国民IDは政府による監視社会を招くのか(1)、本当に恐れるべきなのは

たびたび本ブログでも取り上げている国民IDの議論ですが、今回は「こんな見方もありますよ」ということを書いてみたいと思います。

●本当に恐れるべきなのは

世の中には、

いわゆる「国民背番号(国民ID)」を核として、政府が個人情報の一元管理を進めている。

さらには、「政府による監視社会」が実現される。

といったSF小説のような話をする人がいます。

こうした話を聞くと、作者としては、まあ、全くありえない話ではないと思いますが、あまり現実的ではないなあ。。というか、あまり本質を突いていない、枝葉末節の話だなあと思ってしまいます。

なぜなら、「国民背番号」を核とした政府による個人情報の一元管理が実現するためには、

・国民が日常的に行う主な活動が「国民背番号」と結びついており
・さらにその活動情報が電子データとなって自動的に更新される

ようにしないと、個人情報を一元管理するデータベースを維持できないからです。

そんなことが実現しそうも無いことは、ちょっと考えただけでわかるでしょう。

コンビニでエロ本を買おうとして、「国民背番号」の提示を求められたら、そのコンビニで買い物をしなければ良いだけのことです。

国民が恐れるべきなのは、「国民背番号」ではなく、「選択肢がなくなること」なのです。

●政府は「国民背番号」など無くても困らない

そもそも、「国民背番号」など無くても、政府が国民の個人情報を収集してデータベース化することは可能です。

警察機関に、犯罪者のデータベースや危険人物・団体のデータベースがあるのは、どこの国でも同じです。「国民背番号」とは何の関係もありません。

そんなものだから、中には勝手に違法なデータベースを作って、防衛庁(現防衛省)のようにばれて怒られちゃったりします。

そういうことさえ知らずに、「国民IDは危険だ」という人を見ると、なんだか哀れに思います。

●公務員IDの必要性

これは作者の想像なので、冗談話と思って聞いて欲しいのですが、行政の人間の中には、国民データベースマニアがいて、個人的に個人情報データベースを作っているのではないかと思います。

今でこそ、行政内部においても個人情報の閲覧や外部持ち出しが多少は制限されるようになりましたが、基本的には行政内部の人間が個人データにアクセスすることは、外部から不正アクセスするよりはずっと簡単です。

そういう行政内部の人が、個人的な趣味でデータを持ち帰り、他で取得した情報と混合し、「芸能人データベース」や「高校同級生データベース」などを作っていても、発覚する可能性は非常に低いでしょう。

こうした行為を未然に防ぐためには、公務員にIDを付与して、業務上の活動を管理・監視することが有効です。

実際、政府においては、国家公務員へのID付与が進められています。

関連ブログ>>公務員の背番号制度、「情報」と「人事」の管理に役立てましょう

●お金になるのは民間が保有する個人情報

個人情報を収集してデータベース化し、それを維持していくことは、かなり大変で骨の折れる(お金もかかる)ことなので、それ相応の見返りが無い限りは、誰もやりたがりません。政府も、それほど暇ではないのです。

先日、友人と話をしていたら、不動産購入の勧誘電話があったと。

今までは自宅の電話にかかってきた勧誘が、今回は個人の携帯電話にかかってきたので、

友人が「ところで、この番号は、どうやって知ったのですか?」と尋ねたところ、

「あ、もちろんそういう(名簿販売)業者さんからです。」との返事が。。

友人の携帯電話の番号が漏れたのは、恐らくは民間事業者からでしょう。

金融機関から内部漏洩した膨大な個人情報が悪用されたことがニュースになりましたが、収入・資産情報+氏名・住所・電話番号などは、非常に商業価値の高い情報です。

一件1000円で買っても、数百万・数千万円の儲けに繋がる情報であれば、利益が見込めるからです。

商業価値の高い個人情報となるためには、コンテクストや付加価値が必要です。例えば、単なる「氏名・住所・生年月日・電話番号」といった個人情報も、「都内在住の既婚・子持ち、30代から40代、年収1000万円以上」といった札が付くと、その商業価値は全く変わってきます。

こうした付加価値は、行政よりも民間が持っているのですね。

次回は、監視社会について考えてみましょう。