オンライン申請システム停止の意義(2)、全部でいくら税金を使ったのか?

オンライン申請システム停止の意義(1)、何を学び何を生み出すかが問われるの続きです。

今回は、Q&A形式で、疑問・質問にお答えしたいと思います。

(1)なぜ利用されなかったのか?

電子政府評価委員会では、「利用されなかった理由」については特に議論されていませんが、担当省庁では次のように認識しています。

★文部科学省の見解

・電子証明書取得には時間と経費を要するため、その時間と経費をかけてまで電子申請を行う申請者が少ない。
・電子申請を行うために必要なパソコンの設定等が複雑である。
・申請に際し、添付する必要がある書類の多くが電子化されておらず(戸籍謄(抄)本、住民票、その他の証明書等)、添付書類を別送する必要がある。
・電子化の負担が大きく(図面、画像、冊子等)、添付書類を別送する必要がある。
・文部科学省には国民等が生活上必要とする手続(繰り返し行う必要がある手続)がほとんどない。

参照資料>>文部科学省におけるオンライン申請システムの現状について(文部科学省提出資料)(PDF)

★防衛省の見解

・駐留軍に係る損害の補償に関するものなど、日常的に継続、反復して行われない手続きである。
・上記以外の手続については、「利用されなかった理由」を把握していない。

参照資料>>申請・届出等手続オンライン化の見直しについて(防衛省提出資料)(PDF)

このように、 「利用されなかった理由」についての分析・認識については、文部科学省の方が進んでいます。防衛省には、ほとんどやる気が感じられません。

(2)そもそもニーズがなかったのではないか?

これは、全くその通りと思います。

今回停止されるオンライン申請システムは、「汎用受付等システム」と呼ばれるもので、2002年頃から2004年ぐらいにかけて、各省庁で構築されたものです。

資料>>電子政府タイムテーブル

この頃のオンライン申請システムは、「とにかくオンライン化・電子化しなさい」といった政府全体の戦略・方針に従って作られたものです。当然ながら、ニーズがあるかどうかなんてものは考えていないのです。

実際、「汎用受付等システム」の利用率は、どの省庁も似たり寄ったりで、あまりにも非効率なので「e-Gov電子申請システム」に統合されていきました。この統合により、少なくともコストの無駄遣いは減りました。

文部科学省と防衛省も、早いうちに統合してしまえば良かったのですが、予算のせいなのか統合されず放置していたために、たまたま槍玉に上がってしまったとも言えます。

(3)手続き自体の見直しが不十分なままオンライン化したのではないか?

これも、全くその通りと思います。

上述の「とにかくオンライン化・電子化しなさい」方針には、「2003年度までに(=2004年3月末まで)」という期限が課されました。

「ひゃー、こりゃ大変だ!」と急いでオンライン化を進めたので、とてもじゃありませんが「業務の見直し」や「手続の簡素化・省略化」を行う余裕はなかったのです。

ベンダーさんにとっては、この頃までが「電子政府バブル」でした。

ところが、いざ運用を開始したら、まあびっくりするぐらい「使ってもらえない」ことがわかりました。利用率も0.01%とかで、これは「誤差」ではないかと笑い話にもされました。税金を使われる国民から見れば、決して「笑いごと」では済まされないのですが。。

その後、「添付書類の省略」「税控除・割引」「処理時間の短縮」などを実施することで、少しずつ利用を増やしていきましたが、「業務の見直し」や「手続の簡素化・省略化」については各省庁に任せていることもあり、あまり進んでいません。

そのため、「電子政府バブル」期に作られたオンライン申請システムで、利用率が10%を超えるものはほとんどありません。

(4)費用の総額はいくらなのか?

