政府の動きが活発化しています。各省で予算案が提出され、2017年12月22日付けで、IT新戦略の策定に向けた基本方針も決定しました。
この基本方針や総務省所管予算(案)には、「行政の業務改革(BPR)」という言葉が出てきます。電子政府では、このBPRという言葉を呪文のように唱え続けてきましたが、未だにBPRは実現できていません。10年以上かかっても実現できないのですから、潔く止めれば良いと思うのですが、全然あきらめる気配がないのは困ったことです。
恐らく、BPRの本質的な意味を理解してないので、こうした事態になっているのではないかと思います。良い機会なので、BPRについて解説しておきましょう。
BPR(Business Process Re-engineering)の本質は、「できる限りコンピュータに仕事を任せて、それにより余った人員を削減すること」です。それ以上でも、それ以下でもありません。
BPRの考案者の一人とされるマイケル・ハマー氏は、マサチューセッツ工科大学のコンピュータサイエンス教授で、BPRもコンピュータによる情報処理を前提としています。「無駄なプロセスを減らし、その処理をコンピュータに行なわせる」ことで、BPRは実現します。
なぜ、コンピュータに行なわせるかと言えば、コンピュータは命令どおりに動いてくれるからです。
これに対して、コンピュータと異なり、人間はとても複雑です。命令どおりに動いてくれることは少なく、多種多様な報酬を用意して、あの手この手で、そのモチベーションを維持・向上してあげることが必要です。
「BPRが成功するためには、コンピュータやプロセスの再設計だけでなく、人間の要素の重要性を認識する必要がある」といった主張がありますが、人間の要素を重視した時点で、それはもはやBPRではありません。全く別の思考と思った方が良いのです。BPRを実行するのであれば、企業文化、モチベーション、リーダーシップといった曖昧で複雑な要素は、できる限り排除する必要があります。
私の知る限り、電子政府でBPRを実現しているのは、エストニアぐらいです。エストニアの電子政府を知ったときに、「環境さえ整えば政府もBPRを実現できるのか」と感心したものです。
なぜ、エストニアの電子政府がBPRを実現できたのかと言えば、単純に「人もお金も少なかったこと」と、もう一つ重要なのは「公務員の雇用流動性が高いこと」です。
先に述べたように、BPRの本質は、「できる限りコンピュータに仕事を任せて、それにより余った人員を削減すること」ですから、「BPRにより不要になった公務員を(配置転換ではなく)解雇できること」が必須条件となります。その上で、「本当に必要な部門には、新たな人材を雇用する」とします。
日本の場合、上記のような公務員の解雇は事実上不可能なため、BPRの実現も不可能なのです。
もう一つ、日本でBPRの障害となるのは、「コンピュータに対する差別が横行していること」です。これは、電子政府全体の障害にもなっています。
BPRにより「コンピュータに仕事を任せる」ためには、コンピュータへの信頼が欠かせません。政府の公務員であれば、「コンピュータに仕事を任せる」ことが、自身や国民・住民の幸せに繋がると、心から信じることが必要です。
そうした信頼があって初めて、コンピュータを仕事上の大切なパートナーと考え、コンピュータの仕事をしやすくするためには、どんな環境が必要だろうかと考えるようになります。
日本の公務員の多くは、まだそこまでコンピュータを信頼しておらず、むしろ自身の仕事を奪う存在として脅威に感じているかもしれません。コンピュータによる合理化や効率化は、なんとなく冷たい非人間的なものと捉えて、国民や住民の幸せに繋がるものではないと考えているかもしれません。コンピュータの仕事をしやすくするどころか、コンピュータの仕事が上手くいかないように、様々な意地悪を考え実行してくるかもしれません。
私自身、フリーランスなので、ネットワーク上で仕事をすることがあります。「一度も顔を合わせずに仕事が終わり、仕事が終わった後も顔を合わせることがない」といったこともあります。一緒に仕事をした相手が、どのような容姿・性別・年齢なのかわかりませんし、もしかしたら現実には存在しない人(コンピュータ)であっても不思議はありません。人工知能が進化するほどに、そうしたことが日常になるのではないかと思います。
さて、日本でBPRが実現できないと言っても、それほど嘆くことはありません。なぜなら、BPRは手段の一つに過ぎないからです。ただし、電子政府を進めていくのであれば、「コンピュータに対する差別をなくす」ことは必要です。


IT 新戦略の策定に向けた基本方針 平成29年12月22日
高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議決定
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20171222/siryou.pdf
高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(第72回)
官民データ活用推進戦略会議(第3回)合同会議
