機械との競争、次世代の電子政府を考えるヒントとして

機械との競争
エリク・ブリニョルフソン (著), アンドリュー・マカフィー (著), 村井章子 (翻訳)
日経BP社

副題を含む原題は、

Race Against The Machine: How the Digital Revolution is Accelerating Innovation, Driving Productivity, and Irreversibly Transforming Employment and the Economy

とあり、「デジタル革命が社会経済活動に与える影響」を考える本です。

本書では、「機械に(恐れをなして)闘いを挑む人たち」が紹介されています。

19世紀初めのイギリスで起きた自動織機を破壊する「ラッダイト運動」や、蒸気ハンマーと競争して勝利したものの心臓マヒで死んでしまった「ジョン・ヘンリーの伝説」などです。

マイナンバー制度に関連して話題になることが多い「年金記録問題」が起きたのも、テクニカルな原因は色々とありますが、その本質は「社会保険庁(現在の日本年金機構)の職員による機械(コンピュータ)に対する抵抗」であったと、私自身は理解しています。

これまではコンピュータにできないとされてきた、車の運転(パターン認識のタスク)も米グーグルの自動運転車が実現してしまいました。人工知能を搭載したIBMのコンピュータ「ワトソン」はクイズ番組で人間に勝利して、現在はビッグデータ解析能力を生かして医療分野での活躍が期待されています。

コンピュータの処理能力が18ヶ月ごとに倍になるというムーアの法則が今しばらく続くと考えた場合、コンピュータの能力が人間の脳に追いついてしまうのも時間の問題となり、ささやかな人間の抵抗むなしく、ほとんどの分野・仕事において、機械が人間の代わりをできてしまう時代がやってきそうです。

では、ほとんどの分野・仕事において人間が不要になってしまうのかと言えば、そういうわけでもなさそうです。

というのは、コンピュータは、人間のアシストを受けることで、より高度な能力を発揮できると考えられているからです。

グーグルの自動運転車は全くの人間の介在無しにアメリカの道路を1600キロ走破することができましたが、人間がほんのわずかな指示を出す方式では、22万キロを走行することができました。

コンピュータの発達で、人間のチェス王者を打ち負かしてしまったコンピュータを打ち負かしたのは、最高のコンピュータでも最高の人間でもなく、人間とコンピュータのチーム(アマチュアプレーヤー2名+コンピュータ3台)でした。

しかも、決め手になったのは、人間2名がコンピュータを操作して学習させる能力に優れていたからで、彼らの「よりよいプロセス」があればこそ、もっと強力なコンピュータにも勝つことができたとされています。

こうした現状を考えると、今でこそ「人間の仕事をコンピュータが支援する」という主従関係がありますが、将来的には、コンピュータの仕事を人間が支援するケースが増えてくるでしょう。

そこでの人間の仕事は、コンピュータがより能力を発揮しやすい環境やプロセスを考えて実現してあげることになります。

日本の電子政府が遅れているのは、「機械に(恐れをなして)闘いを挑む人たち」がまだまだ多いからであり、その意味では「年金記録問題」も決して過去のものではなく、現在進行形の問題です。

次世代の電子政府で考えるべきなのは、「コンピュータがより能力を発揮しやすい環境やプロセスを考えて実現してあげる」ことであり、高価なコンピュータを買い揃えることではありません。

コンピュータの能力発揮を妨げる規制を速やかに撤廃し、コンピュータに優しくない(紙処理を前提とした)戸籍制度などを見直すことが、電子政府を良くするための一番の近道と言えるでしょう。

2052 今後40年のグローバル予測
ヨルゲン・ランダース (著), 竹中平蔵 解説 (その他), 野中香方子 (翻訳)
日経BP社
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