費用の総額については、情報が公開されていないため、わかりません。

しかし、公開されている情報から、大体の総額を推測することができます。

関連ブログ>>電子申請システムのコスト、本当はもっと高い

平成19 年度における行政機関に係るオンライン申請等手続システムの利用状況等調査の結果(PDF)によると、

文部科学省オンライン申請システム

整備経費:11億7,886万1,000円
年間運用経費:1億900万5,000円
申請1件当たりの経費:94万7,870円(年間運用経費/年間オンライン申請件数)

となっています。

経費の総額を「整備経費(平成15年度末まで)+年間運用経費×5年間(16-20年度)」と考えると、約17億2,300万円が、今年度末までにかかった費用の総額となります。

また、申請1件当たりの経費は、減価償却費を含めると約300万円となります。

なお、「整備経費」と「運用経費」の定義は下記の通りですが、計算方法は開示されていません。

○整備経費:当該システムの稼働までに要した経費
○運用経費:現に設置しているオンライン申請等手続システム自体や周辺機器を運用するために必要な経費

参考資料>>行政機関に係るオンライン申請等手続システムの利用状況等について(座長提出)

同様に、防衛省申請届出等システムを見てみると

整備経費:3億8,626万1,000円 
年間運用経費:3,691万8,000円 
申請1件当たりの経費:922万9,500円(年間運用経費/年間オンライン申請件数)
減価償却費を含む1件当たりの経費:約2,800万円
費用の総額:5億7,000万円

となります。

※平成18年度の経費調査結果は、平成19年度 電子政府評価委員会報告書(PDF)の52ページ以降に、巻末資料として付属しています。

このように、同じ「汎用受付等システム」でも、

文部科学省:約17億2,300万円
防衛省:5億7,000万円

と3倍以上の差があります。「汎用受付等システム」の費用は、

・ベンダーの開発力・生産能力
・省庁担当者(発注者)の力量
・適切な競争入札の有無
・開発された時期
・所管する手続数
・利用件数(想定および実績)

などで決まると思いますが、特に「所管する手続数」によるところが(建前としては)大きいでしょう。

(5)他にも、停止した方が良いオンライン申請システムがあるのではないか?

はい。こちらも全くその通りと思います。

来年度以降の電子政府評価委員会で議論される予定ですが、本ブログでも「停止した方が良いシステム」について触れていきたいと思います。

“オンライン申請システム停止の意義(2)、全部でいくら税金を使ったのか?” に14件のコメントがあります

  1. 新たな税金の投入?
    総務省サイトに、
    http://www.soumu.go.jp/s-news/2008/081215_3.html
    ○ 新しい住基カードの発行
      新たに住基カードのICチップに券面事項を記録することとし、その情報を活用することにより、本人確認機能が強化される新しい住基カードを平成21年4月下旬目途から全市区町村において順次発行予定。
    ————————————–

     本人確認機能が強化される、とのことだが。
     ほんと分かりにくいな。

  2. 偽造防止措置は必要
    イエモリさん、こんばんは。
    情報提供ありがとうございます。

    住基カードの券面偽造は、実際の被害を生み出してますから、共通ロゴによる偽造防止措置(どの程度の効果があるか公開資料だけではわかりませんが)は悪くないと思います。

    住基カードの全国の交付累計枚数 約277万枚(平成20年10月31日現在)
    とありますが、現在有効なものが何枚あるのか知りたいですね。

    また、住基カード無料交付団体数が329団体(平成20年12月1日現在) もあることを考えると、住基ネットや住基カードの費用についても公開して欲しいものです。維持費だけで、年間500億円ぐらいかな。

  3. 「ICチップに券面事項を記録する」の意味
    >ICチップに券面事項を記録する

     とあるので、これは既存の公的個人認証サービスの電子証明書とは別件の事項を「ICチップに券面事項を記録する」することなのでしょうかね。?

     券面事項でのプラスティック表面は、誰もがみることができるので、これがICチップに券面事項を記録されているのも、特定ソフトにて誰もが観ることができようにする、ってことでしょうか?

     よく解りません。運営経費が今後も増加するようになるんでしょうね。

  4. ヒアリングがあってたようで
    新住基カードは大丈夫なのですかね。今の在庫はどうなるの?

