電子政府におけるICカードとPKIの市場(7):ビジネスモデルの転換が必要な「電子証明書」

電子政府におけるICカードとPKIの市場(6):まだまだ高価なICカード、導入は慎重に」の続きです。今回は予定を変更して、「電子証明書」の新たなビジネスモデルを考えてみたいと思います。

●ビジネスモデルの転換が必要な「電子証明書」

これまで述べてきたように、電子政府においては、順調に枚数を増やす「ICカード」に対して、なかなか導入が進まず、導入されても発行枚数を増やすことが難しい「電子証明書」という図式になっています。

「ICカード」と「電子証明書」、どちらも「費用対効果」や「使い勝手」の点で未成熟と思いますが、その傾向は「電子証明書」の方が強いと言えるでしょう。そのことが、現在の導入・利用実績に反映されているのだと思います。

PKIの「電子証明書」や「電子認証・署名」の普及を目指すのであれば、現在のような「枚数主義」から脱却して、新たなビジネスモデルを考える必要があるでしょう。

つまり、「国民一人一人が電子証明書を保有して、電子署名をする」といった発想やビジネス(サービス)モデルには無理があるということです。

●強制か切替がないと発行枚数の増加は難しい・・・

以前、ICカードや電子証明書の発行枚数を決める2大要素として、

1 強制(取得、携帯等の義務化)
2 切替(新規、更新等で旧カードと交代)

を挙げました。電子証明書を格納した公共ICカードで、発行枚数の実績を伴う海外の成功例では、必ずこの2大要素(のどちらか)が含まれています。

日本の住基カードや公的個人認証サービスは、任意の取得で「強制」がありません。

その中で、住基カードの発行枚数を増やしているのは、既存の印鑑登録カードや市民カード(証明書の自動交付など)等を住基カードに「切替」している自治体です。

発行枚数と利用実績がある電子入札用の電子証明書(ICカードに格納)は、「電子証明書がなければ入札に参加できない」という実質的な「強制」が働いています。

ところが、電子証明書の制度や性質上、電子証明書を格納したICカードの発行手続は、利用者にとっても発行する側にとっても、非常に面倒で負担が大きいため、「できれば電子証明書を格納しないカードにしたい」というのが本音なのです。

つまり、「強制」や「切替」があったとしても、電子証明書の発行枚数を増やすことは難しく、単なるICカードの発行に比べると費用負担が大きく、社会から受け入れられにくいのです。

●安易な電子署名の利用は、国民にとって不利益が多い

まず、使い勝手に難がある「電子署名」の利用を、国民に押し付ける方法は改める必要があります。

そもそも「電子署名」に過大な期待をするのは得策ではありません。

1 住基カードや公的個人認証サービスの電子証明書を他人に成りすまして取得することは可能
2 「住基カード&公的個人認証サービス」を悪用されても、政府は何の保障もしてくれない
3 国民の多くが電子署名に関する知識を持ち合わせておらず、リスクを理解していない
4 紙文書への署名・押印と異なり、自分が何に電子署名しているのかわかりづらい

このような状況で、安易に「電子署名」の利用を推奨することは、国民にとっては非常に危険なことです。

今後、公的個人認証サービスの用途を行政手続だけでなく、民間取引等に拡大することになれば、危険性は更に高まります。

上記のような状況が改善されないうちは、既に一定の発行枚数や利用実績がある「電子入札用の電子証明書」や「士業用の電子証明書」のように、利用対象者を専門家や特定の企業としたり、電子署名の用途を限定するといった形が望ましいでしょう。

そして、一般の国民については、ある程度の「認証」を行った上で、利用や行動の履歴を安全な方法で記録・保存しておき、必要に応じて本人が閲覧・承認・修正請求等できるようにして、「電子署名」を使わずに各種電子政府サービス(電子申請を含む)を利用できるようにすれば良いでしょう。

この点については、次回で詳しく述べたいと思います。

●発行枚数以外の収入源を

さて、話しを「電子証明書」の新たなビジネスモデルに戻しましょう。

例えば、銀行のキャッシュカード。サービスの一環として、通常は無料で発行されます。

クレジットカードの場合、入会金や年会費等の徴収もありますが、実際に利用してもらわないとクレジット会社の収入にはなりません。

電子証明書は、どうでしょうか。

基本的には、一枚の発行につき「いくら」となっています。

例えば、電子入札用の電子証明書(ICカードに格納)を見ると

・有効期間2年もので2万5千円~3万円
・別途、ICカードリーダが1万円前後

となっており、利用者が負担する初期費用が、4万円ぐらいかかります。

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これが、ICカードリーダのレンタル料込みで月2~3千円の会費制だったら、ちょっと印象が変わってくるかもしれません。

例えば、

1 発行は低価格(入会金)または無料とする
2 サポート料金として月・年会費を徴収する
3 サポート内容によって会員(会費)レベルを分ける
4 国や自治体等と協定を結び、利用ごとに課金する

といった方策が考えられます。

電子申請等の利用数を増やしたい政府から、利用ごとに課金することは、販促費用や一種のアウトソーシングとして理解すれば良いでしょう。

課金制度を確保しておけば、電子証明書の発行費用(利用者負担)を低く抑えることができます。

サポート内容は、
・24時間対応、平日の営業時間内、メールのみ
・電子入札のみ、電子申告や電子申請もサポート
・初期設定サービス

などが考えられるでしょうか。

パソコン等の初期設定は、実際、士業の方がお客さんにサービスでやっているケースがありますね。

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認証局の構築といった裏方のPKIビジネスは別として、エンドユーザー向けに電子証明書を発行するPKIビジネスの生き残りは、今後ますます厳しくなると予想されます。

生き残り策のヒントとして、「枚数主義からの脱却」と「パートナーの選択」を考えてみましょう

次回は、今後こそ?シリーズの最終回として、電子証明書を活用した電子政府の新しいサービスモデルを提案・・・できるかなあ

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