平成29年12月22日(金)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dai72/gijisidai.html
官民データ活用推進基本計画の推進状況、IT新戦略の策定に向けた基本方針について。IT新戦略の策定に向けた基本方針(案)では、行政サービスの100%デジタル化、行政サービスの100%デジタル化、デジタル改革の基盤整備、地方の行政サービスの原則デジタル化、オープンデータの推進・活用(原則オープン化)など。どうやって実現するかは、これから検討ですね。自治体は大変そう。
平成30年度総務省所管予算(案)の概要 平成29年12月22日
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kanbo04_02000095.html
マイナンバー制度の円滑な実施とマイナンバーカードの利活用の促進 275.0億円
サイバーセキュリティの強化、ICTの安心・安全の確保 234.4億円
世界最高水準のICT環境の整備 640.5億円
生産性向上につながるIoT・ビッグデータ・AI・シェアリングエコノミー等の活用推進・人材育成 35.6億円
医療・介護・健康、教育、移動サービス等におけるICTによる課題解決 14.7億円
情報弱者への災害時の情報伝達環境整備 40.4億円
行政の業務改革(BPR)・ICT化の推進 223.1億円
官民におけるブロックチェーン技術の社会実装の推進 1.2億円
統計オープンデータの高度化 8.2億円 など
関連>>平成29年度総務省所管補正予算(案)の概要
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kanbo04_02000096.html
女性活躍推進等に対応したマイナンバーカード等の記載事項の充実等 100.0億円
女性の一層の活躍を推進するため、希望する者に係るマイナンバーカード等において、旧氏(旧姓)併記を可能とするよう、全国1741市区町村の既存住基システム等を改修
平成30年度予算政府案
http://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2018/seifuan30/index.htm
人づくり革命、生産性革命、財政健全化を進めると。
関連>>平成29年度補正予算 平成29年12月22日
http://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2017/hosei1222.htm
歳出の追加:2.7兆円。生産性革命・人づくり革命、災害復旧等・防災・減災事業、総合的なTPP等関連政策大綱実現に向けた施策など。

マイナンバーカード(電子証明書)を活用する公的個人認証サービスの利用を行う民間事業者への大臣認定を実施 平成29年12月21日
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyosei02_02000162.html
日本医師会を「プラットフォーム事業者」として認定。公的個人認証サービスの利用のために必要となる設備を整備・運用し、電子署名等の検証・電子証明書の有効性の確認を様々な官民サービスの提供主体にクラウドサービスとして提供すると。
・HPKIカードを申請する際の本人確認について、公的個人認証により可能とする基盤を提供する。
・当面、医師のHPKIカードの申請のみに利用するが、厚生労働省が定める保険医療福祉分野の国家資格に拡大を検討
本来は、エストニアみたいにマイナンバーカード1枚で足りるのですけどね。

平成30年度地方財政対策のポイント及び概要 平成29年12月22日
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01zaisei02_02000184.html
子ども・子育て支援等の社会保障関係費、まち・ひと・しごと創生事業費、公共施設等の老朽化対策をはじめ適正管理を推進する「公共施設等適正管理推進事業費」などに対応。
総理の一日 IT総合戦略本部・官民データ活用推進戦略会議 合同会議
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201712/22it_kanmin.html
行政手続の電子化は20年近く進められてきましたが、いまだ、電子申請であっても紙の書類の取得や添付が必要とされ、時間と労力の無駄となっています。この際、戸籍や登記に関する証明書など電子申請にかかる紙の添付を一括して撤廃します。可能な限り速やかに国会提出できるよう、松山大臣を中心に法案の作成に直ちに着手してください。
ビッグデータ時代にあって、国や自治体が保有する大量のデータは、革新的なビジネスなど新たな価値の創造につながるものです。このため、行政データについては可能な限り公開し、民間の活用を促すという大方針の下、今後、民間のニーズを行政に反映させるための官民ラウンドテーブルの開催、次に、オープンデータを全国的に徹底するための行政データの取扱いに関するガイドラインの整備を進めてください。
関連>>内閣官房長官記者会見 平成29年12月22日(金)午前
