「オーバーシュート」の意味から考える新型コロナ対策

世間では、緊急事態宣言による混乱が起きているようですが、私はもともとテレワークが主なので、今のところは平和な日々を過ごしています。なぜか映画「ちはやふる」のシリーズ3作を通して観たい気分になり、Huluに入会して、現在は「七つの大罪」をあと1週間で見なければいけない状況です。。

今回は、自分の頭の中の整理として、「オーバーシュート」の意味から、新型コロナ対策を考えてみたいと思います。正直、新型コロナに関連して「オーバーシュート」なる用語が出てきた時は、なんとなくわかったような、わからないような。。という感じでした。


(1)英語の「overshoot」の意味

「overshoot」の意味を英英辞典(Longman Dictionary of Contemporary English Online)で調べてみると、

1  to accidentally go a little further than you intended
例文:The plane overshot the runway and plunged into a ditch.

2  to spend more money than you had intended
例文:The school has overshot its cash limit.

となっており、意味としては「想定・意図していた線を超えてしまう(overする)こと」のようです。

1の例文にあるように、飛行機が決められた滑走路のラインを超えてしまう場合もあれば、2の例文にあるように、事前に決めておいた基準や制限を超えてしまう場合もあると。

この他に、割と有名な証券用語としての「オーバーシュート」があり、「相場や有価証券の価格の行き過ぎた変動のこと」の意味もあります。こちらも、いちおう「行き過ぎかどうかのライン」があるので、それを超えれば「オーバーシュート」になるのでしょう。

では、実際にどのような場合に「overshoot」が使われるのかと、英国放送協会(BBC)のサイトで「overshoot」を検索してみると、なんと新型コロナに関するニュースが全く出て来ないではありませんか。出てくるのは、飛行機の離陸とか予算の検討などのニュースばかり。。

そんなバカなと、米国のCNNで検索すると、マーケットや気候変動のニュースはあるものの、最近のニュースとして新型コロナ関連のニュースも出てきました。しかし、実際に記事を読むと、ある人のコメントの中にある「They always overshoot.」が繰り返し引用されているだけでした。

念のため、米国の疾病管理予防センター(CDC)のサイトでも「overshoot」を検索してみましたが、やはり新型コロナ関連の情報は出てきません。どうやら、新型コロナに関連するニュース等では「overshoot」は、ほとんど使われていないようです。


(2)日本語の「オーバーシュート」の意味

新型コロナに関する日本のニュース等で、初めて「オーバーシュート」と聞いた時に、なんとなく頭の中で「既存の医療体制で感染者に対応できなくなるライン」みたいなものがあり、そのラインを超えることが「オーバーシュート」なのかなと思いました。だから、感染者が急激に増えること(感染爆発)の意味で、「オーバーシュート」を使っているんだろうなと。

実際、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の提言の中でも、「オーバーシュート」について次のような説明があります。

オーバーシュート:

〇欧米で見られるように、爆発的な患者数の増加のことを指すが、2-3日で累積患者数が倍増する程度のスピードが継続して認められるものを指す。

〇異常なスピードでの患者数増加が見込まれるため、一定期間の不要不急の外出自粛や移動の制限(いわゆるロックダウンに類する措置)を含む速やかな対策を必要とする。

〇なお、3月21-30日までの10日間における東京都の確定日別患者数では、2.5日毎に倍増しているが、院内感染やリンクが追えている患者が多く含まれている状況にあり、これが一過性な傾向なのかを含め、継続的に注視していく必要がある。

つまり、基準としては「2-3日で累積患者数が倍増する程度のスピードが継続して認められるもの」があり、「2.5日毎に倍増している」という数字を基にして、感染者増加見込みのグラフを作ることができます。そのグラフの線よりも、緩やかな増加ペースであれば、線をオーバーしないので、「オーバーシュートではない」ということなのでしょう。幸いなことに、今の日本は、「2.5日毎に倍増」の状態は継続していないので、なんとか「オーバーシュートではない」を維持しているようです。


(3)疫学上の「overshoot」の意味

ところが、その後に疫学や感染症に関する情報に触れていくと、どうも「overshoot」には別の意味があるようです。それは、「パンデミックやアウトブレイクなど感染症の流行を収束させるまでの最適なライン」があり、そのラインを超えてしまうと「overshoot」なので、そのラインを超えないように「適度に干渉して制御する」のが良いということらしい。

流行の初期の成長段階は、感受性(susceptible:免疫が無く感染しやすい人)の減少を伴う、感染数の指数関数的増加があるのが通常なので、日々、感染者が増えていくことは想定の範囲内になります。現在の日本の状況ですね。

多くの感染者は、回復し退院し社会復帰を果たしますが、そうした免疫を持った人々が増えるほどに、感染者が増えるスピードは遅くなり、ある割合(新型コロナの場合は7割ぐらい?)に達すると、流行も終わると(集団免疫)。

インフルエンザの場合は季節性があるので、春の到来と共に流行も終わりますが、新型コロナの場合は、そうした効果はあまり期待できないようなので、「医療崩壊しないペースで、少しずつ感染者を増やして、できるだけ早期に回復してもらう」というのが現実的な解決策になりつつある印象です。まさに「長期戦」ですね。

「適度に干渉して制御する」手法としては、「ワクチン接種を最適レベルにする」がありますが、ワクチンが開発されていない現状では、今回の緊急事態宣言のように外出自粛を要請し、医療体制を補強することが有効でしょう。私が住む神奈川県でも緊急事態宣言が出されましたが、感染者でも「無症状・軽症(酸素投与不要)者」については、自宅・宿泊施設等で回復することが原則になっています。

今後、想定する以上のペースで感染者が増えていくと、「37.5度の熱が続く」や「なかなか咳が止まらない」程度の症状であれば、病院で検査されることもなく、自宅療養を指導されるケースが増えてくるかもしれません。

ニュースを見るときは、増加する感染者数と共に、少しずつですが確実に増えていく「退院者数(回復者数)」にも注目したいですね。


参考サイト

Longman Dictionary of Contemporary English Online
https://www.ldoceonline.com/

オーバーシュート|証券用語解説集|野村證券
https://www.nomura.co.jp/terms/japan/o/A02114.html

Exponential growth
https://en.wikipedia.org/wiki/Exponential_growth

British Broadcasting Corporation (BBC)
https://www.bbc.com/

CNN International
https://edition.cnn.com/

Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020 年4月1日)
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000617992.pdf

新型コロナウイルス感染症:国内の現在の状況について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html

Illustration of the “overshoot” effect
https://figshare.com/articles/Illustration_of_the_overshoot_effect_/6684440/1

Illustration of the concept of optimal control for multiple outbreaks
https://journals.plos.org/plosone/article/figures?id=10.1371/journal.pone.0036573

緊急事態宣言に係るお知らせ – 神奈川県ホームページ 2020年4月8日
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/bu4/covid19/20200407_emergency.html

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者血清中に含まれる抗ウイルス抗体の検出に成功
2020.03.09 先端医科学研究センター
https://www.yokohama-cu.ac.jp/amedrc/news/202003ryo_covid19.html