貧乏はお金持ち──「雇われない生き方」で格差社会を逆転する、納税者番号と所得捕捉との関係

貧乏はお金持ち──「雇われない生き方」で格差社会を逆転する
橘 玲
講談社

「サラリーマンでも、マイクロ法人を作ることで、節税できますよ」というファイナンシャル・リテラシーを高めてくれる本です。

内容は実践的で、目的意識のある人が読むと、大いに役立つことでしょう。

今回は、納税者番号に関係する話しをしておきましょう。

日本の税制度は、社畜としてのサラリーマンにとっては、極めて厳しく不公平なものとなっています。

しかし、その不公平を感じさせないぐらいに、社畜サラリーマンにとって居心地の良いシステムでもあります。

面倒な税や社会保障の手続を、ほとんど企業がやってくれるからです。

その対価として、自営業者よりも余分に税や保険料を負担し、仕事には関係のない自分や家族に関する個人情報を勤務先である企業に提供するのです。「タダより高いものは無い」といったところでしょうか。

政府にとっても、源泉徴収や年末調整を企業がやってくれて、「税や保険料を、とりやすいところから効率的に取る」ことができるのですから、とってもありがたいシステムです。

本書で紹介される方法は、「社畜サラリーマン」から「考え行動するサラリーマン」になることで、法人とサラリーマンの良いとこ取りをしちゃいましょう、ということでしょう。

さらには、政治家にとっても「納税意識の低い、自分で考え行動しない国民」は扱いやすいので、愚民政策が取りやすいかもしれません。

税制度だけでなく、日本の教育制度も、メディアリテラシーの低い「自分で考え行動しない国民」を育てる仕組みと言えるかもしれません。

●納税者番号でクロヨンが解消できるか

クロヨン(964)やトーゴーサンピン(10531)といった課税所得の捕捉率についても、「正確な名寄せができない」といった理由だけでなく、こうした税制度自体によるところも大きいのですね。

ですから、納税者番号の導入に合わせて、所得控除を含めた税制度自体の歪みや不公平を修正することが大切です。

政府が進めようとしている「社会保障・税に関わる番号制度」では、税制度(国民から徴収する)だけでなく、社会保障制度(徴収した税金を効率・効果的に再分配する)とリンクさせて両制度を見直すことで、国民全体の不安や不公平感を解消しようとしています。

それでは、納税者番号の導入で、課税所得の捕捉率は改善しないのでしょうか。

『Q&A納税者番号制度とは-そこが知りたい!(河野光雄著)』によると、納税者番号を導入しているオーストラリアでは、導入前は氏名と住所で名寄せしていたけど、資料の3-40%しか名寄せできなかったそうです。

漢字や外字の無い国でこの名寄せ率は「さすがにヒドイだろ」とツッコミたくなる気もしますが、こうした実態は政府として公式に発表されることはありません。税制の不公平を公式に認めてしまうことはできないということでしょう。ですから、日本で納税者番号として機能する「社会保障・税に関わる番号」が導入されても、課税所得の捕捉率がどの程度改善するのかはわかりません。

しかし、名前や住所に読み方が何通りもあったり、自治体ごとに異なる外字を使っていたりする状況を考えると、税務資料の名寄せ率については明らかに向上するでしょう。当然、名寄せにかかっている事務処理コストも軽減します。

主要税目の税収(一般会計分)の推移を見ると、所得税による収入金額はピーク時の半分以下ですが、それでも12兆円ぐらいあります。納税者番号の導入で1%でも捕捉率が改善すれば、単純計算で1200億円の税収アップが見込めます。

日本弁護士連合会の「税と社会保障制度共通の番号制度創設に関する意見書(PDF)」では、

『納税者番号を創設しても、その目的である正確な所得把握の実現は事実上不可能である』

としています。これは全くその通りで、100%正確な所得把握などできないことは、税の専門家も政府関係者もわかっています。大切なのは、「今よりも正確性や効率性が向上すること」「今よりも国民の不公平感が少なくなること」です。

ちなみに、オーストラリアでは
・納税申告や雇用申告(就職、転職時の届出)で納税者番号の記載を求められる
・納税者番号の記載が無い場合、最高税率(所得税で45%)で源泉徴収される
・所得照合システムにより、納税申告書と情報申告書を照合する。
・年金等の社会保障の受給者は、二重受給防止のため、受給の条件として、社会保障給付機関へ納税者番号を告知する
・国税庁と社会保障給付機関(年金、雇用、教育、保健など)は個人情報を相互に照合できる
・プライバシー法があり、自主調査権限を持つ監督機関(プライバシー・コミッショナー)がある
・プライバシー法はセクトラル方式からオムニバス方式へ移行したが、規制対象外が多いといった理由から、EUからは保護水準の十分性を欠くと指摘されている

となっています。

Q&A 納税者番号制度とは (そこが知りたい!)
河野 光雄
金融財政事情研究会