    さて、先月末 ヒアリングがあってますが、以下、司法書士の資料ですが、むたさん どうでしたか?

    http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/densihyouka/kaisai_h20/dai5/siryou2.pdf

    社会保険ほどひどくないが、電子申告ほど多くもない。登記オンライン、止めてしまうのは至難の業でしょうが、止めないなら、改良で、目標に近づけていくしかない。

    しかし、恐慌になるかもしれんという厳しい現実。優先順位の付け方に悩むところでしょう。

  5. 全く関係ない話
    南の方で、同じ日に、両書士業の職域拡大に関する意見書が採択されております。

    http://www.pref.oita.jp/21000/kaketsu/kaketu20-4.html
    可決された議案(議員提出)

    ・ 行政書士等にADRに関する手続代理権の付与を求める意見書
    ・ 商業・法人登記手続代理の行政書士への開放を求める意見書
    ・ 司法書士の法律相談権の確立を求める意見書
    ・ 司法書士に家事事件及び民事執行事件の代理権の付与を求める意見書

    関係ない話のままで終わるのもいかんと思いつつ、すぐネタが出てきませんので、あしからず。

  6. たぶんむたさんだと思いますが
    「ヒアリングは時間が足りない・・・ (sago)」」の投稿者はむたさんだと思いますが、なぜかsago 私になってますねえ。

    ま いいとして、いや、するどいご指摘です。
    登記申請のオンライン化から、頭が離れないので、斬新なものは出てきませんねえ。一応、不動産のオンライン取引を研究する部署はあるようですが。

    かくいう私もアイデアはありませんが、来年度から導入されるであろう、表示(表題)登記をオンラインでやったあとの保存登記減税。
    http://arai.xrea.jp/asobi39/bbs/wforum.cgi?mode=allread&no=2726&page=0

    調査士さんたちの間で話題になってるようですが、まあ、ワンストップモデルは後回しにするとしても、表題登記をオンラインでやった調査士さんが、保存登記申請をオンラインでやっても、無報酬なら反復継続しても司法書士法違反に問わないという通達一本出せば、国民は少し安上がりになるわけです。
    少しは出血サービスするような提案をすれば、業界エゴと取られないで済むのですがね。

  7. ヒアリングは時間が足りない・・・
    すみません、sagoさん。削除して再投稿しました。

    士業の方々のヒアリングは、利用者代表ということもあり、終始なごやかな雰囲気で進められたと思います。各士業でプレゼンの上手さにも差がありますね。

    司法書士さんの主張は、わからなくは無いのですが、やはり「依頼者である国民にどのようなメリットがあるのか」の部分が弱いように感じました。

    また、司法書士が企画・設計から関与してシステム開発を行ったとして、「どれだけの司法書士が果たして利用してくれるようになるのか」といった担保や根拠が弱いとも思います。

    私がお願いしたのは、
    ・「不動産登記」ではなく「不動産取引」の電子商取引という視点を持って欲しいこと
    ・オンライン化を実現することで、現行の制度より「安心・安全」が高まり、国民(弱い立場にある住宅購入者など)の権利が守られる制度を提案して欲しい
    ということです。

    司法書士は、「双方代理」という法的にも特殊な位置づけなわけですから、オンライン化することで、司法書士による不正行為がより実行し難くなるような仕組みを提案していけば、説得力も増すと思います。

  8. 自民登記オンラインPTはまだかな。
    むたさん どうも。

    さて自民党の登記オンラインプロジェクトが近く開催されるという風の噂もありましたが、年内はないのかな。

    年明けに、オンライン利用速報値が出てからやるのですかね。

    で、
    http://www.jimin.jp/jimin/kaigi/index.html

    ◆政調、法務部会・司法制度調査会合同会議
     午前11時 本部510室
     平成21年度法務・司法関係予算財務原案内示状況及び復活重点事項について

    とりあえず、ここらで関連で出るのですかね。

    まあ12月はひょっとしたら月間10パーセントを達成するかもしれませんが、またぞろシステムトラブルもあってますので、さて、25日あたりまた危ないのではないかな。

    まあ 士業もヒアリングもいいですが、現場最前線の職員さんのヒアリングもお忘れなく。なにかと本音もいいにくいのでしょうけどね。労組の代表あたりを呼べば、それなりに現状把握できるでしょう。利用率の高い登記所は残業が増えてるのじゃないですかね。

