図表でみる教育 OECDインディケータ(2010年版)

図表でみる教育 OECDインディケータ(2010年版)が公開されています。日本語サマリーを見ると、

●日本ではOECD 平均と同様、高等教育を修了した者は、後期中等教育しか修了していない者より、就職率が高く、失業率が低い。

●日本ではOECD 平均と同様、高等教育を修了した場合、後期中等教育しか修了していない者より、年間所得は高くなる。

この辺りは、多くの国民が認識しているところです。ただ、日本では高学歴人材の就職難が増えており、学歴の価値が低下しつつあります。雇用の流動化が低いことも原因と思いますが、「何を学んだか」「何を知っているか」ではなく「何をするか」「何ができるか」へと評価軸が変わってきていると言えるでしょう。

●日本では初等、中等、そして高等教育において、在学者一人当たりの教育支出(公費及び私費の合計)は、OECD 各国平均を上回っているが、就学前教育においてはOECD 各国平均を下回っている。

北欧では、保育園から徹底して「自分で考えて決める」といった教育がなされているようです。「三つ子の魂、百まで」ということでしょうか。北欧の教育は、「自立し、社会に貢献できる大人になるための訓練」といった印象を受けますね。「教育への投資」が、明確に「社会への投資」として位置づけられていると。

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●「一般政府総支出に占める公財政教育支出の割合」及び「国内総生産に占める公財政教育支出の割合」は、2000 年から2007 年の間にわずかに減少し、OECD 平均を下回る。

●日本では教育支出に占める私費負担の割合がOECD 平均に比べて高い。

●日本における教育支出に占める私費負担の割合は、特に就学前教育及び高等教育において高い。

●日本は、授業料が高額であるのに対して、公的な補助を受ける学生の割合が小さい。

●日本の就学前教育の在学率はOECD 平均を上回る。

日本の公財政教育支出の割合は、「データが存在するOECD 加盟国でイタリアに次いで2番目に低い水準」とあります。公財政教育支出は、教育格差・経済格差の固定化を防ぎます。日本の場合、特に就学前教育と高等教育の家庭負担が大きいため、教育の入口と出口において経済格差が教育格差を拡大し、格差が固定化しやすいと言えるでしょう。

優秀な人材に政府が積極的に投資することで、優秀な人材が集まりやすくなります。勉強が「できる子供」を「できない子供」に合わせるのではなく、「できる子供」は「よりできる子供」へと育てます。「できない子供」は、その子供のペースで育てて、本当にできないのかを時間をかけて見極めます。もし「できない」のであれば、他の得意分野を時間をかけて一緒に探してあげると。日本の教育現場に「出る杭は打たれる」ような雰囲気や現状があるならば、早急に是正しなければならないでしょう。

保育園から数えれば、大学を卒業するまでに約20年あるわけですし、その後も教育の機会はたくさんあります。教育は長期の投資と考えましょう。

●日本の就学前教育の在学率はOECD 平均を上回る。

●日本の後期中等教育の卒業率はOECD 平均を上回り加盟国中でもトップクラスである。

●日本の高等教育進学率はOECD 平均を上回るが、大学型高等教育だけを見ればOECD平均を下回る。

●日本の高等教育修了率はOECD 平均を大きく上回る。

就職難で大学生が余っていると言われますが、大学への進学率は思っているほど高くないようです。

日本では、大学に入るのが面倒なのに、卒業するのは簡単とされています。この点は、作者自身も大学でほとんど勉強しなかったので、実感しています。「勉強しなくても卒業して就職できる」ような環境が続けば良かったのですが、現在は「卒業しても就職先が無い」と環境が変化してしまいました。

今どきの若者は、「できる人・努力できる人」が伸びる一方で、「できない人・努力しない人(できなくても良いと考える人)」も増えていくように思います。

高等教育(大学、専門学校、大学院等)のあり方と質を改めて、「卒業するまでは大変だけど、卒業すれば就職できる。社会に求められる能力が身につく。」とすることが有効でしょう。

●日本の教員の授業時間数はOECD 諸国と比べて短いが、法定勤務時間数は長い。

●日本の平均学級規模はOECD 諸国と比べて大きい。

●日本の教員給与は、「法定給与の対一人当たりのGDP 比」及び「授業一時間当たりの法定給与額」で測ると、OECD 各国と比べて高い水準にある。

●日本では、OECD 諸国と比べて、「学級規模が大きく」、「生徒一人当たりの授業時間数が短い」にもかかわらず、生徒一人当たりの教員給与支出がOECD 平均並みである背景として、「教員給与が高く」、「教員一人あたりの授業時間が短い」ことが挙げられる。

●1985年以降、多くのOECD 諸国で学校選択制が導入し始めたが、日本においてはこのような動きは限られていた。

●日本では、保護者の公教育に対する法律上の影響力がOECD 諸国と比べて限られている。

教員のあり方については、日本には数多くの問題があると言われます。日教組などは、その典型でしょうか。また、国際的に見て「教員給与が高い」ことは、「公務員給与が高い」こととも繋がっています。

その一方で、教員を取り巻く環境は決して良いものではなく、授業や教育に集中しづらい現状があります。また、他の職種と同じく、正規教員の給与・待遇水準を守るために、非正規の教員が犠牲となっています。

こうして見ると、「日本の教育は、効率性や生産性が低い」と言わざるを得ません。子供にとっても教員にとっても社会にとっても嬉しくないシステムであると。この状況で教育への公的支出を増やしても、税金をどぶに捨てるようなものです。効率性や生産性を高めるために、

・教員が授業に集中できるよう、授業や事務を補助する職員を増やす(雇用の創出)
・正規教員と非正規教員の待遇差をなくす(同一労働・同一賃金)
・人件費の再分配(仕事や市場価値に見合った適正な分配)を行う
(当然、年功序列の教員給与は減額される)
・授業への住民参加を促進する(保護者モンスター化の抑止)
・ICTを活用し、教育コンテンツの共有や自主学習・相互学習を促進する
・規制緩和を進め、選択肢を増やし、権限委譲を進める

などが必要でしょう。

最後に、OECDからの提言を紹介しておきましょう。

経済・社会のニーズに対し柔軟に対応できる人材を育てられるような、コスト・パフォーマンスの高い教育システムを作り上げるには、以下の事項が期待される。

1. 教育・訓練の提供者が、変化するスキル需要に弾力的に対応すること。
2. 求められるスキルが、タイミングよく適切な場所で、最も効果的な方法で獲得できるように、教育機関の質と効率性を確保すること。
3. 人々が柔軟にスキルを学べる仕組みを構築すること。
4. 制度の硬直性、授業料の前払い、年齢制限のような入口での障壁を軽減し、入学や再入学などの十分な多様性を確保すること。
5. 教育に対して、誰が、何に、いつ、どこで、いくら支払うべきかを、合理的な根拠に基づき、学習投資への効率的で持続可能なアプローチを進歩させること。

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