電子行政研究会の第1回セミナーから読み解く「電子政府の将来像」

昨日、電子行政研究会の第1回セミナー「電子行政の構築と政府CIOの設置」が開催されました。年末のお忙しい中、あまり天気も良くなかったにもかかわらず、たくさんの方にお越しいただきました。この場をお借りして、心よりお礼申し上げます。

なお、当日の配布資料につきましては、電子行政研究会のホームページに掲載する予定です。

今回は、作者個人の視点で、ご講演いただいた内容について間単にコメントしたいと思います。

(1)基調講演:目指すべき電子行政の姿について(和田 隆志 内閣府大臣政務官)

和田政務官には、政府CIOや国民ID制度などを中心に、政府の動向や今後の予定についてお話いただきました。

・年内:政府CIO制度の方向性(グランドデザイン)の提示
・今年度内:IT投資の総括と教訓の整理を行い、政府CIO等推進体制も含めて、「電子行政推進の基本方針」を策定
・来年度以降:「電子行政推進の基本方針」に基づき、電子行政推進のためのガイドライン、政府CIO等の電子行政推進体制の整備

日本が抱える様々な問題を考えると、電子政府や電子行政の推進については、政府の優先順位はあまり高くないのではと思います。特に目指すゴールやスピード感などは、民間が期待するものと差があるように感じました。

(より優先度が高い)税や社会保障の政策を実現するツールとして電子政府を活用する場合、国民に対するサービスを重視する場合などは、電子政府自体が目的にならないように注意することは大切です。

しかし、「電子政府は、行政改革・役所改革・公務員改革そのものである」と考えた場合、電子政府の進め方も変わってきます。作者自身は、政府が「公務員改革」に本気にならない限り、中途半端な電子政府が続くことになる考えています。

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(2)講演:抜本的な電子行政の革新(安延 申 経済同友会電子政府推進部会)

安延様には、日本政府のIT活用がいかに遅れているか、成長戦略としての電子政府などをお話しいただきました。

経済同友会の提案
1 徹底した行政業務のBPR
・BPRの工程表と義務化(法定化)
・クラウドコンピューティング等の新技術の活用
2 「政府の一体性」の強化
・政策責任者の明確化と権限の強化
・電子政府推進基本法の制定とIT戦略本部の権能強化
3 共通基盤たる国民IDの導入
4 その他
・わかり易い徹底した情報開示
・政策進捗の評価の徹底
・民間人(専門知識を有する者)の登用の推進と権限強化

IT活用や電子政府が進むと困る人が、どの分野にもたくさんいます。仕事が無くなったり、地位や権力が低下したりする人たちです。少子高齢化が進み、国家としての衰退期が本格化していく日本で、痛みを伴う電子政府が受け入れられるのには、まだしばらく時間がかかりそうです。

(3)講演:電子行政を実現する情報システムのあり方について(須藤 修 東京大学)

須藤先生のお話は、政府の基本方針(IT戦略工程表、税と社会保障に関る番号制度など)、自治体クラウド、クラウドコンピューティング、次世代電子行政サービスなどでしたが、日本の政府だけでなくITベンダーの遅れも指摘されていました。

いわゆる「電子政府の先進国」も、ここ5年ぐらいで差がついてきました。その差を生み出している理由の一つが、「公共分野における情報連携基盤」です。エストニアや韓国の台頭がその例と言えるでしょう。

現在、税と社会保障の番号や国民IDが話題となっていますが、より重要なのは「公共分野における情報連携」が機能し、実際の業務に活用され、新しい価値やサービスを生み出していくことです。情報連携の方法や実現するための技術は色々とあるので、10年毎ぐらいに見直せるような制度設計が必要と思います。

霞ヶ関や自治体クラウドについては、今後はPaaSに注目が集まってくるでしょう。いくつかの「使えるプラットフォーム(PaaS)」があり、その上で動くアプリケーションを組み替えることで法改正等に伴うシステム変更に対応していく。さらに、異なるPaaS間の連携も可能になっていき、別のPaaSへ移行するコストも下がるので、ベンダーロックインが実質的にできなくなる。こんな形を目指していくのだと思います。もちろん、実現できるかどうかは全く別の話しです。

クラウドを活用したデータ分析は、これからの行政経営に欠かせないでしょう。カンピュータに頼る長島監督ではなく、野村監督のID野球になっていくということです。ビジョンや施策に説得力を持たせるのは、リーダーの直感ではなく、データ分析に裏づけされた判断であると。

