電子政府サービスにおける開発手法のあり方(4):最適な開発手法の選択は、「サービス」を育てる発想で

電子政府サービスにおける開発手法のあり方(3):プロトタイプモデルによる電子政府サービスの作り方の続きです。本シリーズの最終回として、「より良い電子政府サービス」を実現するために、どのような開発手法を選べば良いかについて考えてみたいと思います。

電子政府サービスにおける開発手法のあり方(2)で、電子政府における開発手法を

1 ウォーターフォール型
2 反復型(アジャイルソフトウェア開発)
3 プロトタイプモデル(スパイラルモデル)
4 パッケージ導入
5 レンタルモデル(ASP、民間サービス活用)

と整理しました。

●利用者とコミュニケーションしやすい開発手法を選ぶ

結論から言えば、

大規模なシステム開発を伴うものや、サービスとして未成熟なものについては、「プロトタイプモデル」を採用し、それ以外は「パッケージ導入」や「レンタルモデル」へ移行するのが良いでしょう。

電子政府サービスが成功する要素として、「できる限り早い段階での国民を含めた利用者参加」が有効とされています。

「プロトタイプモデル」を勧める一番の理由は、前回解説したように「利用者とのコミュニケーション」が活発に行われるからです。

●開発で「システム」は作れるが、「サービス」は作れない

以前、全体の流れの中で「開発」を考えるとして、

1 企画:マーケット調査、市民参加など
2 開発:適切な開発手法の選択
3 運用(保守):第三者評価、監査、利用者フィードバックの継続など

と整理しました。

電子政府を「システム」として考えた場合、「開発」が一つの到達点であり、完成形となります。

法律上も、システム開発の多くは「請負契約」であり、モノが完成しないとお金がもらえません。

しかし、実際の電子政府は「システム」ではなく「サービス」なので、「開発」が終わった時点では、まだ未完成なのです。言ってみれば「赤ちゃん」のようなものです。

ですから、生まれたばかりの電子政府サービスが、成長して立派な大人になるためには、「開発」よりも、むしろ「運用(保守)」が重要なのです。

ところが、現在の電子政府サービスは、「開発」が終わった時点で「大人」として世に出されてしまいます。立派な大人であれば良いのですが、「企画(教育方針)」が間違っていたせいなのか、色々と問題の多い大人だったりします。しかも、大人だけに柔軟性に欠けており、後から修正するのはとっても大変です。

そこで活用したいのが「パッケージ導入」や「レンタルモデル」です。

つまり、「開発」にかける費用や時間を最小限にして、余った資源を「企画」や「運用(保守)」に振り分けるということです。

例えば、現在の「企画:開発:運用」の比率が、2:5:3だとすれば、3:2:5や3:1:6に変えてみます。

これだけでも、より良い電子政府サービスに近づくことができるでしょう。

●パッケージやASPの選び方

「パッケージ導入」や「レンタルモデル」を採用したとして、どうやってパッケージやASPを選べば良いのでしょうか。

「レンタルモデル」で民間サービス(ヤフーなど)を活用する場合は、今のところ、それほど選択肢は多くないので、あまり困ることはないでしょう。より多くの国民にとって馴染みのあるサービスを選べば良いのですから。

もちろん、あまり依存し過ぎないようにする配慮は必要です。

関連>>国の行政機関における情報システム関係業務の外注実施ガイドライン共同アウトソーシング導入の手引き公共ITにおけるアウトソーシングに関するガイドライン(PDF)情報システムに係る政府調達へのSLA導入ガイドライン(PDF)ASP・SaaSの普及促進策に関する報告書

例えば、電子申請サービスを「パッケージ導入」や「レンタルモデル」で実現しようとした場合、選択の基準としたいのが次の3点です。

1 実績
2 将来性
3 拡張性(柔軟性)

★実績

パッケージやASPの導入は、極端なカスタマイズをしない限りは、業務フローの見直しを意味します。他の類似する自治体での「実績」は、業務改善に役立ったことの一つの証しとなります。

★将来性

「将来性」は、具体的に言うと「業務・システムの最適化(EA:エンタープライズ・アーキテクチャ)」と「データ標準化」への対応の有無です。

現在、国や自治体で進められている「業務・システムの最適化」は、政府の業務とそれを支援する情報システムについて「全体設計図」を描き、合理化・効率化をしていきましょうというものです。

ですから、できれば「全体設計図」と整合性のある(持たせることができる)パッケージやASPを選び、「全体設計図」に反するパッケージやASPを導入する場合は、過渡的なものとして考える必要があります。

「データ標準化」については、次の「拡張性(柔軟性)」にも関係します。データ標準化が進んでいれば、見た目や操作性について各サービスで独自の工夫ができるようになります。

★拡張性(柔軟性)

