電子申請で偽造や不正を防止しよう

日経BP社の特集記事「建築界信頼回復への道筋(前編)」の中で、偽造防止の手段として、電子申請や電子認証という言葉が出てきている。電子申請・電子入札は偽造や不正の万能薬ではないが、使い方次第では、かなり効果的な予防薬となるはずである。

紙で提出していた資料を電子データで提出させる

大量のデータを短期間でチェックすることが可能となる。この際に、一定の基準や過去のデータから見て、不自然なものだけを抽出し、人間による再チェック等を行う。

 1 機械でできること、機械が得意なこと
 2 人間にしかできないこと、人間の知識や経験が生かせること

の分業体制を整えることで、問題ないであろう申請は迅速に処理し、疑わしいものについては念入りに調べるのである。

紙であろうと電子であろうと、間違いや不正がゼロになることは無いし、検査等をすり抜ける可能性はなくならない。そのことを認識した上で、コストや業務フローといった現実問題を考慮しながら、可能性をゼロに近づける努力をしなければいけない。

電子署名やタイムスタンプで改ざん等を防止し、宣誓させる

電子申請では、電子署名の使用が要求されることがあるが、どうも中途半端な使われ方をしている印象を受ける。

建物や薬品の安全性など、人の生命に直接影響を与えるような申請等については、提出した資料や申請内容の真実性・信頼性等を「宣誓する」意味で、電子署名やタイムスタンプを活用すれば良いと思う。

電子入札の談合抑止力については、以前の電子申請コラム&リンクで書いた内容を紹介しておこう。

橋梁談合:全128件が電子入札 防止目的で導入、骨抜き
2005年6月15日 MSN-Mainichi INTERACTIVE(毎日新聞社)
新聞やテレビを賑わせている鋼鉄製橋梁の建設工事を巡る談合事件について。電子入札で、談合は防止できなかったと。

談合事件についての公式発表は、公正取引委員会の記者発表を参照。
国土交通省が発注する鋼橋上部工事の入札談合事件に係る告発について(PDF)
国土交通省が発注する鋼橋上部工事の入札談合事件に係る追加告発について(PDF)

公共調達における談合は、今に始まったことではないですが、時代の変化と共に、談合の事実が白日の下にさらされ、司法・行政関係者の努力が実り、少しずつなくなっていくことを期待します(潮流を考えれば、そうなるでしょう)。新聞やテレビといったメディアにも、それを後押ししてもらいたいですね。

ここでは、今回の記事から読み取るべき、現在の電子入札が抱える問題点を指摘しておきましょう。

その問題点は、電子入札システムの導入は進むものの、評価・監視の仕組みを持たないケースが多いため、本来の目的を達成できていないということです。

電子申請における評価・監視の仕組みの大切さは述べてきましたが、具体的な数字と結果で評価・測定しやすい電子入札こそ、評価・監視の仕組みが必要なのです。

仮に、国土交通省の電子入札システムの導入に合わせて(できれば事前に)、競争入札の仕組みを改革し、電子入札の導入によって落札価格が下がったか、事務処理スピードが上がったか、入札に参加する新規(地元)企業は増えたか、事業のコストパフォーマンスは向上したか等について評価・監視を行っていれば、談合を防止できる可能性は高くなったでしょう。

国土交通省に限らず、国や自治体の電子入札では、こうした評価・監視や情報公開がほとんど行われておらず、電子入札のウェブサイトを見ても、電子入札によってどれだけの効果があったのかが説明されていません。これは、大変恐ろしいことです。

日本は電子入札が進み、電子証明書(ICカード格納)の成功例だといった意見を聞くたびに、「うーん、違うんだけどなー」と嘆く作者であります。。

記事にある通り、電子入札システムだけで、談合を防止することはできません。電子入札の本質を理解して「談合を防止しよう」という強い意志が働かなければ、談合はなくならないのです。

電子入札の導入過程で、入札制度が抱える問題点に気づき、意識を変化させ、制度を改革し、協力者(行政、司法、企業、市民)を巻き込んでいくことができれば、談合を防止することは十分に可能なのですね。

企業コンプライアンスといった言葉が流行っていますが、営利を目的とする企業が、厳しい競争の中で、組織的に一線を超えてしまうケースは今後もあるでしょう。だからこそ、今一度、電子入札のあり方を見直す必要があると考えます。

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