言うまでもありませんが、CIOは「情報システム」の責任者ではなく、「情報戦略」の責任者です。

インターネットの普及やコンピュータ性能の向上もあって、情報の量は増えるばかりです。オープンガバメントの流れもあって、これまでは一部の人だけしかアクセスできなかった情報に触れることも可能になってきました。これらの情報は、一箇所の巨大なデータベースに溜め込んでいくことはできず、組織や国境を越えて世界中に散在し、合法・不法を問わず様々な用途で利用されています。利用される過程で、さらに別の情報を生み出していきます。

現在、クラウドコンピューティングを使って試行しているのは、これらの膨大な情報を宝に変える作業です。レシピサイトのクックパッドが利用者のデータをクラウドで処理して、企業がお金を払って買ってくれるマーケティング情報に変えています。これと同じようなことが、行政の分野でも起きているのです。

(4)講演:電子行政を実現する制度のあり方について(山田 肇 東洋大学)

山田先生は、利用が低迷する電子政府サービスや過剰なセキュリティなどに触れながら、抜本的な改善や新しい価値の創造が必要と指摘されていました。政府CIOについても、府省横断的に「行政改革に取り組む」責任者とのしての位置づけが必要と。

山田先生のまとめ
・強い権限を持つ政府CIOを設置し、業務改革の視座で電子行政を抜本的に見直す
・政府CIOは各府省のみならず地方公共団体も視野に入れ、電子行政を推進する役割を担う
・電子の政府を主とする、と宣言する電子政府基本法を制定し、関連する全法律の改正を進める
・三流国に落ちぶれないためには、残された時間は少ないと自覚してほしい

政府CIOで重要なのは、政府CIOが仕事をしやすい環境を作ることです。政府CIOが進もうとする方向と、各省庁や行政職員が進もうとする方向が対立していたら、お互いが疲弊するだけでしょう。

方向性を統一するために、電子政府基本法のような法律は必要と思います。

(5)講演:政府CIO設置のための法改正試案(上瀬 剛 NTTデータ経営研究所)

上瀬様からは、CIOのあり方、CIO設置法の具体設計、法案の実現などをお話しいただきました。

研究会で目指すべき政府CIO像
・国家経営の幹部として
・府省横断的に業務プロセスの改革ひいては行政改革を管理し
・情報資源を計画し
・プロジェクトを実施するチームのリーダ

CIO法(試案)
・内閣法の改正
・内閣官房組織令の改正
・国家行政組織法の改正

CIO法の実現へのハードル
・財務省の予算編成権等既存の予算編成フレームワーク
・行政の縦割り文化
・政府においてITへの関心が低下傾向

政府CIOについては、年内に政府の方向性が決まるようなので、その結果を踏まえて研究会でも具体的な提案をまとめていくと思います。

山田先生からもご指摘がありましたが、地方公共団体への配慮や支援を、政府CIOの役割と位置づけることが重要でしょう。

霞ヶ関におけるシステム統合やクラウドの導入については、出先機関を除けば、それほどの困難性は無いと思います。これに対して、規模や財務状況も異なる1700以上の自治体がバラバラに情報システムを構築・維持している状況は、より深刻です。

政府CIOを核とした電子政府の推進体制」でも、特に「自治体と国との連携」を重視しています。

人や組織を変えるのは難しいですが、人や組織が変わるのを支援することはできます。各府省や自治体への支援は、政府CIOの重要な役割と位置づけるべきでしょう。

(6)電子行政研究会の活動について(内田 斉 アライド・ブレインズ)

研究会の事務局責任者である内田様からは、今後の活動方針をお話しいただき、皆さまからの積極的なご参加のお願いがありました。

基本的には、電子行政分野における優先順位の高いと思われるテーマを選び、具体的な試案を作成し、政府・政党へ提案していくことになると思います。その成果を発表する場として、セミナーも開催していく予定です。

当面は、政府CIO等を含む電子行政推進法(電子政府法)が検討の中心テーマになりそうです。

(7)まとめ:高井 崇志 民主党衆議院議員

高井先生からは、現在の民主党における電子行政への取組状況を中心にお話しいただきました。

・電子政府法(電子行政推進法)の法案提出を目指す
・ICT利活用促進一括化法についても議論

政策調査会との連携体制が整ってきたので、実現可能性は高まりつつあるようです。

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