http://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/201712/22_a.html
総理からは、戸籍や登記に関する証明書など、電子申請に係る紙の添付を一括して撤廃するとの目標に向けて、可能な限り速やかに法案提出をすること、国や自治体が保有する大量のデータを可能な限り公開し、新たな価値の創造につなげる行政データのオープン化徹底のためのガイドラインを整備することなどが指示されました。
地方公共団体オープンデータ推進ガイドライン(改定版)、オープンデータをはじめよう~地方公共団体のための最初の手引書~(改定版)と推奨データセットの公表について
平成29年12月22日 内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/senmon_bunka/data_ryutsuseibi/opendata_siryou.html
「オープンデータをはじめよう」の簡易手引書、推奨データセット項目定義書、推奨データセットフォーマット標準例、推奨データセットの活用が見込まれるアプリ例等を新規公開。
行政保有データ(統計関連)の棚卸し結果の公開について
平成29年12月22日 内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/senmon_bunka/data_ryutsuseibi/toukeidata_kekka.html
平成29年4月1日時点・平成29年12月取りまとめとして。国の行政機関(23府省庁)を対象に、データの公開状況(オープンデータ・公開・非公開の別、ファイル形式、更新頻度)、オープンデータ化未対応・非公開の理由を調査。個人情報保護委員会と法務省が遅れているようです。
平成30年度税制改正の大綱 平成29年12月22日 閣議決定
http://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2018/20171222taikou.pdf
給与所得に係る特別徴収税額通知(特別徴収義務者用)について、当該通知に記載すべき事項を電子情報処理組織(eLTAX)を使用する方法又は光ディスク等に記録する方法により提供する場合には、マイナンバーの記載を行い、書面により送付する場合には、当面、マイナンバーの記載を行わないこととする。
(注)上記の改正は、平成30 年度分以後の個人住民税について適用する。
自動運転に係る制度整備大綱サブワーキングチーム(第2回) 平成29年12月14日
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/senmon_bunka/detakatsuyokiban/seidoseibi_subwg/dai2/gijisidai.html
自動運転に係る官民協議会の状況報告、制度整備上の論点など。
事故時等における責任関係・保険では、
・無人運転車両走行時における民事上・刑事上の責任について検討することが必要ではないか。
・国による補償体制について検討することが必要ではいないか。
・①事故・紛争の未然防止、②事故紛争発生時の原因究明・再発防止について検討することが必要ではないか。
・ハッキングによる事故発生時の補償について検討することが必要ではないか。
「医薬品産業強化総合戦略~グローバル展開を見据えた創薬~」の一部改訂について(公表) 平成29年12月22日
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000189123.html
・がんゲノム医療推進コンソーシアムの構築による革新的な医薬品等の開発推進
・データベース情報の解析を踏まえた戦略的な革新的シーズ開発の推進
・臨床研究・治験の患者向け公開データベースの整備
・AIの活用による医薬品研究開発支援
・リアルワールドデータの利活用促進(医療情報データベース(MIDNET)事業の本格運用開始)など。
機能不全のマイナンバー情報連携、DV被害者に影響も
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/17/121100574/121400001/
かなり刺激的なタイトルのシリーズ連載が始まったのですね。添付書類を出さなくてもマイナンバーを提出しさえすれば国民健康保険の手続きができるはずが、実際には事務が遅くなるので、従来通り添付書類の提出を求めていると。
マイナンバー制度の情報連携は、設計思想に致命的な欠陥があるので、今後も改善は難しいでしょう。
関連>>使えないマイナンバー
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/17/121100574/
マイナンバー制度の情報連携は行政事務の効率化に寄与できない
http://www.manaboo.com/wordpress/?p=1941
マイナンバー制度の誤解、情報連携で問題は解決されない
http://www.manaboo.com/wordpress/?p=1720
普及率9.6%のマイナンバーカード、仕様上の「欠陥」
