「認証」の意味を考える(1):日本語としての「認証」

電子政府における個人や企業の「認証」について考えるとき、「認証」という言葉が複数の意味で使われるため、しばしば話が混乱してしまうことがあります。作者自身の勉強にもなるので、今一度「認証」の意味を整理してみたいと思います。

●日本語としての「認証」

まずは、日本語として「認証」がどのような意味を持ち、どのような場面で使われるのか確認しておきましょう。

goo 辞書の国語辞典・新語辞典によると、

【認証(する):にんしょう】

『一定の行為や文書の作成が正当な手続きによってなされたことを、定められた公の機関が証明すること。』

と定義されています。

誰が:定められた公の機関が
何を:一定の行為や文書の作成が正当な手続きによってなされたことを
どうする:証明する

このように、本来、日本語の「認証」には、本人識別・本人確認といった意味はありません。

また、「正当な手続きによってなされたこと」を重視しており、行為や文書の真実性(内容が真実に基づいているか)については、必ずしも考慮されるわけではありません。

もちろん、「正当な手続き」の中に「本人(の意思に基づくもの)であることを確認する」や「真実性を確認する」が含まれている場合は、本人確認としての効果や一定の真実性が担保されることになります。

●法律用語としての「認証」

法律用語としての「認証」も、国語辞典とほぼ同様と考えて良いでしょう。

有斐閣の法律用語辞典では、

『一定の行為または文書の成立あるいは記載が、正当な手続によってなされたことを、公の機関が確認、証明すること。』

と定義されています。

例えば、『会社法』の第三十条(定款の認証)に、

第二十六条第一項の定款は、公証人の「認証」を受けなければ、その効力を生じない。

とあります。この場合の「認証」は、定款という文書に対するもので

公証人が
定款の作成が正当な手続きによってなされたことを
(確認して)証明する

ということです。

『電気通信事業法』の第五十六条(端末機器の設計についての認証)では、

登録認定機関は、端末機器を取り扱うことを業とする者から求めがあつた場合には、その端末機器を、第五十二条第一項の総務省令で定める技術基準に適合するものとして、その設計(当該設計に合致することの確認の方法を含む。)について認証(以下「設計認証」という。)する。

とあります。

認証されるのは、端末機器という物ではなく、その設計(文書)となっているのですね。

もう一つ忘れてはならないのが、『日本国憲法』の第七条です。

天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
五  国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
六  大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
八  批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。

天皇陛下の国事行為として、三つも「認証」があるのですね。五と八は文書ですが、六は行為に対する認証となっています。

※実際には、『天皇の認証は、事実の存在に対する認識の表明』と解されています。

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●認証に付加する行為:儀式・証書・保存

では、「認証」は、どうやって(How)なされるのでしょうか。

先の例を具体的にイメージしたり体験するとわかりますが、「認証」には、お決まりの行為がセットになっています。

それが、儀式、証書の発行、記録・保存などです。

認証は、「定められた公の機関」が行います。つまり、「それなりに偉い人」が認証するわけです。しかし、認証の対象となる行為や文書について、実質的な審査や確認をするのは、「それなりに偉い人」ではなくて、もっと下っ端の人たちです。

ですから、いよいよ「それなりに偉い人」が認証する場面では、厳かな雰囲気で調印したり、宣言したり、証書を手渡したりといった「儀式」を行うことが多いのです。

「儀式」は省略されることがありますが、「認証されたこと」を証明するものとして発行される証書(証明書、認定書、謄本など)は、省略されることはまずありません。

この証書をもらうために、わざわざ面倒な「認証」を受けていると言っても良いでしょう。

そして、「認証されたこと」が後で確認できるように、原則として認証した「定められた公の機関」の側で、その内容の記録・保存が行われます。

記録・保存しておくことで、証書の再発行等ができるようになります。

次回は、コンピュータ用語としての「認証」や、英語における「認証」について整理してみたいと思います。

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