社会保障・税番号大綱案を読み解く(21)、罰則の強化よりも問題解決を目指した柔軟な対応を

社会保障・税番号大綱案を読み解く(20)、第三者機関への過度な期待は禁物の続きです。

今回は、罰則(P.50)について整理しましょう。罰則については、既存の関連法と比較すると理解しやすいと思います。

(1)公務員等を罰する規定

大綱では、「罰則」について次のように整理していますが、具体的な内容や刑の重さ等については、制度全体の在り方を踏まえて、これから検討していきます。また、罪を犯す意思(故意)がない場合は処罰されません。

行政機関、地方公共団体又は関係機関の職員等を主体とするもの
(1)行政機関の職員等が、正当な理由がないのに、「番号」の記録されているデータベースを提供した行為
(2)行政機関の職員等が、正当な理由がないのに、その業務に関して知り得た「番号」に係る個人情報を提供し、又は盗用した行為
(3)行政機関、地方公共団体又は関係機関の職員がその職権を濫用して、専らその職務の用以外の用に供する目的で、「番号」が記録されている文書、図画又は電磁的記録を収集した行為
(4)「番号」に係る個人情報の電子計算機処理等に関する秘密についての守秘義務に違反して電子計算機処理等に関する秘密を漏らした者

行政機関の職員等
行政機関・地方公共団体・関係機関の職員、受託業務の従事者など

盗用
自己又は第三者の利益のために不法に利用すること。「番号」を、「番号」に係る他の個人情報と併せずに提供する場合は除く。

「番号」に係る個人情報の電子計算機処理等に関する秘密についての守秘義務
行政機関、地方公共団体若しくは関係機関の職員等又は受託業務(再委託、再々委託等の場合を含む。以下同じ。)の従事者等は、職務に関して知り得た「番号」に係る個人情報の電子計算機処理等に関する秘密を漏らしてはならない。

★作者コメント
処罰の対象となる行為は、
1 正当な理由がない、「番号」の記録されているデータベースの提供
2 正当な理由がない、業務に関して知り得た「番号」に係る個人情報の提供・盗用
3 職権を濫用した不正目的の、「番号」記録物の収集
4 守秘義務に違反した情報システムに関する秘密の漏洩

基本的には、「番号」に関係がなくても処罰の対象になるような行為ばかりですが、既存の法律(行政機関個人情報保護法)に規定される罰則より重くすることを検討するようです。大綱を見る限りでは、「職員による興味本位での覗き見」は処罰の対象にならないようです。「正当な理由」の箇所を問題視する意見もありますが、既存の法令と同様の解釈をするのであれば、それほど問題はないと思います。

行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律
第五十三条
行政機関の職員若しくは職員であった者又は第六条第二項の受託業務に従事している者若しくは従事していた者が、正当な理由がないのに、個人の秘密に属する事項が記録された第二条第四項第一号に係る個人情報ファイル(その全部又は一部を複製し、又は加工したものを含む。)を提供したときは、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
第五十四条
前条に規定する者が、その業務に関して知り得た保有個人情報を自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で提供し、又は盗用したときは、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
第五十五条
行政機関の職員がその職権を濫用して、専らその職務の用以外の用に供する目的で個人の秘密に属する事項が記録された文書、図画又は電磁的記録を収集したときは、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

国家公務員法
第百条(秘密を守る義務)
職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする。

地方公務員法
第三十四条(秘密を守る義務)
職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする。

住民基本台帳法
第三十条の十七(役職員等の秘密保持義務等)
指定情報処理機関の役員若しくは職員(本人確認情報保護委員会の委員を含む。第三項において同じ。)又はこれらの職にあつた者は、本人確認情報処理事務等に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。
2  指定情報処理機関から第三十条の十一第一項の規定による通知に係る本人確認情報の電子計算機処理等(電子計算機処理又はせん孔業務その他の情報の入力のための準備作業若しくは磁気ディスクの保管をいう。以下同じ。)の委託を受けた者若しくはその役員若しくは職員又はこれらの者であつた者は、その委託された業務に関して知り得た本人確認情報に関する秘密又は本人確認情報の電子計算機処理等に関する秘密を漏らしてはならない。
3  本人確認情報処理事務等に従事する指定情報処理機関の役員及び職員は、刑法 (明治四十年法律第四十五号)その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす。

(2)民間にも適用される規定

行政機関の職員等以外も主体となり得るもの
※正当な理由に該当する範囲を、可能な限り番号法に記載する
(1)「番号」を取り扱う事業者等が、正当な理由がないのに、「番号」の記録されているデータベースを提供した行為
(2)「番号」を取り扱う事業者等が、正当な理由がないのに、その業務に関して知り得た「番号」に係る個人情報を提供し、又は盗用した行為
(3)詐欺等行為又は管理侵害行為により、「番号」に係る個人情報を取得した者
(4)法令に基づき「番号」を取り扱い得る事業者が保有する「番号」に係る個人情報の記録されているデータベース等に虚偽の記録をした者
(5)第三者機関(委員会)に求められた報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は立入検査を拒むなどし、若しくは質問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をした者
(6)委員会の命令(勧告に係る措置等をとるべきこと)に違反した者