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/17/121100574/121400002/
利用者証明にはPINを入力しなくてもICカードリーダーなどにかざすだけで読み取れるデータ項目があると。安易なPIN無し認証の導入は良くないと止める人はいなかったのかな。エストニアの国民IDカードには、もちろんPIN無し認証はありません。
「文句は大歓迎」、待ったなしのマイナンバー制度改革
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/17/121100574/121400003/
「情報連携ではデータの提供者と照会者が違うので、データを提供する側の部局がデータの定義を細かく伝えるようにしないと、データをもらう方の部局には役立たない」と。問題の本質から見事に外れた指摘で、もはや悲しくなります。。
ブロックチェーンの活用、デザイン思考が有効
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/17/121300578/121500002/
ブロックチェーン技術に即したユースケースの「パターンブック」を提案。ブロックチェーンを使うことで一気通貫にデータを管理でき、サプライチェーン全体にまたがるトレーサビリティ管理を実現できると。
咳エチケット
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000187997.html
3つの咳エチケット
1.マスクを着用する。 (口・鼻を覆う)
2.ティッシュ・ハンカチなどで口や鼻を覆う。
3.上着の内側や袖(そで)で覆う。
だそうです。私の場合、普段はマスクしないので3が主流ですね。
データベースが腎臓診療を進化させる
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/special/sped/1712cvm/201712/554060.html
慢性腎臓病(CKD)患者の電子カルテ情報を一元化する「J-CKDデータベース」の整備では、各施設独自の形式で保存されているデータを標準形式で出力する方法を採用し、異なる病院からCKD患者のデータを自動で集めるようにしていると。エストニアの場合は、これを医療機関に義務付けているんですよね。もともと、日本ほど電子カルテシステムの仕様がバラバラではないのですけど。。
7人の医師が急性腎不全の可能性を指摘するも、判決変わらず
奈良県警で勾留中の医師死亡、控訴審で棄却
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/201712/553833.html
医師の意見書は無視で事実認定したいようにしている。最初から結論ありきの裁判に、全く納得していない。公権力に対してチェック機能が果たせておらず、司法とはいいがたいと。
治療法は幾つもないのに300遺伝子を調べる意義
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/eye/201712/554160.html
日本でも国立がん研究センター東病院が中心になって行っているプロジェクトで、既に7000例を超える患者のゲノム情報や検査、予後に関する情報が蓄積し始めていると。
JALが「信じ込んでしまった」手口とは、振り込め詐欺で3.8億円被害
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/346926/122001256/
確かに、大手企業をターゲットにした方が利益率は高そうですね。
iPhone旧機種の動作減速で説明 アップル
http://diamond.jp/articles/-/154064
プライメート・ラブズ社は、「アイフォーン 6s」や「7」といった旧機種で、速度が遅くなっている様子を示すデータを公表。米アップルは、クレームを受け、バッテリーの劣化に対応した措置だとする説明文を出したと。
2018年のセキュリティ脅威予測、破壊的攻撃や敵対的AIが企業を襲う
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/346926/121901249/
サイバーセキュリティは、すでにAI対AIの戦いですね。
なぜビジネスにブロックチェーンが必要とされるのか
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/17/121300578/121300001/
Hyperledger FabricはB2Bで通貨以外の資産を取引するためのブロックチェーン基盤としては最も開発が先行しており、今後はエンタープライズビジネスへの適用について検討が進むのではないかと。
RPAブームに警告する、改革を棚上げすれば未来なし
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/531236/121900100/
日本企業がRPAで業務を自動化したところで、既にERPなどで業務の標準化と効率化を実現している欧米企業がRPAを導入したら、日本企業は生産性などの面で歯が立たないだろうと。