電子政府における「責任の所在」:失敗は誰の責任か?

日本の電子政府、特に「電子申請」と言われる分野では、利用率の低迷などから「責任の所在」について議論されることがあります。「利用率50%に達しなかったら、責任は誰が取るんだ?」とか、「システム障害が起きたが、この責任はどう取るつもりなのか?」といったように。。良い機会ですから、電子政府における「責任の所在」について考えてみましょう。

電子政府の成功要因として「利害関係者における責任と役割の明確化」が挙げられます。

これは、
・電子政府に関する施策が実行される前の
・準備段階(組織・体制の整備など)において
・成果目標を明らかにして
・各関係者の「責任範囲」や「期待される役割」について
・明確にして(文書化して)おきましょう。

ということです。

施策がうまく行かなかった(目標を達成できなかった)時には、こうした事前の準備があって、初めて関係者の責任を追及できるわけです。

ところが、これまでの電子政府の施策では、成果目標も曖昧で、事前準備も不十分でした。

ですから、住基カードにしても公的個人認証サービスにしても、今になって「責任者は誰なのか」と追求してみても、「いったい誰が悪いのかよくわからない」わけです。

そんな状況で「責任の所在」を追求し過ぎると、責任の擦り付け合いが始まり、弱い立場の人が犯人に仕立て挙げられてしまうかもしれません。

●「犯人探し」では、電子政府は良くならない

電子政府を取り巻く「利害関係者」はたくさんいますから、「電子申請が使われない」という結果について、一人(一組織)に対して全ての責任を追及するのは良くありません。

・行政(管理部門、情報部門、現場部門等)
・ベンダー
・国民(個人、企業、団体)
・議会(政治家)
・メディア(新聞、テレビ、雑誌など)

といった利害関係者が、各々の役割分担に応じた責任があるからです。

もちろん、直接の執行者・実施者である「行政」や「ベンダー」の責任は重大です。

しかし、「行政」や「ベンダー」だけを責めても、多少の気分は晴れるかもしれませんが、電子政府は良くならないのです。

●責任の種類と範囲

情報システムの分野では、責任の種類を

・管理責任
・説明責任
・結果責任

などに分類しています。これを大分類としましょう。

「管理責任」と言うと、行政やベンダーだけが負うようですが、国民にも「利用規約等を遵守する」といった責任があります。

「説明責任」は、行政が中心となりますが、メディアが期待される役割も大きいでしょう。一部の悪いことばかりを報道して、実績を挙げている成果等を取り上げないのであれば、電子政府が失敗した場合の責任はメディアも負うことになります。

「利用率が低迷して、目標に達しない」といった結果についても、行政だけが負うわけではなく、無理な目標を要求した政治家や無関心だった国民も責任の一端を担うわけです。

大分類に続く中分類としては、

・刑事責任
・民事責任(契約責任、不法行為責任など)
・政治責任
・社会的、道義的な責任

などがあります。

●責任の取り方、有効なのは「説明」と「改善策の提示・実行」

では、どうやって責任を取れば良いのでしょうか。

責任の取り方としては、大きく分けると二つあります。

・金銭で解決する(賠償金等の支払い、予算措置の停止など)
・行動や態度で示す(謝罪、懲戒処分、辞職、服役など)

電子政府の施策が結果としては失敗と言える状況であっても、刑事責任や民事責任があるケースは少なく、その多くが「政治責任」や「社会的、道義的な責任」のレベルです。

ですから、責任の取り方として、まずは謝罪などが考えられますが、公務員や政治家が公式な立場で謝罪することは、あまり期待できないでしょう。

法的な責任が認められない場合、「より良い電子政府・電子申請」を実現するという観点で、作者がオススメする責任の取り方は、「説明」と「改善策の提示・実行」です。

「説明」は、事実の調査と分析を踏まえた結果について、謝罪のニュアンスを含めた形(結果を厳粛に受け止める等)で公表します。

次に、今後の対応として改善策を提示して、議会や諮問機関等(評価委員会など)から承認をもらいます。

承認をもらったら、後は愚直に実行するのみです。

大臣等の政治的な責任を追及し、関連行政庁に対して圧力をかけることも、場合によっては有効かもしれません。

しかし、そうした政治的な手法は、マイナス効果をもたらすことも多く、「100%の手続を電子化する」「利用率50%を達成する」といった極端な方向に走ってしまい、結果として「より良い電子政府・電子申請」の障害となってしまうことがあります。

誠実かつ地道に一歩ずつ。これこそが、「より良い電子政府・電子申請」の近道でございます

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