「番号」を取り扱う事業者等
「番号」を取り扱う事業者若しくはその従業者等又は受託業務の従事者等

従業者
出向者、親子会社において親会社が一体的に人事管理等を行っている子会社の従業者又は退職者等を含む。

管理侵害行為
不正アクセス行為その他の保有者の管理を害する行為

正当な理由に該当する場合の例
・「番号」に係る個人情報を取り扱う委託を受けた者に対して提供するとき
・従業者の人事管理・福利厚生のために必要で、第三者への提供につき当該従業者の同意があるとき
・法令に基づき「番号」を取り扱い得る事業者の事業が、合併、分社化、営業譲渡等により承継されるに際し、「番号」の記録されているデータベースを移転するとき
・法令に基づき提供するとき

★作者コメント
処罰の対象となる行為は、
1 正当な理由がない、「番号」の記録されているデータベースの提供
2 正当な理由がない、業務に関して知り得た「番号」に係る個人情報の提供・盗用
3 不正行為による「番号」に係る個人情報の取得
4 「番号」に係る個人情報データベース等への虚偽記録
5 第三者機関への対応義務違反
6 第三者機関からの命令違反

行政機関と比べて「正当な理由」が曖昧になりやすいので、正当な理由に該当する場合を例示しています。罰則内容については、個人情報の保護に関する法律住民基本台帳法(住民票コード)などを参考にしているようです。番号制度では、「番号」を含む個人情報データベースが民間で構築されることは避けられません。初めから厳しい規定を作るよりは、制度が運用される中で、必要に応じて修正・追加等により対応していくと共に、裁判外での迅速な問題解決手段を活用すると良いでしょう。

個人情報の保護に関する法律
第五十六条
第三十四条第二項又は第三項の規定による命令に違反した者は、六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
第五十七条
第三十二条又は第四十六条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、三十万円以下の罰金に処する。

住民基本台帳法
第三十条の四十三(住民票コードの利用制限等)
市町村長等以外の者は、何人も、第三者に対し、当該第三者又は当該第三者以外の者に係る住民票に記載された住民票コードを告知することを求めてはならない。
2  市町村長等以外の者は、何人も、その者が業として行う行為に関し、その者に対し売買、貸借、雇用その他の契約の申込みをしようとする第三者若しくは申込みをする第三者又はその者と契約の締結をした第三者に対し、当該第三者又は当該第三者以外の者に係る住民票に記載された住民票コードを告知することを求めてはならない。
3  市町村長等以外の者は、何人も、業として、住民票コードの記録されたデータベースであつて、当該住民票コードの記録されたデータベースに記録された情報が他に提供されることが予定されているものを構成してはならない。
4  都道府県知事は、前二項の規定に違反する行為が行われた場合において、当該行為をした者が更に反復してこれらの規定に違反する行為をするおそれがあると認めるときは、当該行為をした者に対し、当該行為を中止することを勧告し、又は当該行為が中止されることを確保するために必要な措置を講ずることを勧告することができる。
5  都道府県知事は、前項の規定による勧告を受けた者がその勧告に従わないときは、都道府県の審議会の意見を聴いて、その者に対し、期限を定めて、当該勧告に従うべきことを命ずることができる。

(3)委員会の委員長等に対する罰則

委員会の委員長等に対する守秘義務違反
委員会の委員長、委員又は職員等が職務上知り得た秘密を漏らした行為

★作者コメント
第三者機関である委員会には、国民や議会からの監視と共に、守秘義務等を課する必要があります。職務怠慢行為(不作為:するべきことをしない)などについても、国民からのアプローチにより何らかの是正措置が取れるようにすると良いでしょう。

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
第三十九条(秘密保持義務)
委員長、委員及び公正取引委員会の職員並びに委員長、委員又は公正取引委員会の職員であつた者は、その職務に関して知得した事業者の秘密を他に漏し、又は窃用してはならない。
第四十五条(違反事実の報告、探知)
何人も、この法律の規定に違反する事実があると思料するときは、公正取引委員会に対し、その事実を報告し、適当な措置をとるべきことを求めることができる。
2前項に規定する報告があつたときは、公正取引委員会は、事件について必要な調査をしなければならない。
3第一項の規定による報告が、公正取引委員会規則で定めるところにより、書面で具体的な事実を摘示してされた場合において、当該報告に係る事件について、適当な措置をとり、又は措置をとらないこととしたときは、公正取引委員会は、速やかに、その旨を当該報告をした者に通知しなければならない。
4公正取引委員会は、この法律の規定に違反する事実又は独占的状態に該当する事実があると思料するときは、職権をもつて適当な措置をとることができる。