  9. かさばってキャビネットが直ぐ満杯?
    ちょい面白いバブコメがありましたので、参考までに。

     http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=300080049&OBJCD=&GROUP=
     意見募集中案件名「商業登記規則等の一部を改正する省令案」に対する意見募集

     http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1030&btnDownload=yes&hdnSeqno=0000046565
     概要

    1,登記すべき事項を電磁的記録にてFD等媒体にて提出するが、このFDの保管にほとほと弱りかねたというところです。オンライン登記では、こうにはならないが、FD提出をされると、保管場所に困っていたのでありましょう。
     で、印刷した書面にて保管するように省令改正する。紙媒体であればFD等と比較すれば確かにかさばらないし。

    2.やっとCD-Rも利用可とするものです。今どきのパソコンには、フロッピーディスクドライブが無いし。
    昨年の電子政府推進フェアーだったか、登記所認証局発行電子証明書を解説するブースで、FDドライブの無いパソコンもあるんでこのFD限定は困ると伝えると、対応する担当者が。

    「外付けのドライブにて、やってください。」と解説するので、「それじゃ、新規に購入しろということか?」と重ねて問うと。

    「会社の倉庫あたりにあるでしょう。外付け用のFDドライブがありますよ。」
    と、とんちんかんな回答してくれていました。

    なにはともあれ、改善することにしたようです。

  10. FD申請の功罪
    sagoさん、イエモリさん、こんにちは。
    コメントありがとうございます。

    オンライン登記申請は、月別では10%以上のようですから、年度でも達成できるかもしれませんね。

    イエモリさんご紹介のパブコメも、面白いですね。
    社会保険庁のFD申請にも、同様の問題が発生しますし。

    行き当たりばったりで進めているFD申請は、今後の取り扱いに苦慮するでしょう。

  11. FDを返してくれるところもあります
    おかしいですねえ、FDは返してくれるものと思ってましたが、保管するようになってたのか。
    CDなら薄いけど、ケースにいれずに保管するのかな?ああ印刷するだけか。

    えーと むたさん 10パーセントは、統計情報ではまだ
    達成された月はありません。商業法人と合算するといってるかな。

    12月はチャンスなのでしょう。
    http://shinsei.moj.go.jp/new/new_top.html
    【重要】JRE6 update7に関する脆弱性について(平成20年12月5日)
    と早くからアナウンスしてるのですが、バージョンアップの指示がありません。まあ、問題なく動くはずなのですが、この追い込み時期に入れ換えさせて、ペースダウンするのが怖いのでしょう。

  12. まだまだ続く泥濘JRE問題
    sagoさんの、
    >あ、問題なく動くはずなのですが、この追い込み時期に入れ換えさせて、ペースダウンするのが怖いのでしょう。

     例のマイドキュメントに新規のフォルダーを作成できない不具合が、新JRE6update11ではき正常に対応しているのかどうか?
     法務省としては、これがjavaのバグだと断定していますから、万一にもバグが改善されていない新バージョンを使用するわけにもいかず、、、。(汗)

     

  13. JREのバグだ、と法務省断定のところ

    sagoさんの、
    >イエモリさん そういうバグが残っていましたか。

     以下のお知らせのままです。改善されていません。また、JRE新バージョンになって改善されたのかどうか。未だ分かりません。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    【お知らせ】JRE 6 update 7に存在するバグについて(平成20年10月17日)

     平成20年10月20日(月)から法務省オンライン申請システム(以下「当システム」という。)を利用するためにインストールしていただくJava Runtime Environment(JRE)6 update 7に存在するバグのため、当システムをご利用の際に特定の場面において,以下の制約事項が発生することが確認されていますのでご承知願います。

     ファイル・フォルダの選択ダイアログ(例:「作成する手続様式を保存するフォルダを選択してください」というダイアログ等)が表示される場面において
     (1) ダイアログ上から、マイドキュメントにフォルダを新規作成することができない。
     (2) ダイアログ上から、マイドキュメント以外に新しくフォルダを作成した場合に、ダイアログ上か
       らは直接フォルダ名の修正ができない。

コメントは停止中です。