拡張性(柔軟性)は、
・フィードバック(利用者からの意見や要望、更にはそれらを踏まえた修正)が迅速に行えること
・ユーザーインタフェース(操作性、画面デザインなど)に選択肢があること
を意味します。

基本的にはカスタマイズをしない「パッケージ導入」や「レンタルモデル」ですが、だからこそ修正や改善が迅速に行われる必要があります。

ある程度洗練されたパッケージやASPを導入しても、電子政府サービスとしては、まだまだ「成長途中の子供」に過ぎないからです。

そこで、
・定期的なバージョンアップがある
・細かな修正は適宜行われる
・見た目や操作性について選択肢がある(取替え、付替えが可能)

といったことが大切になります。

選択肢には、民間サービスに見られるようなPDF(入力支援等に有効)やフラッシュ(わかりやすい説明、操作性の向上等に有効)などがあると良いでしょう。

関連>>オリックスVIPローンカード(ナビゲーター付き申込みを参照)

ちなみに、本ブログも各種テンプレート等が用意されていて、見た目の自由な着替えが可能です。フラッシュ版も用意されており、一定のカスタマイズも可能になっています。もちろん、追加料金は発生しません。

今後の電子申請パッケージやASPにも、同様の機能が求められるでしょう。

●一つの成功は、次の学びへのスタート

本シリーズで伝えたいことは、「どの開発モデルを選べば良いか」ではありません。

・困難な状況下において、限られた資源を有効に活用していく
・利用者(関係者)と共に、電子政府サービスを育てていく

ことの大切さを伝え、実行していくためのヒントを提示するものです。

電子政府サービスに成功の近道は無く、地道な不断の努力だけが実現してくれるものです。

人間が成人(肉体的な成長が完成)してからも、様々なことを学び(精神的に)成長していくように、電子政府サービスの一つの成功は、次の学びへのスタートでもあると理解しましょう。

●参考サイト(順不同)

情報システムに係る相互運用性フレームワーク(案)
日本政府の電子政府構築及び情報システム調達(設計・開発・移行・運用・保守)方針を踏まえた、より実践的な指針の案。情報システムにおける相互運用性を学べます。2007年5月30日まで意見募集。

システムの使い勝手を評価するふたつの方法(三菱総研)
企業内の情報システムの操作性等の評価方法について解説しています。

SaaSはアプリケーションを使いやすくし世界を変える(ITpro)
最近のトレンド「SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)」について、将来の展望を予測。

SaaSには迅速なカスタマイズと高いセキュリティ・操作性が求められる(ITpro)
カスタマイズの容易さ、セキュリティと操作性の高さが重要と。

浦添市が基幹系システムの開発パートナーを決定(ITpro)
「開発」の負担を減らす選択肢として、行政が開発にかかる業務ノウハウの提供等を行い費用負担しないケース。EA手法で業務・システムの分析を行い、現行システムや既存パッケージでは課題を解決できないと。

国税庁、ヤフーオークションで「インターネット公売」を6月に実施(Japan.internet.com)
「レンタルモデル」で民間サービスを活用する事例。フロント部分は開発しない、システムを持たない。必要に応じて、民間サービスを利用するという事例は今後増えてくるでしょう。

地方自治体業務・システム最適化には法制度の見直しが必要(Japan.internet.com)
現行法制度を前提とした業務・システム最適化の取り組みでは、業務改善に限界がある。情報システムを考慮した法制度の見直しが必要と。

品質管理計画--プロジェクト全体を通じた品質基準や方針を策定する(ITpro)
ウォーターフォール型開発における欠陥除去工程、欠陥除去活動と開発コストの傾向等を図示。第3者による「公式レビュー」の重要性を指摘。稼働開始基準(Service-in Criteria)についても解説しています。

EAで変化を柔軟に乗り越える 様子見は禁物、まずは取りかかれ(ITpro)
EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)の提唱者が、着手することの重要性を力説。電子政府サービスを実現する際にも、政府の「業務・システム最適化計画」の内容だけでなく、改定されること(完全ではないこと)を視野に入れておきましょう。

情報システムを米国から“借りる”郵便局 (NBonline)
日本郵政公社の民営化(郵便局会社)に伴うSaaS利用について。米セールスフォース・ドットコムのソフトウエアをネットワーク経由で借りて、顧客情報管理を行うと。情報システム変えることで、仕事と人の意識も変えるという方法は検討の余地がありますね。

データ・センター:場所貸しから脱しユーティリティ型サービス続々(ITpro)
必要な分だけオンデマンドで利用できるサービスが主流に。アクセスの急増や繁忙期に対応しつつ、ピーク時の処理量に合わせたシステム・リソースを抱える必要が無くなると。電子政府でも、確定申告や年度報告書等の提出、職員採用や各種認定・資格試験(独立行政法人等)で活用できますね。